ヘルスが消えた日…大摘発からJKビジネスの到来:ニッポンの風俗史#16

風俗店の摘発のキーワード

 11月の枚方のピンサロビル摘発に続き、12月5日にも大阪で立ちんぼの逮捕が発表された。その総数なんと61人。梅田地下街(うめちか)の待ち合わせ場所・泉の広場で、去年から今年にかけて立ちんぼの女性61人が逮捕されていたようだ。

 泉の広場はうめちかの東端にある待ち合わせ場所で、地上に出れば兎我野町の風俗街、ラブホ街も目と鼻の先。20年以上前から援交目的の男女に利用され、摘発も度々行われていた。

 この時期に61人という大量摘発の発表は、とりもなおさず5年後に大阪万博を控えた違法風俗に対する見せしめと思っていいだろう。今後も目立つ違法風俗店は摘発が入ると思われる。

 

「でも、5年も前から摘発する?」

 

 そういぶかしがる声もあるだろうが、黄金町の摘発も横浜開港150周年記念イベントの5年前から始まっていた。どうやら、風俗の摘発は「5年」がキーワードのようだ…。

 

ニッポンのヘルスが消えた日

 歌舞伎町の風俗ビル火災、世界を恐怖に陥れた全米同時多発テロという悲劇で始まった21世紀。ニッポンは風俗ブームの真っ只中で、都内の歓楽街では違法風俗店が軒を連ねて営業し、埼玉では本番風俗店が堂々と営業していた。

 2004年、そんな「平和ボケ」した風俗業界に、1985年の新風営法施行以来の大きな事件が巻き起こった。石原慎太郎都知事(当時)によって「歌舞伎町浄化作戦」が始まったのだ。

 目的は、街にはびこる暴力団と違法風俗店の排除で、外国人を含む旅行者や青少年が安心して歩ける歌舞伎町にすること。歌舞伎町の違法風俗店は根こそぎ摘発された。

 そして、摘発は歌舞伎町だけに収まらず、池袋(都内第2位の風俗街)や渋谷(同3位)など、都内全体で相次ぎ、その年だけで280軒が閉店に追い込まれた。閉店した風俗店は廃業した店もあるが、その多くはデリヘルに転業したのだった。

 …ここまで読んで、少し引っかかることはないだろうか? まるで風俗店の転業を予知していたかのように、デリヘルが合法化されていたことだ。その風営法改正時期は5年前…。

 つまり国は、摘発の予定を見込み、その受け皿としてデリヘルを登録制とし合法化していたと考えると納得できる。こうして、ニッポンのほぼ全ての風俗店が、当局の管理下に置かれることになった。

 摘発は都内だけにとどまらず、ご当地流風俗の聖地・西川口や、関東最大のちょんの間街・横浜黄金町にも及んだ。

 西川口では風俗店の摘発によって、夜間人口2000人が消えたと言われ、この年の後半から摘発が始まった黄金町でも、翌年には「バイバイ作戦」によって200軒のちょんの間が閉店、両地域とも従業員や客らが利用していた商店や飲食店も閉店し、風俗街から人と産業が消えたのだった。

 

風俗ブームと人妻デリブームの終わりと始まり

 筆者は当時、毎月地方の風俗街に取材に行っていたが、この頃を境に地方都市でも裏風俗がなくなったり、店舗型風俗が激減して疑問に思っていた。

 

「東京だけじゃないのか?」

 

 2007年に西川口摘発の件で埼玉県警を取材した際、原因がわかった。

 それは小泉政権(当時)で発足した、『都市再生国家プロジェクト』の中の『歓楽街の浄化と再生』の一環。その中に、福岡の中州や仙台国分町、群馬の伊勢崎、千葉栄町、埼玉の大宮と西川口など、全国12箇所の歓楽街が盛り込まれていると県警担当者が教えてくれた。

 かくして、全国の歓楽街から違法風俗店の看板が消え、見えない風俗・デリヘルの時代が到来した。それは、部屋数という枠がなくなり、女のコの雇用を生んだ。その代わり、熾烈な「競争風俗」の幕開けとなった。

 折しも経済はデフレスパイラルの時代。風俗も価格競争が価格崩壊を産み、サービス競争は本番行為の常態化を発生させた。過去に日本風俗が標榜したものとは違う方向へ進み始めたのだった。

 昭和33年、売春防止法が施行されて以降、ニッポンの風俗業界は「挿入なき射精」を標榜し、ファッションヘルスや素股、イメクラといった日本固有の風俗を発明してきた。それがデリヘルの新時代を迎えて崩壊したのだ。

 風俗誌を賑わせていたフードルたちも、この時期を境に風俗を引退する子が増え、事実上、風俗ブームは終焉を迎えた。

 

「お店、今月で閉店するの。アタシも別の店に移るわ」

 

 当時、池袋のマンヘルにいたオキニの人妻嬢は、遊びに行った時にそう教えてくれた。翌月、筆者は彼女が移籍した池袋東口のヘルスに行ったのだが、その数日後、彼女からメールが届いた。

 

「今度のお店も閉めるらしいので、来月からは下町のデリヘルに移ります。松本さんには少し遠いかな」

 

 ご多分に漏れず、オキニもデリヘルに移籍となった。

 

 違法風俗店はなくなり、風俗ブームも終わったが、男たちの性欲に終わりはない。ギャル、コギャルブームが過ぎ去った次にやってきたのは人妻風俗ブームだった。

 目上の客に対してもタメ口対応だったり、気分次第でサービスにムラがでる若い女のコについていけなかった男性たちが向かったのが、落ち着いた人妻デリヘルだったようだ。

 肌のハリこそ衰えてはいるものの、若い女のコにはない優しさや母性が疲れた男性たちのハートと股間を掴んだ。

 掴んだのはそれだけでない。ラブホテルで二人きりという空間と、若い子の身体には及ばないという人妻の劣等感、そして、セックスに寛容になっている身体と年齢が、人妻にデリヘルのサービスの領域を超えさせた。  

 

「人妻デリは本番率が高い」

 

 そういう噂が風俗客たちの間で流れ、まことしやかな体験談がSNSで広まっていく。本来はできないサービスをナイショでしてもらう興奮と快感は、一度味わったらやめられない楽しみとなった。

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