時間ちょうどに現れたエリちゃん。マスクをしているので顔の下半分は不明だったが、もらった写メの通りの雰囲気だ。
さらに体型はスレンダーで、着衣の状態でもエロそうな雰囲気が漏れ出ていた。
マスクで隠れているとはいえ、鼻の下が伸びないよう気をつけながら彼女に話しかける。
「こんにちは、エリちゃんだよね?」
「あ、はい。ショーイチさん?」
「うん。さっき【イククル】で約束させてもらったショーイチだよ。今日はよろしくね」
「はぁ、良かったぁ」
「え?」
「どんな人が来るのか少し怖かったんです」
「でも、写メを送っていたよね?」
「はい。それでもちょっと怖くて…」
「そうだったんだ。で、実物の俺はこんな感じだけど、大丈夫そう?」
「もちろんです。優しそうなのでほっとしました」
「それは光栄だな。でも、優しい以上にエロいけど平気かな?」
「フフ、自分でエロいとかいう人って、あんまりいませんよ」
「そうかもしれないけど、後でエリちゃんに後悔してほしくないから正直に伝えておきたいんだ」
「はい。それも優しさですね」
「ハハっ。そ、そうかもしれないね。と、とりあえず立ち話じゃなくて歩きながら話そうか?」
「はい」
こうしてホテル街に向かうことになった。その道中は彼女に嫌われないよう無難な世間話に終始する。紳士的な振る舞いを装いながらエスコートすることも忘れない。
そして目的地のラブホテルに到着。いつも利用しているラブホより1.5倍くらい料金が高いところだ。
部屋に入り、彼女がようやくマスクを外す。貰っていた写メ通りの顔で、一目見た途端先走り液がダダ漏れ状態に。
クラっ!
眩暈で視界が歪む。これは久しぶりのアレだ。
走馬灯のように筆者の過去の映像が脳内に浮かぶ。全て二度と思い出したくない嫌なシーンばかりだ。だが、エリちゃんと出会った後なので、それらの思い出全てを肯定できてしまう。
嗚呼、死ぬほど嫌な経験を何度も何度もしてきたけど、俺の人生はこの時のためにあったんだ。過去の経験よ、ありがとう。そのおかげで、今の俺はこんなにも幸せだよ。
惚れっぽい筆者だが、この走馬灯が走ったのは久しぶりだ。東日本大震災があった年の9月に当時36歳の人妻と出会った際に走ったのが最後なので、約10年ぶりだ。
「写真で見るより何倍も綺麗だね」
「え?」
「美人なのは分かっていたけど、ここまで綺麗だとは思わなかったよ」
「う、嘘です。わ、私みたいなブチャイクにそんなこと言うなんて」
自分のことを“ブチャイク”と表現するエリちゃん。これは謙遜ではなく、本当にそう思っているのかもしれない。
確かに、彼女の顔は世間一般で言うところの美女とは微妙に違う。愛嬌のある“おかちめんこ”の顔をなんとか整えたといった感じかもしれない。
だが、筆者はその危うい感じの美にどうしても惹かれてしまう。言葉では上手く表現できないので、本能的に好きな顔としか言えないのだ。
このままエリちゃんを褒めちぎっても逆効果になる恐れがある。こうなったら素直に伝えるのが一番のはず。
「美人って言い方が違うのかも。エリちゃんの顔は俺がとっても好きな顔なんだ」
「え?」
「だから、俺にとってエリちゃんは美人で綺麗で素敵な人なんだ」
「ちょ、ちょっと褒め過ぎです」
「誤解しないでね。嘘をつくのが嫌だから正直に伝えてるだけなんだよ」
「も、もう。そういう事、たくさんの女性に言ってるんじゃないですか?」
「言ってないって。俺のことを全部信じてとは言わないけど、今日エリちゃんと会ってから一度も嘘をついていないよ」
「わ、分かりました…」
このまま勢いに任せ、正式に交際を申し込みたくなってしまった。
しかし、これ以上変なことを口走ってしまったらエリちゃんに嫌われるかもしれない。結局エロ話は一切できず終いとなった。