パンパンと女神とアメリカと　〜ニッポンの風俗史・戦後#2～

　田村泰次郎の小説『肉体の門』は、当時の「パンパン」をテーマにした作品で、鈴木清順や五社英雄らが監督した映画が複数あり、見所も多い。

 

 

混乱の世に降臨した半裸のヴィーナス

昭和22年（1947年）1月　日本初のストリップショー開演

　昭和22年、殺伐としたその時代、東京の『帝都座』（現丸井新宿本店の場所）にて、日本初となるある興行が開催された。

　戦前、商社に勤めていた秦豊吉（はた・とよきち　後の帝国劇場社長）が、ヨーロッパで見たそれを日本に持ち込んだものだった。それが、日本初のストリップショー、『額縁ショー』だった。

 

 

　「踊り子」ではなく「モデル」の甲斐美春はピクリとも動かず、ほんの4、5秒の間、ルネサンスの画家・ボッティチェッリの名作『ヴィーナスの誕生』そのままに、額縁を模した枠の中にトップレスで立ち、花籠を抱いているだけのショーだった。

　その反響は非常に大きく、その後、日本各地の歓楽街に、現在も残る『ロック座』などのヌードショー専門劇場が誕生することに繋がった。

 

ここで思うのは、果たして観客たちはこの一瞬の『額縁ショー』を観るために劇場まで足を運んだのかという疑問だ。調べてみると、実はこの『額縁ショー』は、帝都座劇場のこけら落とし、『ヴィナスの誕生』というバラエティショーの中の一幕ということがわかった。 　その時のモデルは中村笑子で、彼女は額縁の中にズロースにトップレスで入ったものの、バストは手で隠していた。トップレスの『額縁ショー』がお目見えしたのは、次の公演となる『ル・パンテオン』で、その時の額縁ショーのモデルが甲斐美春だった。甲斐美春はその後『甲斐一（かい・はじめ）』と改名し、浅草を中心に一気に盛り上がったストリップショーにも出演した。 　甲斐美春の名前は「甲斐美晴」や「甲斐美和」説もあるが、その後帝都座で開催された『肉体の門』パンフレットに「春」表記の名前がある。ちなみに初代モデルの中村笑子は、秦豊吉率いる日劇ダンシングチーム第一期生で、銀座の老舗おでん屋『お多幸』の娘である。