桑田佳祐「不敬パフォーマンス」謝罪で波紋…過激さウリだったサザンが追い込まれた理由


 だが、桑田が政治や民族の問題に触れだしたのは最近のことではない。今から20年前の95年に発表されたサザンのアルバム曲『悲しみはメリーゴーランド』は「歴史が曲げた心には 隣の人が泣いてる」「己も恥ずかしい つぶらな少女の涙を誰が拭い去る」などと従軍慰安婦問題や創氏改名問題などを風刺したと思われる歌詞がメインテーマとなっている。また、98年のアルバム曲『爆笑アイランド』はもっと直接的に「有名な抑止兵器と条約 民衆(ひと)の群れはBlue」「“Baby、安全なんです”と、長官(ボス)は言う」などといった歌詞が登場し、さらには当時の首相・小渕恵三氏(故人)が演説で語った言葉をラップとして使っている。同曲は昨年末に安倍晋三首相がサザンのライブに来場した際に桑田が「衆院解散なんですと無茶を言う」と歌詞を一部変えて披露したことでも知られる。ほかにも桑田の“社会風刺ソング”は枚挙にいとまがなく、決して急に彼が政治づいたわけではない。

 保守派にヤリ玉にあげられることが多い2013年発売のシングル『ピースとハイライト』も今までの風刺ソングと比べて特別過激というわけではなく、韓国や中国といった日本の“隣人”との相互理解を訴える平和的な内容だ。パフォーマンスについても、今までの桑田の芸風を考えれば紫綬褒章を茶化すのは想定の範囲内だろう。

 にもかかわらず、なぜここまで大問題になってしまったのか。

「かつてはいくら政治的なメッセージを歌詞に織り込んでも、それよりサザンの音楽性が勝っていた。80年代的な独特の“軽さ”によって風刺を気にせずとも純粋に『音楽』として楽しめたのです。そのバンドとしての勢いが反リベラルからの批判すら封じ込めていた。しかし、大病を経験した桑田のパワーダウンやサザンが時代に合わなくなってきたことが影響し、最近は風刺の部分だけが目立つようになってしまった。また、それに加えて中国や韓国との関係が注目されている時期というタイミングの悪さも関係しているでしょう。かつてのサザンなら、こんな批判くらい平気でかき消すようなパワーがあった。しかし、残念ながら年齢的にも衰えがあらわになってきたことで批判をハネ返すだけの力がない状況が浮き彫りになったといえます。とはいえ、今回の謝罪は『会社に迷惑を掛けたくない』『桑田の創作活動を煩わせたくない』という、桑田と事務所の双方の合意で出されたコメント。桑田の基本スタンスは変わらないでしょうから、今後どう巻き返すのかに期待したいですね」(音楽ライター)

 政治的な主張の是非はさておき、アーティストは作品がすべて。ひとまず場外乱闘に決着をつけた桑田には音楽活動に専念してもらい、右も左も黙らせるようなパワーあふれる名曲を生み出してほしい。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops

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