アルタ前から徒歩数分のこじゃれたバーに到着。以前昔の同僚に紹介してもらったお店で、店内がすべて半個室状態になっているところだ。
「へぇ、ずいぶんオシャレなお店を知ってるんだね、ショーイチ君」
「いえ、ネットで調べただけですよ」とウブなキャラを守る筆者。
「ふーん、そうなんだ。ありがとうね、私のために調べてくれて」、笑顔で語りかけてくるルウちゃん。
やはり女は愛嬌である。今井美樹ではなく椿鬼奴だったのは残念だが、その程度の誤差は笑顔一つで簡単に埋まってしまうのだ。
メニューを見ずに、なんちゃらかんちゃらマティーニとかいう飲み物をオーダーするルウちゃん。かなり飲み慣れているのだろう。筆者はというと、ソルティードッグとブラッディーマリーくらいしか知識がない。筆者だけメニューを見て注文するのは格好つかないので、ソルティードッグをオーダーするしかなかったのである。
「へぇ、渋いの飲むんだね」、とルウちゃん。
「はい、塩味が好きなんですよ」
「やだ、塩味って! なんかラーメンみたいな言い方だよ」
まあ掴みはOKといったところだろう。その後、乾きものやサラダなどのつまみを食べながら飲み進めたのである。会話のキャッチボールは面白いほど弾んだ。やはりメールでお互いの人となりをある程度知っていたので、短時間で仲良くなれた格好である。酒が進むにつれ、いつの間にかルウちゃんは筆者のことを「ショーちゃん」と呼び始めていたほどだ。
ガクっ!
飲み始めて1時間ほど経過した頃、筆者の意識が数秒ほどブラックアウトしてしまった。一瞬のことなのでルウちゃんには気づかれなかったが、これはもうヤバい兆候だ。普段はビール1杯だけで眠たくなってしまう筆者だが、この時は無理してルウちゃんのペースに合わせて酒を飲み進めたせいだろう。こうなるといつ眠ってしまうかわかったものではない。もちろん愚息はとっくに熟睡状態だ。ここまで来たら、ちょっとやそっとのことじゃ息子はオッキしてくれない。
半分寝ぼけながらも思考を巡らす。今日は下手に醜態を晒すよりも、このまま年下の純情キャラのまま別れたほうがいいだろう。そう判断し、意識がはっきりしているうちに行動すべく即座に動いた。
「じゃ、そろそろ駅まで送っていきますよ」
「え?」
「まだちょっと飲み足りないかもだけど、今日は初の顔合わせってことで……」
「えぇ? まだ飲み足りないよぉ」
「ごめんなさい、ルウさん。俺、久しぶりのお酒なんで結構酔っちゃてるんですよ」
「そうなんだ」
「この埋め合わせは次の機会にしますから」
「フフ、OK。じゃお店を出ようか?」
会計を済ませようと財布を取り出す筆者。だがその動きをルウちゃんに察知されて制されてしまった。
「今日は私が誘ったんだから、私が出すよ」
「え、そんなの悪いですよ」
「いいからいいから、じゃ次のデートの時にショーちゃんが奢ってくれる?」
「は、はい」
何気ない会話の中、サラっとデートという単語を放り込んできたルウちゃん。きっと彼女は、今日のデートでヤる気だったに違いないだろう。その後、なんとか駅前まで彼女を送って行き、お酒でへろへろになってしまった筆者はタクシーで帰宅したのであった。
翌朝、早速ルウちゃんに謝罪のメールを入れる筆者。
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おはようございます、ルウさん。
昨日は楽しい時間をありがとう!
初顔合わせで緊張しっちゃってごめんなさい。
それにルウさんの家で猫が待ってるだろうから、あまり遅くなったらいけないと思ってました。
予想よりずっとルウさんが素敵だったので、またぜひ楽しい時間を過ごしたいです。
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と、紳士的なメールを送信。すると、すぐに返信が届いた。
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おはよう、ショーちゃん。
私もすっごく楽しかったよ。
帰りの時間とかまで考えてくれてたんだ。
色々考えてくれてありがとう。
でも、エッチなお誘いしてほしかったな。
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エッチなお誘いときたもんだ! やはり向こうはヤる気満々だった模様。さっそく言い訳メールを送信。
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ごめんなさい。
ルウさんが魅力的なので誘いたかったのですが、緊張して言いだせませんでした。
女性のルウさんに恥をかかせてゴメンナサイ。
じつは私、お酒が入ると性欲が弱くなっちゃうんですよ。
よかったら次回は待ち合わせ場所からそのままホテルに連れて行っていいですか?
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すると、数分後に返信が届いた。
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はい。
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その後スケジュールを相談し、次の週の金曜に待ち合わせすることになったのである。
1週間後、前回同様アルタ前で待ち合わせし、そのままホテルに直行する二人。ホテルに到着し、無事に部屋に入室することができた。