セックス体験談|恋人がいる寂しさ#2「愛に飢え」

隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#2「愛に飢え」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


※「恋人がいる寂しさ」#1はコチラ

 新宿東口の地下改札口。

 スーツを着た社会人とおしゃれな洋服を着た若者たちが誰かを待ち、改札を通る人並みを眺めている。誰かを待つ人、これから電車に乗る人、改札から出てきた人、駅構内を移動にために横切る人。ここにはたくさんの人がいる。その人の多さに吐き気がした。

 人混みから避けるために、スーツを着た僕は改札から少し離れたところにある階段の隅に立った。就活を終えて約1年が経った社会人1年目の9月、僕はまだスーツを着こなせないまま、社会人と学生が入り乱れた街に居る。

 学生の頃はよく新宿で酒を飲んでいたな、と何気なく思い出す。あの頃は何も考えず、好き勝手に酒を飲んでいた。自分には仲間がいる、そして未来がある。そんなキラキラとしたものに囲まれながら、楽しく酒を飲んでいた。

 しかし社会人になると学生の頃の友達に会うことも少なくなり、新宿に来ることは少なくなった。久しぶりに見た新宿は何も輝いていない。ただ人が多いだけだ。

 それでも、心はかすかに高揚していた。なぜなら、今日は久しぶりの女性とのデートだからだ。しかも居酒屋デート。女性とお酒を飲むのは久しぶりだ。それだけで、僕の気分は簡単に高まってくれる。

 

「隔たりくん?」

 

 俯いていた顔を上げると、目の前にすらっとしたスタイルの女性がいた。瞬間的に「綺麗だ」と思った。女性に対して「綺麗」という感情を抱くのは久しぶりだった。

 社会人になると、仕事ばかりの日常が始まった。生活の中で会う女性は、職場の人だけになった。僕の働いている職場には若い女性がおらず、全員30歳を超えていた。ほとんどが主婦のおばさんだった。そんな環境にいたからか、久しぶりに会った目の前の女性はとても美しく見えた。

 

「詩織さん、久しぶり」

 

 彼女と会うのは、就活の説明会で会った時以来で2回目だった。初めて会ってから約1年半が経っている。あの時、詩織はスーツを着ていた。私服姿の詩織を見るのはこれが初めてだ。

 詩織は黒のタイトニットにスキニージーンズを履いていた。スタイルの良さがよくわかる。スーツ姿の時もスタイルが良いと思ったが、今日はさらに足が長く見えた。胸の膨らみやくびれの曲線、すらっと長くて細い手足。これまで様々な女性と会ってきたが、その中でもここまでスタイルの良い子はなかなかいなかった。

 僕は自分の姿を確認する。就活の時からずっと使っているシワのついただらしないジャケット、サイズの大きいダボっとしたズボン、そして踵のすり減った磨かれていない靴。詩織の姿が美しい分、自分の格好が恥ずかしくなってきた。

 そんな僕をよそに、詩織は久しぶりという感じを見せず、いつも会っている友達のようなラフさで話しかけてきた。

 

「隔たりさんは今日、仕事だったんですか?」

「うん。そうだよ。詩織さんは休み?」

「はい、今日は休みでした」

「そうなんだ。休み中にごめんね」

「いえいえ、大丈夫ですよ。暇だったんで」

「ごめんね。それじゃあ、行こうか」

 

 階段を登って地上へと出る。そこにも誰かを待っている社会人や学生がたくさんいた。僕はその人混みの中を詩織と歩いて行く。すれ違う人、特に男たちがチラチラと詩織の方を見るのがわかった。その視線に僕は逃げ出したくなり、歩くスピードを速めた。こんなに可愛い子がなぜこんなにみすぼらしい男といるのだろうか、そう言われているようで嫌だった。

 

「隔たりさんのスーツ姿見ると、就活のこと思い出すなあ」

 

 怯える僕をよそに、詩織は明るい声でそう言った。詩織には今の僕が、あの大学生の頃と変わらない姿に見えているのだろうか。

 就活の時の僕と今の僕。一緒なのはスーツをきていることだけで、中身は全く違う。会社に勤めたことで、僕は学生の頃に抱えていた輝かしい未来を失った。今、僕が持っているのは自分の無力さと情けなさ、弱い心だけだった。

 それでも就活の頃に出会った詩織という存在が、少し僕を学生の頃の気持ちに戻してくれる。

 

「就活ね、なんか難しかったよね」

 

 僕は学生時代の自分を思い浮かべながらそう言った。

 

「そうですよね。もう就活なんてしたくないですもん! 私、いろいろ受けたんですけど…」

 

 詩織は目的地の居酒屋に着くまでの間、自身の就活の話をしてくれた。

セックスコラム「恋人がいる寂しさ#2」~愛に飢えた女と男~の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

 初めて会った時も思ったが、詩織は綺麗でおしとやかな見た目をしてるのに、意外と自分のことをよく喋る。僕は詩織の話を「うんうん」と相槌を打ちながら聞いていた。詩織が楽しそうに話すので、僕もだんだん楽しくなってきた。

 詩織と出会った時の就活生の頃の自分に戻っていくような感覚だった。嬉しかった。

 まだ会ったばかりなのに、この瞬間がずっと続いて欲しいとさえ思った。明日になったら、また職場に行かなければならない。それは嫌だ。この瞬間がずっと続いて欲しい。

 詩織の就活話を聞いていると、あっという間に目的地についた。エレベーターに乗って、予約した居酒屋の入っている7階を目指す。詩織とエレベーターに乗るのは説明会以来だなとぼんやり思った。

 あのエレベーターはものすごく綺麗で大きなエレベーターだった。今乗っているエレベーターは5人くらいしか乗れない。だが、今乗っているエレベーターの方が僕は好きだ。狭いからこそ、詩織を身近に感じることができるから。

 レジにいる店員に予約した名を名乗り、席に案内された。通された席はカウンター席だった。

 僕が右側に座り、詩織が左側に座る。そしてビールをふたつ注文し、ジョッキが運ばれた後、乾杯した。

 

「詩織さん、内定おめでとう!」

「え、もう働いてるよ?」

 

 詩織はビールを手に持ちながら不思議そうに笑った。

 

「就活の時に出会った仲だから、今更だけどちゃんとおめでとうを言いたくて」

「えーなんかありがとう。じゃあ、隔たりくんもおめでとう」

「おめでとう…なのかな」

「あ、やっぱりお仕事大変?」

「大変というか、悩むことが多くて。だから今日は詩織さんに会えてよかった」

「よかった?」

「うん。職場はおばさんばっかだから。久しぶりに可愛い子に会えてテンション上がってる」

「可愛いって、恥ずかしい」

「いや可愛いって。だから、この出会いに乾杯!」

「なんかよくわかんないけど…かんぱーい!」

 

 キンキンに冷えたグラスに入ったビールを、僕はゴクゴクと体に流し込む。シュワシュワとした炭酸の泡が喉を刺激した。快感だ。この一瞬の快感が仕事の辛さを忘れさせてくれる。そして後々、このビールの中に入っているアルコールが、現実を楽しいものに変えてくれるのだ。

 

「隔たりさん、飲みっぷりいいですね」

 

 グラスを片手に持ちながら、詩織が微笑む。

 

「まあね。今日めっちゃ飲みたい気分だったから」

「そうなんですね。何か嫌なことでもあったんですか?」

「いや、嬉しいことがあったからだよ」

「嬉しいこと? なんですか?」

「詩織さんに久しぶりに会えた」

 

 僕はそう言って、再びビールを体に流し込む。ジョッキはあっという間に空になった。追加を頼む。

 

「じゃあ、私も今日は飲もう」

 

 そう言って詩織も僕と同じようにビールをゴクゴクと飲んで空にし、追加を頼んだ。

 

「詩織さんも何か嬉しいことがあったの?」

 

 僕は意地悪にそう尋ねた。

 

「えーっと、私は嫌なことがありました」

 

 詩織は満面の笑みでそう言った。発言と表情が真逆で、思わず僕は彼女を見た。目が合い、少し沈黙の後、僕らは同時に大笑いした。

 

「もちろん、隔たりさんに会えたのが嬉しくないわけではないですからね? 単純に嫌なことがあったというだけで」

「そうなんだ」

「だから隔たりさんの飲みっぷりを見て、私も飲もうと決めたというか。もう、嫌なことがあった時って、酒に頼るしかないじゃないですか」

 

 学生の頃、お酒は楽しいものだった。仲の良い友達とたくさん酒を飲み、酔っ払う。喜びを語り、出会いに感謝する。お酒は人と人の心を深く繋げるものであり、同時にその瞬間を楽しむためのものだった。

 しかし、社会人になるとお酒の飲む理由が変わってしまった。仕事のストレスを発散するために飲む。しんどい現実から目をそらすために飲む。どんなに酒を飲んでも翌日には何も変わっていない現実が待ち受けているのに、社会人になった僕はそういった理由で酒を飲んだ。

 酒の飲む量は学生時代と比べて劇的に増えた。そして酒を飲んで現実逃避をすればするほど、翌日、会社に行かなくてはならない絶望にぶち当たった。

 だから、詩織が言った嫌なことというのは仕事のことだと思っていた。しかし、それは違った。

 

「もう彼氏のことがよく分からなくて」

「彼氏? あ、まだ付き合ってるの」

 

 1年半前に出会った時から詩織には彼氏がいた。彼氏がいると知りながら、僕は詩織との関係を終わらせたいと思い、連絡先を聞いたのだった。

 

「うん。付き合ってるんだけど、よくわからないというか、かまってくれないというか…」

「かまってくれない?」

「彼も今年から社会人なんだけど…休みはあるはずなのに全然会ってくれなくて。だいたい会うのは1ヶ月に1回くらい。でも、会っても全く話さないの」

「全然会えてないのに、会話もないってしんどいね」

「そうなの。倦怠期っていうのかな。だから今、なんで付き合ってるんだろうとか、彼は何を思っているんだろうとか考えるとしんどくなっちゃって。別れた方がいいのかなとか、ぼんやりとした悩みがずっと消えないの。それが嫌で」

 

 追加したビールがテーブルに置かれる。それを詩織は再びゴクゴクと飲んだ。

 

「あー美味しい。そういえば、隔たりくんは彼女さんとどうなの?」

「あれ、彼女いるなんて言ったっけ?」

「うん。ほら、電車を降りる時、私が聞いたら答えてくれた」

 

 1年前の光景が蘇る。就活で詩織と出会い、僕らは帰るために同じ電車に乗った。そして新宿駅に着いて僕が降りようとした時、詩織が突然「隔たりくんは彼女いるの?」と聞いてきたのだった。

 

 そうだ。僕はその時、「いるよ」と答えた。そしてその答えを聞いた詩織は、なぜかホッとしたような表情を見せたのだ。あの笑顔は一体どういう意味だったのだろうか。

 

「えっとね、まだ付き合ってるよ」

「そうなんだ。順調?」

 

 おそらく無意識ではあるだろうが、詩織が体をこちらに近づけてきた。タイトニット越しに膨らんだ胸が目に入る。決して大きいというわけではない。大きさでいえば、今も付き合っている彼女の方が大きいだろう。でも今は、彼女の大きい胸よりも、詩織の胸の方が触りたいと思ってしまう。酔っているからなおさら。

 

「順調じゃないよ、全く」

 

 そう笑って僕はビールを流し込んだ。最初の1杯の1口目の突き抜けるような爽快感はもう薄れていて、ビール特有の苦味が口の中に広がる。

 

「詩織さんとほとんど一緒の状態だよ」

 

 働き始めてから人生に絶望する回数が増えた。自分はなんてダメなやつなんだと自己嫌悪に陥ることも増えた。学生の頃に持っていた、この社会をうまく渡っていけるだろうという自信はこれっぽっちも残っていなかった。

 平日の5日を耐えるように働き、土日の2日休みは現実逃避するように彼女と会った。しかし、彼女と会ったからといって何をするわけでもない。僕はただ心を休ませたいだけで、どこにも行きたくなかった。デートを楽しめるほど、心に余裕がなかった。寝たかった。自分は今安全な場所にいるのだと安心したかった。

 しかし、5月、6月と日が進むにつれ、あからさまに彼女の機嫌が悪くなっていった。そして7月になるとついに、彼女はそのイライラを僕にぶつけてくるようになった。

 僕が彼女をデートにも連れて行かず、部屋でダラダラしているばかりだから、彼女がイライラしてしまっているのはわかっていた。しかし、じゃあ何をすればその状況を変えることができるのか、僕にはわからなかった。

 気づけば、彼女をイライラさせてしまっている自分も責めるようになった。心休まる安全な場所が、僕の世界から消えてしまった。

 そんな日々が変わらないまま、8月になった。会社から夏休みをもらえたので、僕は彼女を旅行に誘った。これを機に、彼女ともう一度いい関係になれたらいいなと思っていた。

 けれど僕の願いに反し、彼女は旅行中もずっと機嫌が悪かった。楽しもうという気持ちすら見えず、

 

「本当はあそこに行きたかった」

「ご飯全然美味しくない」

「もっと綺麗な部屋が良かった」

 

 とチクチクと文句を言ってくるだけだった。僕は辛かった。なぜ、せっかく取れた夏休みに、会社のことを忘れられる旅行なのに、こんなに責められなければならない。上司からも彼女からも責められる。僕はもう現実から逃げ出したかった。

 1ミリも楽しくない、ただ指摘ばかりされる旅行が終わった後、ついに彼女は僕にこう言った。

 

「昔のあなたはもっとカッコよかった。今のあなたはオドオドしてて全然カッコよくない。見てると…イライラする」

 

 彼女とは学生の頃から付き合っていた。学生の頃の僕は自信を持っていた。なんだかんだ、全てがうまくいくと思っていた。

 しかし、社会人になってその自信はあっけなく砕かれた。会社に行きたくないと、臆病者になった。彼女はそんな僕の変化に対し「イライラする」と言った。

 彼女は学生の頃の輝いていた僕を好きになってくれたのだろう。僕はその言葉を聞いて、ただただ「申し訳ない」と思った。こんな自分になってしまって申し訳ない、と。

 そして、僕はそんな自分をさらに責めた。彼女と一緒にいると、どんどん自分を責めて苦しくなった。一緒にいると、彼女もイライラさせてしまう。だから一緒にいない方がいい。

 僕は彼女と距離をとった。約1ヶ月、連絡を取ってない。夜の営みなんてものはもう、社会人になってから1度もしていない。いや、もっとだ。1年半前に詩織と出会った就活中からも1度もしていなかった。

 仕事も恋も全くうまくいかなくてしんどい時に、詩織からラインが届いたのだった。

 

「お久しぶりです。覚えてますか?」

 

 詩織からきたラインはそんな他愛もないものだったが、僕は嬉しかった。こちらを責めるようなニュアンスのこもってない、ただの普通の文章。それが僕を安心させた。

 自分を責めない人間はちゃんとこの世に存在する。

 大げさにもそう思ったほどだ。

 僕は詩織に会いたいと思った。会社の人でもない、学生時代の友達でもない、恋人でもない詩織と話したいと思ったのだ。

 

「そういうことがあった時に、詩織さんからメッセージが来たんだ。だから嬉しかった」

「そんなことがあったんだね」

 

 詩織はビールを飲み、優しい目でこちらを見た。

 

「隔たりくんの気持ち、ちょっとわかるかも」

「え」

「私の彼もイライラすることが多かったから。その時はいつも私がイライラさせてるんだって、自分を責めてた」

「そうだったんだ…俺たちってなんか似てるのかもね」

 

 似ている、と口にした時、急に詩織との距離が近くなったように感じた。詩織のジョッキを持っていない右手が、机の上に置かれている。もっともっと詩織と近づきたい。

 

「そうだね。似てるかも」

 

 僕もジョッキの持ってない手を机の上に乗せた。

 

「こういう話をしていいのか分からないけど…夜の営みも全くなくてさ。そういうのがあったら、まだ俺のこと好きでいてくれてるんだなって思えたのかもしれないけど」

 

 手を少しづつ詩織の手に近づける。

 

「なんで俺はこの子と付き合ってるんだろう。なんで一緒にいるんだろうって思ったら、なんか悲しくなっちゃった」

「私も…そう思う」

 

 詩織の口から言葉がこぼれた。

 

「私も…半年以上かな、そういうのなくて」

 

 半年以上、彼氏とセックスしていない詩織。

 

「それも同じなんだ。俺は…もっとか…」

 

 1年半以上、彼女とセックスしていない僕。

 

「私たち、ほとんど一緒の状況だね」

 

 そんな二人が今、一緒に酒を飲んでいる。

 

「そういうことがないからなのか、私、最近思うんだけど」

 

 机の上に置かれた詩織の右手の小指に、僕の左手の小指がかすかに触れる。

 

「彼氏と一緒にいる時ほど、ものすごく寂しさを感じるんだよね」

 

 触れた小指は絡まることなく、そのまま僕らは残りのお酒を体に流し込んだ。気づけば、店に入ってから2時間程経っていた。

 

「そしたら、そろそろ出ようか」

「うん」

「あ、お会計俺払うよ」

「え、それは悪いよ」

「いいって。詩織さんが連絡くれたの嬉しかったから」

 

 半分払うよ、と言う詩織を制して会計を済ませた。そして小さなエレベーターに乗り、地上へと降りた。

 

「本当にお金払わなくて大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。酔っ払って気分もいいし、ここは男らしく払わせて」

「酔っ払ってるの?」

「ちょっとね。詩織さんは」

「…ちょっと酔っ払ってる」

 

 そう言う詩織の頬はほんのりピンク色に染まっていた。お酒のせいではあろうが、その表情は恥ずかしがっている子供のように見えた。

 

「ごめん、酔っ払いのせいにして、ひとつお願いしていい?」

「なに?」

 

 このまま詩織と別れるのは寂しい。今のこの辛い状況を、悲しさを、もっともっと詩織と共有して、慰め合いたい。

 

 僕は詩織の前に手を差し出した。

 

 その手をじっと見つめた詩織は恥ずかしそうに「こういうこと?」と言いながら手を握った。詩織の手は薄くて冷たかった。それは、詩織の冷えた寂しい心をあらわしてるように思えた。

 

「手、冷たいね」

「隔たりくんも冷たいよ」

 

 詩織はイダズラっぽく笑った。その笑顔を見て「帰りたくない」と強く思った。僕を見て、詩織が今、笑ってくれている。そんな暖かい空間を終わらせたくなかった。帰ってしまったら、またしんどい現実に戻ってしまう。

 帰りたくない。

 

「ちょっとさ、行ってみたいところがあるんだけど、いい?」

 

 詩織の返答を待たず、僕は手を引いて歩き始めた。

 

「え、どこ行くの?」

「ちょっと待ってね」

 

 詩織の手を引きながら、新宿の奥深くへと歩いて行く。騒がしい飲食街の明るさを抜けると、艶めかしいネオンを照らしたホテル街にたどり着いた。

セックスコラム「恋人がいる寂しさ#2」~愛に飢えた女と男~の画像2
※イメージ画像:Getty Imagesより

 僕はラブホテルの入口の前で止まり、詩織と向き合った。

 

「ここに、行きたい」

「え、ここは…」

「ごめん、まだ詩織さんと一緒にいたい」

 

 僕は真剣な眼差しで詩織を見つめる。

 

「…ちょっとだけね」

 

 ホテルの部屋に入ると、僕は詩織をそのままベッドに押し倒した。クジャクが羽を広げるように、長い髪がベッドの上に美しく広がる。詩織は顔を避けるように少し横を向いた。その横顔に、僕は自分の顔を近づける。

 

 「…だめ…」と、かすかな声が詩織の口からこぼれた。

 

 僕は聞こえていないふりをする。顔を近づけると、詩織は逃げるようにさらに顔を横に向けた。僕はその顔に手を添えて、掬い上げた。大した力をかけずとも、詩織の顔がこちらを向いた。目が合う。瞳は潤んでいる。可愛い。イライラした表情を見せる僕の彼女よりも、ずっと可愛い。

 

 寂しさと切なさを持った女性の表情は、今の僕にはたまらなく美しく見える。

 

「詩織さん」

 

 僕はゆっくりと唇を重ねた。詩織の唇は薄いが感触は柔らかく、女性特有の甘い匂いと共に、かすかに酒の味がした。

 

 唇を離して、再び詩織を見つめる。

 

「キス…しちゃったね」

「…ずるい」

「詩織さん」

 

 僕は再び唇を近づける。

 

「さん付けやめて…。詩織って呼んで」

 

 僕は詩織の口をキスで塞ぎ、強く抱きしめた。激しく舌を絡ませ、強く、強く、何度も抱きしめる。仕事にも恋人にも自分にも絶望している日常を忘れさせてくれる、このすぐに消えてしまいそうなたった一瞬を逃さないために。

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隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#3「唇だけの夜」 隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 ※「恋人がいる寂しさ#1/#2」  重なるまでにどんなに時間がかかっても、一度触れ合ってしまったら、そのあとは磁石のように、何度も唇同士は重なり合う。  約1年半前に僕と詩織は知り合った。そしてその日以来、約1年半ぶりに会った、今日。それまで一度も重なり合うことのなかった唇は、触れた途端に、その空白の時間を埋めるように絡まり合っていく。  一度も入ったことのない、新宿歌舞伎町のラブホテル。詩織との時間を終わらせたくなくて、何も調べず、ただ勢いだけで入った場所。ただベッドが置いてあるだけの狭い部屋だ。きらびやかな外観に比べ、部屋の中はそこまで綺麗ではない。年季を感じる。ただ、セックスするためだけの空間。その空間の中で、彼氏のいる詩織と、彼女のいる僕が、キスを交わしてる。  彼女に対する後ろめたさとか、詩織の彼氏に対する罪悪感みたいなものは、一切ない。  彼女といる時、僕はずっとしんどかった。だから仕方ないじゃないか。そんな投げやりな想いが体を支配する。自分の心を苦しめてまで作り上げなければならない愛の形などあるのだろうか。  僕は自分が被害者だと思っている。いや、被害者でありたかった。そして詩織のことも被害者であると捉えたかった。実際に詩織が彼氏とどんな関係であるかはわからない。でも、詩織が被害者であれば、僕と同じ立場になる。同じ立場だから分かり合える。傷を癒し合える。  ただ目の前の詩織だけを見て、現実逃避をするかのように、僕はただただキスに溺れていく。   「詩織…」    僕はベッドに押し倒されている詩織にキスの雨を降らした。詩織はそれをただ受け入れているだけであったが、拒みもしなかった。  僕が舌を出せば、詩織も舌を出し、絡ませてくれた。僕は柔らかな詩織の舌を舐め、吸う。ザラザラとした舌の表面同士が触れ合うたびに、電気が流れるようなゾクゾクとした快感が身体中を駆け巡った。久しぶりの味だった。久しぶりの、キスの味。   「ごめん、止まらなくて」 「ううん。大丈夫」 「久しぶりで」 「…」 「詩織は…久しぶり?」    詩織は何も言わずコクリと頷いた。唇は僕の唾液で少し光っている。その輝きが、詩織とキスをしたのだという事実を、客観的に自分に認識させた。   彼氏のいる子とキスをした。    これまでも彼氏のいる女の子とキスをしたことはある。どの女の子も彼氏との関係に寂しさを抱いていて、その寂しさを埋めたがっているように見えた。まるで僕に彼氏の姿を投影しているような、そんな感覚があった。  だがしかし、今回はいつもと状況が違った。確かに詩織には彼氏がいて、これまで出会った女の子と同じように寂しさを抱いている。違うのは、僕にも彼女がいるという点だ。今まで彼氏のいる子とセックスをしてきた時は、僕自身に恋人がいなかった。  だから初めてなのだ。互いに恋人がいる状態でキスをするというのは。  これは互いに、互いの恋人を投影しているのだろうか。恋人とそういうことができない寂しさを、互いの体を使って満たしているだけなのだろうか。僕らは互いの恋人の代わり、ただそれだけなのだろうか。   「詩織…キスして」    詩織がどう思っているかわからない。だが、僕自身に関しては「違う」という感覚が確かにあった。  彼女とセックスできないから、詩織に彼女を投影しているわけではない。そういう気持ちが全くないとは言えないかもしれないが、確かに今、僕は詩織とセックスしたいと思っている。恋人のいるいないは別として、詩織という女性とセックスしたいと思ってしまっている。それぐらい、詩織には魅力があった。   「え…恥ずかしいよ…」    僕が見つめると、詩織は恥ずかしそうに目をそらした。僕は再び詩織の頬に手を当て、すくい上げるようにこちらを向けさせる。そして再び自分の唇を詩織の唇の上に落とした。   「んっ…」    キスをしながら、手を詩織の腰へと移動させる。そして体の曲線をなぞるように登っていき、優しく膨らんだ胸に触れた。   「ダメ…」    詩織の手が僕の手を抑えてくる。でもそこに力はない。僕はキスで口を塞ぎながら、詩織の手に抑えられたまま、胸を揉んだ。   「んっ」    胸を揉みながらキスを続けていると、だんだんと詩織の呼吸が荒くなった。蛇のように、体がクネクネと動き始める。その動きと同じように、僕の体もクネクネと動く。熱くなった下半身が、詩織の太ももに擦られた。僕も硬くなったモノを詩織の太ももに擦り返した。  唇を離すと、舌と舌の間にツゥーっと糸が引いた。その糸は照明に照らされ、輝く。僕と詩織をつなぐか細い糸。互いに恋人がいたって人間は他の人と繋がれてしまうという事実を、美しく切り取ったかのように伸びていた。  その糸に引っ張られるように、再び唇は詩織の上へと落ちる。ホテルに入ってからどれくらいの時間、キスをしただろうか。確実に時間は進んでいるはずなのに、唇が触れている瞬間だけ、時が止まったような感覚になる。現実世界がぼやけていき、もう何も考えられなくなった。  一生キスをし続ければ、僕らは何も悩むことなく幸せに生きていけるのではないか。  そう大げさに思えるほど、僕は深く詩織の中に落ちていく。  もっと、もっと、深いところまで。もっと、もっと、繋がりたい。  僕は胸を揉んでいた手を離し、詩織のタイトニットの中に入れようとした。  しかし、その手を詩織は再び抑えてきた。また形だけだろう。そう思って手を握られたまま服の中へと入れようとしたが、この雰囲気には似つかわない力強さで詩織は僕の手を握った。  僕は唇を離し、顔を上げて詩織を見つめる。詩織の目はトロンとしていたが、さっきまで重なっていた唇は固く閉ざされていた。唇と唇の間にはもう、糸は引いていない。潤んだ瞳で詩織は何かを訴えるように首を横に振った。   「それはダメ」    一瞬、時が止まった。それは先ほどまで感じていた、時間概念が消えて世界から二人だけが切り離されたような感覚ではない。何かが断ち切られてしまったような、そんな止まり方だった。   「えっ」    思わずそう声が漏れた。こんなにいい雰囲気だったではないか。服の上から触るのと、直接触ることの何が違うのか。そんな疑問を飲み込み、僕は詩織にお願いする。   「直接触りたい…ダメかな?」 「…ダメ」    女性の「ダメ」という言葉は難しい。「ダメ」と言うのは自分が「軽い女」と思われたくないからだけで、本当はダメじゃないこともあると聞く。むしろそこで手を引いてしまうと、「察せない男」とレッテルを貼られてしまうことだってあるらしい。  かと言って、本当にダメなことだってある。ダメと言われているのに、「女のダメはダメじゃない」と思い込んでやってしまうと、本当に嫌がられ傷つけてしまうことだってある。女性の本音を察するのは、男にとっていつも難題だ。   「それは…どっち?」    詩織の「ダメ」がどっちの意味かわからないから、僕は聞いてしまう。でも、「ダメ」と言った女性が素直に「ダメって言ったら、それはしても良いってことなの」と説明してくれるわけがない。返ってくるのは同じ「ダメ」という言葉だけだ。   「直接触るのは…ダメ」    案の定、詩織からも想像通りの答え返ってきた。なぜ、直接胸を触ることがダメなのだろうか。僕らはもうすでに、互いに恋人がいるのにキスをするという、ダメなことをしているではないか。その線引きはなんなのだろう。キスは良くて、服の上から触るのは良くて、直接胸に触れるのがダメな理由を、教えて欲しい。   「わかった」    教えて欲しいと思いながらも、僕はけっきょく受け入れてしまう。女を傷つけてしまう可能性がある方が嫌だ。相手の願いを叶えることよりも、僕は相手が傷つかない方を優先してしまう。僕は臆病なのだ。   「それなら」    詩織が何を思っているのかはわからない。しかし、僕は僕が何を思っているのかは知っている。ならば、僕の願いを詩織に伝えよう。   「詩織の胸を直接触るのがダメなら、俺のを…直接触って欲しい」    僕は詩織の手を持って、大きくなったモノをズボンの上から触れさせた。詩織はそれを拒まなかった。   「…大きくなってる」    抱きしめ合いながらキスをした時、大きくなったモノは詩織の太ももに当たっていた。それに気付いてないはずがなかろう。それなのに、詩織は初めて気付いたというようなリアクションを見せた。女性の気持ちを理解することは難しい。  でも、その難しさが女性の魅力を作っているのかもしれない。素直に気持ちを言えないところを、僕は可愛いと思ってしまう。僕はもう、女性という蜘蛛の巣にかかっているのだ。僕が詩織を持ち帰ったと思っているが、本当は逆なのかもしれない。詩織が張った巣の中で、僕は踊っているだけなのかもしれない。  それでいい。女性に弄ばれることは快感だ。早く、モノを弄んで欲しい。   「じゃあ、脱ぐね」    僕はベッドに寝転がってズボンを脱いだ。詩織は「脱がないでいいよ」とか「ダメだよ」とも言わず、僕がズボンを脱ぐ姿を体を起こしてただただ見ていた。  パンツだけになると、モノは飛び出しそうなほど大きくなっていた。テントを張ったその頂きを、詩織は不思議なものも見るような瞳で見つめている。   「触っていいよ」    その頂きをゆっくり登るように、詩織はモノの根元から手を沿わせた。指がモノの形にまとわりついていく。布一枚を通して伝わる詩織の手の感触に、モノはさらに大きくなっていく。   「うわぁ」

(文=隔たり)

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