セックス体験談|恋人がいる寂しさ#1

隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#1

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


 頑なに閉じられていたガラス細工のように細く美しい脚が、ついに開いた。

 

「いいんだよね?」

 

 長い黒髪が無造作にベッドに広がっている。

 

「うん」

 

 バレリーナのようなすらっとした腕を曲げ、女は眠るように顔を隠す。

 

「わかった」

 

 安っぽい電球によって照らされたベッドの上。日焼けなど一度もしたことがなさそうな真っ白な肌をした女が、脚を開いて静止している。

 

「早く」

 

 女に促され、僕は慌ててラブホテル特有の照明パネルの横に置いておいたコンドームを手に取る。

 

「ちょっと待ってね」

 

 僕は急いで封を切り、コンドームをモノにかぶせた。

 

「早く」

 

 女は微動だにしないまま声を出す。僕は広げられた脚の間に入り、その中心部分にコンドームをかぶせたばかりのモノを当てた。

 

「じゃあ、入れるよ」

 

 女が腕で顔を隠したまま、コクリと頷く。なぜ顔を隠しているのか。眩しいからか、僕の顔を見たくないからか、わからない。

 モノの先端が女のアソコの中に入る。

 

「んっ」

 

 女の体が一瞬震えた。腕、胸、くびれ、脚。何度見ても飽きない、曲線が美しいすらっとした体。

 

「奥までいくね」

 

 モノをゆっくりと侵入させていく。コンドームを突き破ってしまいそうなほどパンパンに膨らんだモノが、女の細い体に飲み込まれていく――。

セックス体験談|恋人がいる寂しさ#1の画像1
※イメージ画像:Getty Imagesより

 あともうすぐで最奥にたどり着く。そのとき女が両手で僕の体を抑えてきた。

 女の顔が照明に照らされる。女優の桐谷美玲のようなリス系の可愛らしい顔立ち。そうだ、この顔を見て、可愛いと思って、僕は声をかけたんだ。

 アソコの中でモノがさらに大きくなる。

 

「あんっ」

 

 この子と仲良くなりたい。あのとき想像していた以上のことが今、起ころうとしている。

 

「詩織」

 

 モノが奥深くにたどり着いたとき、僕は女の名を呼び、再び彼女の顔を見た。

 女は目をつぶり、歯を食いしばり、何かを堪えている。可愛い顔が歪んでいた。感じているのか、それとも泣いているのか。判断がつかないまま、僕は静かに腰を振り始めた。

 

※ ※ ※

 僕と詩織は、桜が散りかけた春の終わり頃、就職活動中に出会った。

 その日は風の強い日だった。地面に落ちた桜が風に吹かれ、舞っていた。その桜はビルだらけの無機質な街に彩りを与えていた。

 そんな美しい光景を横目に、まだ着慣れないスーツを身にまとった僕は会社説明会に参加するため、とある会社の高層ビルの中に入った。外装も内装も、会社のオフィスが入っているとは思えないほど綺麗に整えられている。おそらく働きやすい環境を作るためだろうが、僕には会社外への人間にアピールするための綺麗さにしか思えなかった。

 ビルの中には、僕と同じような格好をした就活生が何人もいた。ビルの中にはたくさんのスーツを着た人間が行き交っているのに、同じスーツを着ていてもひと目で就活生だと分かるのは不思議だと思った。就活生はみんな、スーツに着られているようだった。おそらく、僕も周りからそう見られていたのだろう。

 会社の人事部と思われる社員さんに誘導され、大人数が収容できるエレベーターに乗った。エレベーターの中は就活生でいっぱいになった。まるで同じ商品がひとつの箱に詰められて、ベルトコンベアで運ばれているようだ。その空間に僕は息苦しさを感じた。

 けれども、他の就活生はみんな緊張の色を顔に浮かべながらも、未来への希望に満ちあふれているようにキラキラとした表情をしていた。そんなポジティブな雰囲気がエレベーター内に充満していて、僕はさらに息苦しくなった。なんでこんなところに来てしまったのだろうか、と早く帰りたくなっていた。

 この頃、僕は就活というものに違和感を抱き、絶望していた。就活というものが、企業が会社の奴隷になる若者を探すためのシステムのように感じていた。僕は社会人になりたいだなんて1ミリも思わなかった。

 しかし、大学の友人は学校の授業を受けるように、当たり前に就活に取り組んでいた。僕はそんな友人たちを、皮肉を込めて「凄い」と思っていた。よくもそんなに真面目に取り組めるな、僕には出来ない、と。

 それでも僕は就職以外の道が分からず、結局みんなと同じようにスーツを着た。そして今日も、会社説明会に参加するために、みんなと同じようにエレベーターで運ばれている。

 説明会の会場の階に到着し、エレベーターを降りる。社員さんに誘導され、就活生が列になって会場へと向かう。僕もその列に組み込まれて中に入った。

 会場は400人ぐらい収容できるような大きな会議室だった。真っ白なテーブルがたくさん連なっている。それぞれのテーブルに就活生が8人ずつ座っていた。今日初めて会ったはずなのにテーブルでは楽しそうに談笑している。社員さんに案内され、僕と同じエレベーターに乗っていた就活生もそれぞれのテーブルに座った。

 僕も同じように、顔も名前も知らない就活生が座っているテーブルに案内された。そのテーブルにはすでに7人居て、席に着くのは僕が最後だった。先に座っていた就活生たちはすでに会話をしていて、疎外感を覚えた。早く帰りたいという気持ちが増していく。なぜ僕はここに来てしまったのだろうか。

 そう思いながら、カバンを床に置き、椅子に座って前を見た。すると、目の前に長い黒髪の肌が白い女性がいた。直感的に「可愛いな」と思った。その女性は俯いていて、このテーブルで唯一、会話に参加していなかった。それが詩織だった。

 詩織は居心地悪そうに、特に何をするわけでもなく下を向いていた。その光景が僕には不思議だった。なぜ、他の6人は詩織に話しかけていないのだろうか。真っ白な肌に長い黒髪、すらっとした体型、そして美しい顔。このテーブルの中で一番可愛い詩織に、なぜ声をかけないのか。そう疑問を抱いたが、だからといって僕が詩織に話しかけれるわけでもなかった。

 時間になると、企業がただ自分たちの良いところをアピールするだけの説明会が始まった。パワーポイントで作られた資料が、会社説明の内容とは一切関係ないアクロバットな動きを見せながら、資料が順々にスクリーンに映し出される。業界について、事業内容について。違う企業の説明会でも聞いたような、ありふれた内容だなと思いながらも、スーツに着られた僕は一生懸命聞くふりをしていた。

 資料を使った説明が終わり、グループワークの時間になった。スクリーンを見るために左を向いていた体を正面に戻すと、目の前にいる詩織と目があった。恥ずかしくなった僕は、すぐに目をそらした。

 人事部だと思われる社員さんの掛け声によって、各テーブルで自己紹介が始まった。

 

「た、滝野詩織です…よろしく、お願いします」

 

 詩織の声は緊張でかすかに震えていて、不安が混じっていた。

 社員さんの指示に従ってグループワークが始まった。資料を使って、実際の業務内容を体験してみようというものだった。僕と詩織以外の6人が楽しそうにワークを進めていく。就活にやる気のない僕と、緊張している詩織はただただ相槌を打っているだけだった。

 グループワークが終わり、各テーブルの成果発表の時間になった。どこのテーブルも楽しそうに成果を発表していく。その雰囲気は就活の会社説明会というよりも、忘年会のビンゴゲームのようだった。

 さらに優勝したグループには企業から何かプレゼントが送られていた。その光景を見て、会社が学生に向けての接待をしていると思った。気持ち悪かった。茶番だと思った。僕は一刻も早くその場を立ち去りたかった。

 それでも、僕はなんとか説明会終わりまで耐えることができた。それは、目の前に詩織がいたからだろう。僕はこの企業が何をしているかよりも、詩織のことが気になっていた。詩織と仲良くなりたいと思っていた。

 説明会が終わり、再び社員さんの案内に従って就活生が順々に会場を後にしていく。僕は詩織を見失わないように、彼女の後ろを歩いて会場を出た。そして詩織と同じタイミングでエレベーターに乗ることができた。

 エレベーターが1階につくと、ぎゅうぎゅう詰めにされていた就活生が、花火が打ち上がった時のような動きで広がっていく。僕は詩織を見失わないように、後ろ姿を見つめていた。僕は何がしたいのだろう。まるでストーカーではないか。そう思っていても動きは止められず、気付けば甘い蜜に誘われる蝶のように、僕は詩織の後を追っていた。

 詩織がビルを出た後、右に曲がった。僕は一瞬躊躇した。なぜなら、僕が家に最短時間で帰るには、ビルを出て左に曲がらなければならないからだ。

 それでも、考えるより先に体が動いていた。僕は右に曲がり、詩織の後を追った。何も考えていなかった。ただせっかく詩織と出会えたのに、ここでサヨナラするのは寂しい。その気持ちだけだった。

 そして、詩織の周りから就活生がいなくなった頃、僕は思い切って声をかけた。

 

「あの…滝野さん…だっけ」

「あ、一緒のグループの」

 

 いきなり声をかけて驚かれると思ったが、詩織は爽やかな笑顔でこちらを向いていくれた。その表情は会場でみた詩織とは別人みたいだった。

 

「覚えてくれてたんだ。嬉しいよ」

「私の目の前にいたので」

「そうだね。説明会お疲れ様」

「お疲れ様です」

「滝野さんもこっちなんだね」

「はい。隔たりさんもですか?」

「うん。そうだよ」

 

 僕の帰り道はこっちではない。話したいから後を追って来たという本音は、恥ずかしくて口にはできない。

 

「滝野さん、グループワークの時、すごく緊張してたよね」

「え、そう見えました?」

「うん。緊張してそうだなって思ったよ」

「そうなんですね。あんまり緊張してるつもりはなかったんですけど、ちょっとみんなの前で話すのが苦手というか…」

「確かに、初めて会った人たちの前で話すのって難しいよね」

「はい。何話せばいいか分からなくて、けっこう黙っちゃうんです」

「そうなんだ。だとしたら、今たくさん話してくれてありがとうね」

「いえ。なんか、隔たりさんって話しやすいですね」

「いや、そんなことないよ。滝野さんが話しやすいだけだよ」

 

 詩織に褒められて、恥ずかしくなって頭をかいた。あまり話さない子なのかなと思ったが、思ったよりも話してくれて嬉しかった。そのまま他愛もない話をしながら、僕たちは駅に向かった。

 駅に着くと、改札を通って階段を登り、ホームに出た。駅には僕らと同じような格好をした就活生がチラホラといた。しかし、みんな独りだった。僕と詩織みたいに、男女で歩いている人などいなかった。

 それは当たり前だよな、と胸の中で思う。今の僕の状況は就活をしていたというよりも、詩織をナンパしたという方がしっくりくる。それはそれでいいじゃないか、と自分に言い聞かせる。このまま何もなく家に帰ってしまったら、つまらない就活の思い出が残るだけだ。可愛いなと思った女の子に声をかけるくらい、いいじゃないか。

 

「隔たりさんって、どこで降りますか?」

 

 そんなことを考えていたら、ふいに詩織が尋ねてきた。

 

「え、えっと…」

 

 本来、僕が乗るべき電車はこれじゃない。急いで駅のホームの柱に貼ってある路線図に目をやった。この電車に乗って帰るには…。

 

「そうそう、新宿で降りるよ」

「そうなんですね。私はその先なんで、新宿まで一緒ですね」

 

 女性の声のアナウンスが流れ、緑の模様をした電車がホームに到着した。ビジネスマンらしき人たちが電車から降りてくるのを待ち、その後、僕らは一緒に電車の中へ入った。

 電車の中は混んでるとはいえないが、座れるほど空いてもいなかった。僕らは入った扉の反対側の扉の方へ行き、詩織は端っこに体を預け、僕はつり革を持って詩織に向かい合う形で立った。

 上を見ると、小さなスクリーンに円を描いた路線図が映っていた。そこには新宿に15分後に着くと記されていた。15分。詩織と一緒に居られるのはあと15分だ。

 

「えーっと、滝野さんは就活順調?」

「んー順調では、ないですね」

「そうなんだ」

「なかなか選考が先に進まなくて。就活、イヤです」

「わかるな。俺もけっこう苦戦してる」

「そうなんですか? 意外です。けっこう順調そうかなって思った」

「いやいや。それ言うなら、滝野さんも順調そうなのかなって思ったよ」

「えー初めて言われた」

「本当に?」

「はい。でもやっぱ就活って難しいです」

 

 そこから詩織は最近落ちてしまった面接について話し始めた。僕は詩織の話を聴きながら、チラチラと時間の書いてある小さなスクリーンを確認する。新宿までの時間がどんどん短くなっている。僕は意を決して、詩織に話を遮るようにして声をかけた。

 

「あ、ごめん滝野さん」

「ん? なんですか?」

「その、もうすぐ新宿着いちゃうから」

 

 僕は小さなスクリーンを指差す。

 

「あ、本当ですね。すみません、私ばっかりが話して」

「全然大丈夫だよ。むしろ滝野さんってこんなに話してくれるんだと思って嬉しかった」

「それなら良かったです」

「だからさ、このまま滝野さんとさよならするのも寂しいし、一緒に就活頑張れたらいいなって思うから、良かったらライン教えて欲しいなって思って」

 

 すると、一瞬詩織の顔が曇った。

 

「ごめん。もしかして彼氏とかいて厳しいタイプ?」

「あ、彼氏はその…いるんですけど…」

 

 彼氏がいることに少し残念な気持ちになったが、決して僕は詩織に下心があるわけではない。そりゃ、これくらい可愛かったら彼氏くらいいるだろう、と自分に言い聞かせる。僕はこんなに可愛い子とせっかく出会えたのに、こんなに話せたのに、このまま関係が途切れてしまうのが嫌なだけだ。恋人がいるかどうかなんて関係ない。

 

「いや、せっかく滝野さんとこんなに話せたから、これでバイバイするのが寂しいなって思って」

「そうですよね、私も楽しかったです。なので、交換しましょう!」

 

 詩織のラインIDを教えてもらい、僕のラインアカウントに「滝野詩織」という名前が追加された。これで今日、会社説明会に行ったことに意味ができた。就活も出会いの場だと考えれば、悪くない。

 

「教えてくれてありがとう。帰ったらラインするね」

「はい。待ってます」

「そういえば、彼氏とは付き合ってどれくらい?」

「えっと、1年くらいですかね」

 

 新宿に着くことを知らせるアナウンスが車内に響く。

 

「あ、もう着くから俺はここで降りるね」

「うん」

「今日はありがとう。たくさん話せて楽しかったよ」

「私も楽しかったです。ありがとうございます」

 

 電車が新宿のホームに入った。扉の窓に電車を待っている僕らと同じような就活生が流れていく。

 もうすぐ、電車が止まる。

 

「じゃあ、降りるね」

「うん。あの、隔たりさんは…」

 

 僕が電車を降りる時、詩織はひとつ質問を投げかけた。僕がそれに答えると、詩織はホッとした表情を浮かべた。なんでそんなことを聞いたのだろうと、僕はおかしくなって笑った。すると、詩織も笑ってくれた。その笑顔を電車の中に残し、僕は電車を降りた。

 振り向くと、詩織が手を振ってくれていた。僕も手を振る。出発のアナウンスが鳴り、電車の扉が僕と詩織の間の空間を遮断した。それでも、詩織は手を振ってくれていた。扉の窓から詩織の姿が見える。その姿は舞い散る桜のように切なく思えた。電車が発車し、詩織を運んでいく。僕は新宿のホームに立ったまま、それを見送った。

 その後、僕と詩織はラインで互いの就活の近況報告などをやり取りしたが、再び会おうという話には一切ならなかった。

 そうして時は過ぎ、僕は内定をもらい就活を終えた。その頃には詩織との連絡は途絶えていて、僕は彼女がどこに就職したかは知らなかった。もう僕の頭の中からは、詩織の存在が消えかかっていた。

 しかし、僕らは再び出会うことになる。僕と詩織が出会った日から約1年半が経った社会人1年目の秋頃、最後に詩織と別れた場所、新宿で。

 久しぶりに会った詩織は就活の時に出会ったよりも可愛く見えた。それは初めて詩織の私服を見たからだろう。

 僕らは新宿の居酒屋に入った。その2時間後、僕と詩織はラブホテルに入り唇を重ねることになる――。

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隔たりセックスコラム:恋人がいる寂しさ#2「愛に飢え」 隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。 ※「恋人がいる寂しさ」#1はコチラ  新宿東口の地下改札口。  スーツを着た社会人とおしゃれな洋服を着た若者たちが誰かを待ち、改札を通る人並みを眺めている。誰かを待つ人、これから電車に乗る人、改札から出てきた人、駅構内を移動にために横切る人。ここにはたくさんの人がいる。その人の多さに吐き気がした。  人混みから避けるために、スーツを着た僕は改札から少し離れたところにある階段の隅に立った。就活を終えて約1年が経った社会人1年目の9月、僕はまだスーツを着こなせないまま、社会人と学生が入り乱れた街に居る。  学生の頃はよく新宿で酒を飲んでいたな、と何気なく思い出す。あの頃は何も考えず、好き勝手に酒を飲んでいた。自分には仲間がいる、そして未来がある。そんなキラキラとしたものに囲まれながら、楽しく酒を飲んでいた。  しかし社会人になると学生の頃の友達に会うことも少なくなり、新宿に来ることは少なくなった。久しぶりに見た新宿は何も輝いていない。ただ人が多いだけだ。  それでも、心はかすかに高揚していた。なぜなら、今日は久しぶりの女性とのデートだからだ。しかも居酒屋デート。女性とお酒を飲むのは久しぶりだ。それだけで、僕の気分は簡単に高まってくれる。   「隔たりくん?」    俯いていた顔を上げると、目の前にすらっとしたスタイルの女性がいた。瞬間的に「綺麗だ」と思った。女性に対して「綺麗」という感情を抱くのは久しぶりだった。  社会人になると、仕事ばかりの日常が始まった。生活の中で会う女性は、職場の人だけになった。僕の働いている職場には若い女性がおらず、全員30歳を超えていた。ほとんどが主婦のおばさんだった。そんな環境にいたからか、久しぶりに会った目の前の女性はとても美しく見えた。   「詩織さん、久しぶり」    彼女と会うのは、就活の説明会で会った時以来で2回目だった。初めて会ってから約1年半が経っている。あの時、詩織はスーツを着ていた。私服姿の詩織を見るのはこれが初めてだ。  詩織は黒のタイトニットにスキニージーンズを履いていた。スタイルの良さがよくわかる。スーツ姿の時もスタイルが良いと思ったが、今日はさらに足が長く見えた。胸の膨らみやくびれの曲線、すらっと長くて細い手足。これまで様々な女性と会ってきたが、その中でもここまでスタイルの良い子はなかなかいなかった。  僕は自分の姿を確認する。就活の時からずっと使っているシワのついただらしないジャケット、サイズの大きいダボっとしたズボン、そして踵のすり減った磨かれていない靴。詩織の姿が美しい分、自分の格好が恥ずかしくなってきた。  そんな僕をよそに、詩織は久しぶりという感じを見せず、いつも会っている友達のようなラフさで話しかけてきた。   「隔たりさんは今日、仕事だったんですか?」 「うん。そうだよ。詩織さんは休み?」 「はい、今日は休みでした」 「そうなんだ。休み中にごめんね」 「いえいえ、大丈夫ですよ。暇だったんで」 「ごめんね。それじゃあ、行こうか」    階段を登って地上へと出る。そこにも誰かを待っている社会人や学生がたくさんいた。僕はその人混みの中を詩織と歩いて行く。すれ違う人、特に男たちがチラチラと詩織の方を見るのがわかった。その視線に僕は逃げ出したくなり、歩くスピードを速めた。こんなに可愛い子がなぜこんなにみすぼらしい男といるのだろうか、そう言われているようで嫌だった。   「隔たりさんのスーツ姿見ると、就活のこと思い出すなあ」    怯える僕をよそに、詩織は明るい声でそう言った。詩織には今の僕が、あの大学生の頃と変わらない姿に見えているのだろうか。  就活の時の僕と今の僕。一緒なのはスーツをきていることだけで、中身は全く違う。会社に勤めたことで、僕は学生の頃に抱えていた輝かしい未来を失った。今、僕が持っているのは自分の無力さと情けなさ、弱い心だけだった。  それでも就活の頃に出会った詩織という存在が、少し僕を学生の頃の気持ちに戻してくれる。   「就活ね、なんか難しかったよね」    僕は学生時代の自分を思い浮かべながらそう言った。   「そうですよね。もう就活なんてしたくないですもん! 私、いろいろ受けたんですけど…」    詩織は目的地の居酒屋に着くまでの間、自身の就活の話をしてくれた。  初めて会った時も思ったが、詩織は綺麗でおしとやかな見た目をしてるのに、意外と自分のことをよく喋る。僕は詩織の話を「うんうん」と相槌を打ちながら聞いていた。詩織が楽しそうに話すので、僕もだんだん楽しくなってきた。  詩織と出会った時の就活生の頃の自分に戻っていくような感覚だった。嬉しかった。  まだ会ったばかりなのに、この瞬間がずっと続いて欲しいとさえ思った。明日になったら、また職場に行かなければならない。それは嫌だ。この瞬間がずっと続いて欲しい。  詩織の就活話を聞いていると、あっという間に目的地についた。エレベーターに乗って、予約した居酒屋の入っている7階を目指す。詩織とエレベーターに乗るのは説明会以来だなとぼんやり思った。  あのエレベーターはものすごく綺麗で大きなエレベーターだった。今乗っているエレベーターは5人くらいしか乗れない。だが、今乗っているエレベーターの方が僕は好きだ。狭いからこそ、詩織を身近に感じることができるから。  レジにいる店員に予約した名を名乗り、席に案内された。通された席はカウンター席だった。  僕が右側に座り、詩織が左側に座る。そしてビールをふたつ注文し、ジョッキが運ばれた後、乾杯した。   「詩織さん、内定おめでとう!」 「え、もう働いてるよ?」    詩織はビールを手に持ちながら不思議そうに笑った。   「就活の時に出会った仲だから、今更だけどちゃんとおめでとうを言いたくて」 「えーなんかありがとう。じゃあ、隔たりくんもおめでとう」 「おめでとう…なのかな」 「あ、やっぱりお仕事大変?」 「大変というか、悩むことが多くて。だから今日は詩織さんに会えてよかった」 「よかった?」 「うん。職場はおばさんばっかだから。久しぶりに可愛い子に会えてテンション上がってる」 「可愛いって、恥ずかしい」 「いや可愛いって。だから、この出会いに乾杯!」 「なんかよくわかんないけど…かんぱーい!」    キンキンに冷えたグラスに入ったビールを、僕はゴクゴクと体に流し込む。シュワシュワとした炭酸の泡が喉を刺激した。快感だ。この一瞬の快感が仕事の辛さを忘れさせてくれる。そして後々、このビールの中に入っているアルコールが、現実を楽しいものに変えてくれるのだ。   「隔たりさん、飲みっぷりいいですね」    グラスを片手に持ちながら、詩織が微笑む。   「まあね。今日めっちゃ飲みたい気分だったから」 「そうなんですね。何か嫌なことでもあったんですか?」 「いや、嬉しいことがあったからだよ」 「嬉しいこと? なんですか?」 「詩織さんに久しぶりに会えた」    僕はそう言って、再びビールを体に流し込む。ジョッキはあっという間に空になった。追加を頼む。   「じゃあ、私も今日は飲もう」    そう言って詩織も僕と同じようにビールをゴクゴクと飲んで空にし、追加を頼んだ。   「詩織さんも何か嬉しいことがあったの?」    僕は意地悪にそう尋ねた。   「えーっと、私は嫌なことがありました」    詩織は満面の笑みでそう言った。発言と表情が真逆で、思わず僕は彼女を見た。目が合い、少し沈黙の後、僕らは同時に大笑いした。   「もちろん、隔たりさんに会えたのが嬉しくないわけではないですからね? 単純に嫌なことがあったというだけで」 「そうなんだ」 「だから隔たりさんの飲みっぷりを見て、私も飲もうと決めたというか。もう、嫌なことがあった時って、酒に頼るしかないじゃないですか」    学生の頃、お酒は楽しいものだった。仲の良い友達とたくさん酒を飲み、酔っ払う。喜びを語り、出会いに感謝する。お酒は人と人の心を深く繋げるものであり、同時にその瞬間を楽しむためのものだった。  しかし、社会人になるとお酒の飲む理由が変わってしまった。仕事のストレスを発散するために飲む。しんどい現実から目をそらすために飲む。どんなに酒を飲んでも翌日には何も変わっていない現実が待ち受けているのに、社会人になった僕はそういった理由で酒を飲んだ。  酒の飲む量は学生時代と比べて劇的に増えた。そして酒を飲んで現実逃避をすればするほど、翌日、会社に行かなくてはならない絶望にぶち当たった。  だから、詩織が言った嫌なことというのは仕事のことだと思っていた。しかし、それは違った。   「もう彼氏のことがよく分からなくて」 「彼氏? あ、まだ付き合ってるの」    1年半前に出会った時から詩織には彼氏がいた。彼氏がいると知りながら、僕は詩織との関係を終わらせたいと思い、連絡先を聞いたのだった。   「うん。付き合ってるんだけど、よくわからないというか、かまってくれないというか…」 「かまってくれない?」

(文=隔たり)

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