ラッシャーみよしの「エロ業界栄枯盛衰物語」第14回:1990年

「BUKKAKE and Gokkun!!」 記念すべきザーメン文化の発祥


itsukimariko.jpg1989年にデビューした樹まり子。瞬く間に超人気AV女優に!


 さて、1990年にぼくは何をしていたのかなあ…。確か前年にAV監督デビューしたのですが、AVを撮りたくて、メーカーの人たちと会うたびに「監督をやらせてください、ワンワンッ!」と熱心に営業をしていました。しかし、未経験のためにいつも門前払い。

「ラッシャーさんがスケベなのは認めるけど、それだけで監督はできないからねぇ……」と言われて、あとは世間話になってしまうのが常だったわけです。

 ところがそんなある日、ぼくに監督をやらせてくれるという奇特な人が現れました。それは、シークレットという小さなメーカーのプロデューサー、芳賀栄太郎さん。

 会話はいつものように、「う~ん、ラッシャーさん、監督したことないんでしょ? 無理でしょ」で始まったのですが……。

「タダでもいいですから!」(ぼく)

「なに、タダ? わかりました、すぐにお願いしましょう」(芳賀さん)

 タダが大好きな芳賀プロデューサーのおかけでぼくは晴れてAV監督となりました。すぐに同メーカーからザーメン物を出し始め、それが後に一つの大きなジャンルとなったわけですから、彼は日本のザーメン文化における影の功労者。スペルマ界のメディチ家だったと言えるわけですね。


 そして、90年。撮るAV、撮るAV、ザーメン物でした。今でこそザーメン物というのはAVの主力ジャンルの一つで、ファンの人にとっても当たり前のように受け止められていますが、当時の業界での反応は今と全く違いました。

 まず基本的に、「なにそれ?」ですね。雑誌でのエピソードになりますが、「ザーメン物をやりたい」といくつかの出版社に打ち合わせに行ったところ、こんなことを言われました。

「ザーメンって…。あなた、そんなものホモの人しか見ないでしょ」

 ぼくは口をすっぱくして説明します。

「だからぁ、ザーメンそのものがエロいという本じゃなくて、ザーメンのかかった女の人がエロいなあ……という企画なんですってば!」

「でも、ザーメンの写真がいっぱいでしょ。おおっ、気持ち悪い!」

「だからぁ!」

 AVでも似たような状況でした。何よりも大変だったのが、女優さんの事務所への電話。

「えっと、内容は顔射なんですけど」

「そんなのできる子うちにはいないよ」

「できればゴックンとか…」

「はあっ? そんな変態いるわけないだろ!」

 しかし、いくつかのメーカーがザーメン物を出し始め、マニアの間で人気を呼び始めます。そしてついに、90年に一本のAVが登場したのです。

 安達かおる監督による『ジーザス栗と栗鼠スーパースタースペシャル2 樹まり子』(V&Rプランニング)。


pakemariko.jpg『ジーザス栗と栗鼠スーパースタースペシャル2 樹まり子』(V&Rプランニング)

 

 10数人の男優のチンチンを、女優が次から次におフェラして抜き続け、顔中を精子でドロドロにしてヘロヘロになるというハードな内容でした。シリーズとしては『ジーザス栗と栗鼠スーパースター 後藤沙貴』から『ジーザス栗と栗鼠スーパースタースペシャル1 山本なつき』まですでに4タイトルが発売されていましたが、当代一の人気女優に、当時の感覚では「とてつもなくハード」なことをさせたということで拍手喝采。シリーズの人気を定着させる作品となりました。

 以降ザーメン物は次第に世間で認知されるようになり、セルビデオの時代になると「ぶっかけ」物が大流行。ブームは海外にも飛び火し、「BUKKAKE」という英単語までできてしまったのは周知の通り。

 ザーメンまみれの90年でした。

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【第2回】 エロ・パンデミック前夜(1979年)
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