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AVの源流は映画か、テレビか?

【世にも奇妙なAV業界の話】 第二回:AVの源流は映画か、テレビか?

※イメージ画像:Thinkstockより

ピンク映画よりリアルな描写で受け入れられたAV

 AVの歴史は81年に発売された『ビニ本の女・秘奥覗き』と『OLワレメ白書・熟した秘園』だといわれている。以来AVはVHSビデオの隆盛とともにめざましい発展を遂げ、日本は世界でも随一のポルノ大国となった。アジア圏ではジャパニメーションと同様にジャパンAVは高い評価を受けている。その一方で、AVの発展とともに危機に陥った業界がある。ピンク映画だ。

 日活ロマンポルノを筆頭に60~70年代を彩ったピンク映画は、80年代後半になると急速に衰退していった。レンタルビデオ店の普及によって、映画館よりも安価で観られるうえに、オナニーの場所に困ることはなくなった。エロ映像の主役はたった数年でAVに取って代わられてしまった。

 当時、AVが広く受け入れられた理由のひとつに、そのドキュメンタリー性が挙げられる。ピンク映画がドラマ仕立てであるのに対し、AVはよりリアルな女性のセックスを描いたのだ。ピンク映画に慣れてきたユーザーにとって、それは斬新かつ興味を惹くものだった。

 その大きな源流を生み出したのは、今もなお現役を続ける伝説的なAV監督・代々木忠である。1981年に発売した『愛染恭子の本番生撮り 淫欲のうずき』は2万本の大ヒットとなり、のちに発売される『ドキュメント ザ・オナニー』シリーズで、完全にユーザーの心を掴んだのだった。

 しかし、ピンク映画とは異なる手法でありながら、その撮影技術や編集は、映画界の影響が強かった。前述の代々木忠監督は、そもそもワールド映画という映画製作会社に所属していた経緯もあり、撮影の基礎は映画で学んでいた。

 こうして生まれた“映画的ドキュメンタリーAV作品”を究極の形で表現したメーカーが86年に登場する。安達かおるを筆頭にした『V&R』だ。セックスをテーマに過激でグロテスクな表現を追及しつづけるゆえに、社会問題にまで発展する作品すらあったほど、その作品は衝撃的だった。バクシーシ山下、カンパニー松尾など、作家性の強いAV監督を多数輩出した。なかでも井口昇や平野勝之は一般映画の監督としても成功している。それは彼らに映画的な素養があったからにほかならない。

テレビバラエティ的要素をAVに取り入れたソフトオンデマンド

 しかし、90年代に入ると、まったく別の手法で一躍セルビデオの頂点に躍り出るメーカーが登場する。高橋がなり率いる『ソフトオンデマンド』である。女性のセックスとヌードが売りであったAVに“企画”という新風を吹き込んだのだ。高橋がなりは伝説的なテレビプロデューサー・テリー伊藤の弟子であり、『くだらないことを本気でやる』を信条に、奇想天外なAVを次々と発売した。ロングセラーとなったマジックミラー号などは、映画的な発想からは決して生まれない。目標点がエロではなく、クスッと笑える面白さにあったからだ。ここで初めて“テレビ的バラエティポルノAV”という支流が誕生。いずれも現代のAV業界へと脈々と受け継がれている。

 どちらもAVとしては一長一短だ。映画的な撮影を好む監督は、いかに女性のカラダを印象的に撮るかを優先するため、一見したときのエロス表現は上回っているように思われる。一方でテレビ的に撮影すると、女性のカラダは重視されないものの、エキセントリックな企画そのものが面白い。一時期、『ソフトオンデマンド』が“ヌケない”と評されたのも、こうした特長によるものだ。

 では、2010年代に突入した現代のAVはどうだろうか。あくまで筆者の私見ではあるが、撮影する側もされる側も、より“リアルな素人”に近づいているように感じられる。かつては必ずパッケージに表記されていた監督名も、最近ではあまり見かけなくなった。DMMなどの作品紹介欄にも監督名が空欄になっている作品が多くなった。特にハメ撮りモノ作品は女優の素人感を重視するため、男優の顔すら映さないこともある。

 こうしたムーブメントは、ユーザーがよりシンプルかつ生々しいセックスを求めるようになったからだと考えられる。つまり、製作者の意図や表現のテクニックは不要だと判断するユーザーが増えたのだ。

 筆者はこれを“素人投稿的インスタントAV作品”と考える。余分な要素がないぶん、ヌクという目的において、効率的かつ合理的だ。それはちょうど、腹が減ったときに食すインスタントラーメンのように、素人でも簡単に作ることができる。『XVIDEOS』などの動画投稿サイトが流行しているのも、ユーザーの興味の変化が大きいのだろう。過激さも笑いもいらない。エロそうな女性とセックスだけがあればいい。作品としての価値が、そこに入り込む余地はないのだ。

 製作者不在の新たな支流が生み出すのは、AVの簡素化だ。費用対効果だけを考慮した作品は今後いっそう増えていくだろう。それも、先駆者たちが築き上げてきた流れを飲み込みかねない勢いで。

 批判をするつもりはない。時代の流れに合わせてAVも変わっていくのは当然だ。しかし、いちユーザーとしては一抹の寂しさもある。AVで一喜一憂できる青春時代を過ごした筆者としては、濃厚なエロ描写だったり、過激なドキュメンタリーであったり、アホらしい企画であったり、どこかで製作者の存在を感じていたほうが安心する。縮小傾向にある業界で、製作者主体の新たなムーブメントを生み出すのは困難なことだろう。しかし、一方でAVメーカーの創造力に期待してしまう自分がいるのだ。(敬称略)
(文=中河原みゆき)

【世にも奇妙なAV業界の話】バックナンバー
第一回:擬似ザーメンはどう作る?

【AV業界への就職を考える人へ! これがAV会社の実態だ!!】バックナンバー
第一回:AV業界の構造とコンプレックスについて
第二回:AVメーカーの本当の仕事 ~前編~
第三回:AVメーカーの本当の仕事 ~後編~
第四回:険しすぎる男優への道
第五回:AV女優を管理するプロダクションの仕組み

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