私たちはしばらく抱き合い、キスをしたりじゃれあったりしたあと、何事もなかったかのように部屋着を着て、一緒に朝食を作って食べた。テレビを見ている時も、ソファの上に二人でくつろいで、まるで何年も付き合っていたような雰囲気だった。
だが、10時頃になってユリコの携帯電話が鳴り出した。手に取って画面を見るとユリコの表情がパッと変わり、嬉しそうな声で英語でしゃべりだしたのだ。話している内容を聞くと、彼氏からの電話だったのだろう。昨日はどうしたとか、今日はどうするとか、そんな内容だった。
電話で楽しそうにしゃべっているユリコを見ていて胸が苦しくなり、ユリコが背中を向けているうちに昨日の服に着替え、借りた部屋着とバスタオルをたたんで洗濯機の上に起き、電話に向かってしゃべり続けているユリコに小さく「さよなら」と言うと、そっと部屋を出てドアを閉めた。外は秋晴れのいい天気だったが、私はまるで鉛の塊を飲み込んだような気分だった。
こんなときフランス語にはいい言葉がある。フランス人はどんなことにもうまい言葉を持っていて、その言葉はいつも正しかった。
さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ。
これが私とユリコが初めて出会い、セックスをした話だ。
そのときはもうユリコに会うことはないだろうと思っていたのだが、それは間違いだった。ユリコと私はまた会って、付き合うことになる。
だが、それは普通によくあるような恋人同士の付き合いではなかった。
その話はまた別の機会に紹介することにしよう。
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