奇跡の名作ポルノ『マル秘色情めす市場』を作った稀代の映画監督・田中登

※イメージ画像:『マル秘色情めす市場』日活

 70年代の日活がラインナップした、いわゆる『日活ロマンポルノ』は多くの優れた映画作家を輩出した。そのなかでも異彩を放つ作家の一人が、田中登(1937~2006)である。

 明治大学文学部卒業後に日活へ入社した田中は、ポルノ路線に舵を切った日活で数々の作品を監督していく。以後、72年から80年代末頃までの約16年間に20数本の官能系映画作品を生み出した。

 その田中の作品の中で、突出して高く評価されているのが『マル秘色情めす市場』(1974)。芹明香(せり・めいか)や花柳幻舟(はなやぎ・げんしゅう)が出演した、日本映画では珍しいパートカラー作品である。舞台は70年頃の大阪の私娼窟。天王寺区の一角と言えば、だいたいお分かりになる人も多いだろう。そこで私娼として暮らすのが芹明香扮する少女。そして、彼女の弟で知的障害を持つ少年や、彼女の母親でやはり身体を売って生活する女性、さらに地回りヤクザや下町のアウトローなどの人間模様が描かれた作品である。

 この作品について、ストーリーを説明することは無意味に等しい。DVDのケースに印刷された解説も、読む必要はまったくない。田中の映像を説明しても、その魅力を伝えることは非常に難しいからである。

 それでも、あえて紹介するとすれば、いくつかの感動的な場面である。

 たとえば、ある気弱な男が美人の妻をチンピラヤクザに寝取られてしまう。だが、男はどうすることもできない。しかも、ヤクザから「お前にはこれで十分」とばかりに、安物のダッチワイフをあてがわれてしまう。

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