セックス体験談|ベッドインと事後<後編>

隔たりセックスコラム「ベッドインと事後<後編>」

隔たり…「メンズサイゾーエロ体験談」の人気投稿者。マッチングアプリ等を利用した本気の恋愛体験を通して、男と女の性と愛について深くえぐりながら自らも傷ついていく姿をさらけ出す。現在、メンズサイゾーにセックスコラムを寄稿中。ペンネーム「隔たり」は敬愛するMr.Childrenのナンバーより。


※イメージ画像:Getty Imagesより

『セックスの始まりと終わり:前編』

 目を開けると、締め切ってないカーテンの隙間から日の光が部屋に差し込んでいるのが見えた。

 その光は部屋の壁をつたい、僕の寝ているベッドへと伸びていた。ベッドの上を通過している光の道筋に触れると、温かさを感じる。この温かさは日の光のものか、それとも横に寝ていたランの温もりか、どちらなのだろう。

 横にランがいない。

 昨日の夜、このベッドでランとセックスをした。そして、そのまま一緒にベッドで寝たはずなのに、起きると彼女はいなかった。

 ここはどこだっけ、と寝起きの頭を働かせて、そういえばランの家だよな、と思い出す。いったいランはどこに行ってしまったのだろうか。

 布団から出て、ベッドを降りる。ベッドの下には服が散乱していた。僕は自分の下着だけを拾って履く。そこにはランの服もバラバラに散らばっていた。

 お手洗いに行こうと廊下に続いているリビングの扉を開けた。すると、洗面所の方から、かすかに音が聞こえた。何の音だろう。僕は尿意を忘れ洗面所の扉を開く。シャワーの音が耳に飛び込んできた。

 

「ラン」

 

 寝起きの僕の声はシャワーの音に簡単に埋もれた。

 

「ラン!」

 

 少し大きめの声で呼ぶとシャワーの音が止まった。

 

「あ! 起きた?」

 

 透明のザラザラとした浴室の扉から、ランの体のラインがうっすらと見えた。僕は昨日、この体を抱いた。それを思い出して股間が少しうずく。

 

「起きたよ。おはよう。ランがいないからびっくりした」

「あ、ごめん。昨日、お風呂入ってなかったなと思って」

 

 ランの声が浴室に反響する。エコーのかかったような優しい声と、ランがいることに安堵した。

 

「そしたら…オレも入っていいかな?」

「もうすぐ出るから、いいよー!」

 

 一緒にお風呂に入ってイチャイチャしたいという欲望は、ランの純粋な声によって儚く消えた。まあ、仕方のないことだ。

 ランに「タオルを取ってほしい」と言われ、浴室の隣にある洗濯機の上に置かれたタオルを取り、扉を開けて隙間から渡した。ランは簡単に体を拭くと、温泉リポーターのように胸からアソコが隠れるようにタオルを巻き、浴室から出てきた。

 

「おはよう」

 

 肌が白いランは、濡れた髪がセクシーで体がものすごく綺麗だ。

 ランと入れ替わるようにして浴室に入る。シャワーを出し、体を流す。ボディソープを手に取り、しっかりとモノを洗った。

 部屋に戻ると、ランはもうすでに部屋着に着替えていた。ベッドに腰掛け、ドライヤーで髪を乾かしている。床に散乱していた服も綺麗にたたまれていた。僕はランの横に座り、髪が乾き終わるのを待った。

 ランは髪を乾かし終わると、「ご飯食べる?」と僕に聞いてきた。

 

「朝ごはんは食べないんだ」

「そうなんだ」

「…っていっても、もう昼くらいだけどね」

 

 部屋の壁に掛けられた時計を見ると、短針が「11」、長針が「6」を指していた。

 

「ほんとだ。もうこんな時間!」

「ランは食べる?」

「うん。パンでも食べようかな」

 

 そう言ってベッドから立ち上がろうとしたランの手を、僕は反射的に握った。

 

「ん、どうしたの?」

「いや…なんか…」

 

 ランは再びベッドに腰を下ろした。そして手を握り返してくれた。

 

「まだ、こうしたいなって思って」

 

 そう言った僕を見て、なんか可愛い、とランは微笑んだ。

 

「そういえば…ランは今日、予定ある?」

「夕方から友達と遊ぶかな」

「そっか。何時くらいに出る?」

「えーっと、14時半くらいかな」

 

 14時半。ランがこの家を出るまで、あと3時間もある。いや、3時間しか、ない。

 

「隔たりは? 予定ある?」

 

 僕はニートだから、これといった予定はない。今日もランの家に泊まってセックスしたいという淡い期待はあったが、ランに予定があるのなら、ここは素直に帰るべきだろう。

 

「オレもそんな感じだから…ランが出るときに一緒に出るよ」

「うん、わかった。じゃあ、それまでどうする? ご飯食べる?」

「あ、いや…」

 

 ランが家を出るまで、あと3時間。

 

「あ、ごめんごめん。起きてすぐはご飯食べないんだっけ」

 

 一回くらいなら、セックスができるかもしれない。

 

「…食べたい」

「ん? 食べる?」

「ランを、食べたい」

 

 もう一度セックスをしたい。僕はそんな希望を込めて、横にいるランの唇にキスをした。ランの口からは、ほのかにミント味の歯磨き粉の香りがした。

 

「私を食べたい?」

 

 唇を離すと、ランは困ったように笑った。

 

「そう、食べたい」

「それってどういう意味?」

 

 ランは照れながら笑っている。その表情を見るに、「食べる」がそういう意味を指すか、わかっているのだろう。

 

「ランともう一回、セックスしたいって意味だよ」

 

 今度は誤魔化すのではなく、ストレートに告げた。

 

「でも…友達とご飯あるし」

「まだ3時間あるよ」

「そうだけど…」

 

 僕は繋いでいた手を離して、ランを抱きしめた。

 

「お願い、しよう」

「…」

「お願い」

 

 ランが断るのが苦手だということを、僕は知っている。苦手だと知りながら、セックスをお願いしている。

 

「…わかった。いいよ」

 

 そこに罪悪感がないかといったら、そういうわけでもない。罪悪感はしっかりとある。だからこそ、セックスが始まった際には、ちゃんとランのことを愛そうと思える。

 

「ありがとう」

 

 抱きしめていた腕を緩め、ランの目を見つめた。丸くて真っ黒な瞳。純粋さが溢れ出ているような優しい目。その目に吸い込まれるように、僕はランへと近づいていく。また、唇が重なった。

 舌をランの口の中へと入れる。生温い吐息と共にミントの味がした。

 歯磨き粉の味のキスは、ラブホテルを思い出させる。セックスをするためだけに会った男女は、まるでビジネスマナーのように、エチケットとして歯を磨く。そして、綺麗になった口内を互いの性欲で汚していくのだ。

 ランは決してセックスするために歯磨きをしたわけではない。朝起きてからのルーティンのひとつとして歯を磨いただけだ。それは分かっている。

 けれども、その歯磨き粉の味は僕を興奮させた。ランの家ではなく、ラブホテルにいるような錯覚を起こさせた。僕らは今、ラブホテルにいる。清潔にした互いの体を、これから互いの唾液で汚していくのだ。

 舌を絡ませながら、僕はゆっくりとランをベッドに倒した。服の上から胸に触る。ブラの感触が、しなかった。

 

「もしかして、ノーブラ?」

「…うん。ブラ着けてるのしんどくて。部屋の中ではいつもしてない」

 

 服の上から乳首をつまむと、ランはビクンと体を震わせた。昨日のセックスが脳裏に蘇る。感じやすいランは、狂ったような喘ぎ声をあげていた。それは今も変わらない。

 ランの喘ぎ声をキスで塞ぎながら、服の中に手を入れて、直接胸を触る。柔らかな胸から温かな体温が手に伝わる。それから人差し指で乳首を撫でる。

 

「ああぁぁあ!」

 

 キスをして塞いでいた唇から逃れ、ランは大きく喘いだ。僕の愛撫から逃げるように、腰をムズムズと左右に動かしている。僕はランの服をまくって胸を露出させた。そして、腰の動きを抑えるように右手を下半身へ伸ばしながら、ランの右胸の乳首を口に含む。

 

「ああぁぁんんっ」

 

 乳首を舐めるたび、ランの口から喘ぎ声が漏れる。体もビクンと反応する。なんて感じやすいのだろう。ここまで感じてくれると、セックスが楽しくなってくる。もっともっと、ランを攻めたいという欲求が湧いてくる。

 僕はランの胸をしゃぶりながら、パンティの中に右手を入れた。中指でランのアソコに触れると、今日の朝に綺麗に洗われたはずのアソコは、すでにいやらしい愛液でじっとりと濡れていた。

 

「濡れてるよ」

 

 乳首を舐めるのをやめ、ランの耳元で囁く。

 

「さっきお風呂入ったのに、もうこんなに濡れてるよ」

 

 ランのクリトリスに触れると体がビクンと反応する。彼女は全身で快感を受け止めているようだった。

 僕が問いかけても、ランは何も答えない。ただただ体をビクンと震わすだけだ。刺激に耐えることだけで精一杯なのだろう。僕は耳元でランが恥ずかしくなるような言葉を囁きながら、一定のペースでクリトリスを撫でていく。

 だんだんとランの腰が浮き上がり、やがて糸が切れたようにドスンとベッドへ落ちた。

 

「イった?」

 

 そう尋ねると、ランはいきなり僕を抱きしめ、唇を貪ってきた。突然の激しいキスに、視界がとろけていく。気付けば僕も、激しく舌を動かしていた。

 

「ラン…」

「隔たり…」

 

 僕とランは付き合っていない。それでも、激しく互いを求めるようなキスをする。おそらく、キスをしたからといって、僕らが今後付き合うと決まったわけではない。いや、むしろ確実に付き合わないだろう、という根拠のない確信が生まれた。それでも舌を絡ませられずにはいられない。

 

 デートしてセックスして、泊まりで一緒に寝て、またセックスが始まろうとしている。それはデートという前戯を含めた、昨日から続いてきた長い長いセックスが、だんだん終わりへと近づいてきているということでもある。


「ラン…舐めて」

 

 僕はキスをやめ、服を全て脱ぎ去り、立ち上がった。モノは制御できないほど、パンパンに膨らんでいる。ランはそれを持つとすぐに咥え、ジュボジュボと音を立てながら激しくしゃぶった。

 

「ラン、気持ちいよ」

 

 僕はランの頭を撫でながら、モノに伝わる快感に神経を集中させた。体の中で最も卑猥な部分が、美しい女性の口の中に入っている。その汚らわしさが、もはや神秘的だ。

 僕とランの間には特別な関係性も愛もない。

 昨日出会ったばかりだ。

 それなのに、ランは僕のモノをしゃぶっている。その事実に興奮がどんどん高まる。

 ランのしゃぶり方は、明らかに昨日と異なっていた。今日は激しすぎる。繊細さは消え、どこか豪快だ。悪くない。むしろそのままずっとしゃぶってほしいとさえ思った。痛みは感じない。気持ちいい。気持ちいい。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 ランは口からモノを出すと手で握り、激しく擦り始めた。快楽という電撃が体中を駆け巡る。僕が顔に手を添えると、ランはこちらを見上げた。目がとろんとしている。そのまま互いの顔が近づき、再び舌を激しく絡ませあった。性器の苦い味がした。

 

「いれる?」

「…うん」

 

 膝をついて、ランの服を全て剥ぐ。そして、コンドームをつけて、正常位で挿入するためにランを後ろへと押し倒そうとした。だが、ランが僕の胸に両手を当ててそれを制すると、ゆっくり僕を後ろへと押し倒した。

 

「騎乗位でするの?」

「うん」

 

 ランは足を開いてまたがり、モノを持った。そして、モノを自分のアソコの入口へ当てると、そのまま飛行機が着陸するかの如く、ゆっくりと下降していく。モノが少しずつランの中へと入っていくのが見えた。全てが飲み込まれると、ランが長い髪をなびかせながら天を仰ぐように体を反らした。

 

「ああぁぁあ」

 

 ランはうめくような喘ぎ声を上げた。そして踊るように、器用に腰を前後に振り始めた。

 腰の振るスピードが速くなると、ランの胸がゆっくりと揺れ始めた。その景色を眺めながら、僕はランの体の輪郭を視線でなぞる。首筋から鎖骨、胸の膨らみからくびれへ。今、この女体とセックスしているという事実を映像として体の中に残していく。忘れないために。

 

「ラン、バックでしたい」

「…うん」

 

 ランは振っていた腰を止め、モノを抜いて四つん這いの体勢になった。僕も起き上がり、足の間に入る。そして左手でランのお尻を掴みながら、右手でモノを掴み、入口を探す。

 すると、ランが挿入しやすいように、クッと腹を引っ込めてお尻を上にあげた。先端が穴に入る。僕はそのままゆっくりと、再びモノをランの中へと侵入させた。

 

「ああぁぁぁああ!!!」

 

 ランは顔を上にあげ、獣のような喘ぎ声を上げた。その後ろ姿を眺めながら、僕はお尻をしっかり掴み、突いていく。パンパンとモノが突かれるたびに、ランは昨日の夜のセックスと同じような激しい喘ぎ声を上げた。

 

「あん! あっ! あん! あっ!」

 

 バックになった途端、中の締め付けは強くなり、搾り取るように僕のモノを吸い上げていく。繋がっているというよりも、「穴に挿入している」という感覚が強かった。

 昨日のセックスと今日のセックスはまるで違う。

 激しすぎる。

 ランの喘ぎ声も、昨日と一緒のようだが、どこか違うように聞こえた。

 

「あっ! あん! あっ! あん!」

 

 昨日のセックスはデートの延長にあった。恋人のような交わり合いだった。

 たしかに、今日のセックスも昨日の出来事の延長にあるのだが、恋人たちの中に生まれるような「愛」の要素は全く感じない。今日のセックスにあるのは、おそらく「性欲」だけだった。

 それが悪いことでは決してない。むしろ、セックスに「愛」とか「性欲」とかの意味があるのかも分からない。両方が混じっているものでもあるだろう。

 けれど、「愛」に近かった昨日のセックスが、一晩経つと「性欲」へと変化している。それがランの反応からも、僕の気持ちからもハッキリと分かった。

 僕が思う「愛」とは続くものだ。そして「性欲」とは消えるものだ。ただ性欲を満たすだけになってしまったセックス、関係は、性欲が満たされた途端、あっけなく終わってしまう。

 

「ラン…イくよっ!」

「あぁぁあああ!!!」

 

 僕はランのお尻を掴み、奥深いところで精を放った。先端からドクドクと精液が溢れ出る感覚がくすぐったい。昨日から続いた長いセックスの終わりが、もうそこまで近づいてきていた。

 ゆっくりとモノを抜く。穴から出た瞬間、顎を打たれて倒れるボクサーのように、モノがだらんとベッドに垂れた。ふと目に入ったランのアソコの周りには、気絶した描写で使われてそうな白い泡がポツポツと付いていた。その姿が目に入っても、僕の心が再び興奮することはなかった。

※イメージ画像:Getty Imagesより

 ゴムを処理した後、「シャワー浴びる?」とランに声をかけた。ランは頷き、フラフラと立ち上がると、裸のまま部屋の中を歩いて浴室へ入っていった。

 ランがシャワーを浴び終わると、入れ替わりで僕も浴室に入った。そういえばついさっきもシャワーを浴びたよな、と思った。

 あの時は、セックスをするかもしれないという期待を抱きながら、モノを一生懸命に洗った。今度はセックスの後処理として、ランの唾液とゴムの匂い、精液で汚れたモノを丁寧に洗う。

 浴室から出ると、ランは私服に着替えていた。時計を確認すると、もう14時になっていた。あと30分。30分で、お別れだ。

 僕は脱ぎ捨てた服を拾って着た。ランは「お化粧するね」と洗面所へと消えていった。僕はセックスの名残が残ったベッドに座り、携帯をいじりながらランを待った。

 化粧を終えたランはリビングに入ると、僕に「なんか少し食べる?」と聞いた。

 

「いや、大丈夫だよ」

「そっか。パンとかならあったから。お腹すいたかなって思って」

「そうなんだ。わざわざ聞いてくれてありがとう」

「うん…」

 

 時計の針がゆっくりと回る。お風呂を上がったときに、円の上を指していた長針は、もうあと少しで真下へと辿り着きそうだ。

 

「…そろそろ出ようか」

「うん。そうだね」

「ラン」

「ん?」

「楽しかったよ。ありがとう」

「…私も楽しかったよ。こちらこそありがとう」

 

 長針が円の真下に辿り着く。僕は「お邪魔しました」と告げて、ランと一緒に部屋を出た。

 駅へ向かう道の途中、「そういえば」とずっと気になっていたことがあったというように、ランが僕に尋ねてきた。

 

「隔たりはあんまり観覧車好きじゃない?」

「え、なんで?」

「いや、昨日観覧車乗らなかったなって思って」

 

 お台場の街に輝く、ゆっくりと回る観覧車を思い出す。

 

「嫌いじゃないんだけど…なんか、観覧車乗ると寂しくなるんだよね」

「寂しい?」

「うん。上に登る時は楽しいんだけど、下に戻っていく時に寂しさを感じるというか」

 

 そして、ランの家の時計の長針を思い出す。12を指していた長針が、真下の6まで降りていく動きを。

 

「上に登っていく時は、どんどん景色が広がっていって、気持ち良いよね。それが楽しい。でも結局、観覧車って頂上についた時がピークなんだと思う。後はそこから下に降りていくだけだから。壮大な景色から、現実に戻ってしまう感じが、なんか寂しいんだよね」

 

 ふと、僕とランのセックスは観覧車と一緒だ、と思った。

 観覧車はゆっくりと回って登り、頂上へと辿り着く。頂上に居るのは一瞬で、すぐに下へと回って降りていく。そして、元いた場所に戻り、終わる。

 僕とランのセックスもデートや愛撫という前戯をすることによって、徐々に快楽の頂上へと登っていった。そして絶頂という名の頂上は、射精のたった一瞬だった。

 射精が終わると、興奮は次第に引いていった。ランの家を出るという別れがどんどん近づいていった。

 僕はこれからランと別れる。

 何かを手にしたわけでもなく、人生が変わるわけでもなく、ランと出会う前の僕に戻ってしまうだけだ。

 そう考えると、なぜランとセックスしたのかと疑問が湧いてくる。だが、その疑問はすぐに晴れた。

 観覧車と一緒だ。

 なぜ人が観覧車に乗るのか。それは一緒に乗った人と思い出を作りたいからだ。その瞬間を共有したいからだ。どんどんと登っていくワクワクさ、頂上についた時の壮大な景色への感動、終わってしまう儚い寂しさ…。

 観覧車に乗った時の感情を共有し、素敵な思い出となって心に残る。その思い出が、現実に戻った自分を支えてくれる。

 僕もランとセックスを通じて快感を共有しあった。この快感は、僕とランしか知らない。たとえ現実に戻り、周りから見た変化は全くないかもしれないけれど、僕の中にはたしかにランと共有した時間があるのだ。

 終わってしまうことは悲しいことではない。今後、ランに会えなかったとしても、もう一度セックスできなかったとしても、それは悲しいことではないのだ。次がある。また壮大な景色を見たければ、観覧車に乗ればいい。それと同じように、また快感を味わいたければ、誰かとセックスをすればいい。そうやって何度も回り続けることができるのだ。

 終わりなどなく、その先にあるのは、新しい日々の始まりだ。セックスの終わりは、また新しいセックスへと続く道への始まりなのだ。

 住宅街の角を曲がると、駅が見えた。

 駅から、電車がもうすぐ出発すると知らせる駅員のアナウンスが聞こえる。

 トゥルルル、と、電車の発車音が鳴った。

 それは僕に新たな始まりを告げる、優しい音だった。

(文=隔たり)

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