剛力彩芽のデビュー曲はなぜ炎上したのか?

※イメージ画像:『友達より大事な人』剛力彩芽/Sony Music Records

 あの剛力彩芽がいよいよシンガーとしてデビューした。そのデビュー曲『友達より大事な人』の評判があまりよくない。いや、はっきり言うと、かなりよくない。

 タイトルからもわかるように、楽曲のイメージは「元気なクラスメイト」。ただ、音楽的には近年の「元気系」女性シンガーのロールモデルとなっているアヴリル・ラヴィーン系のガールズロック(代表的なのはYUIやmiwa)というわけではなく、かといって歌謡曲的な情緒にも欠けている。強いて言うなら、デビー・ギブソンやティファニーを思い出させるようなアメリカの80年代ガールズポップ風。昨年日本でもヒットしたカーリー・レイ・ジェプセンあたりは、ビートを強めてその路線を今風にアップデートさせていたが、『友達より大事な人』は80年代まんま。今時、どうしてこんな古くさいサウンドにしたのか謎。そして、もっと混乱させられるのはミュージックビデオだ。楽曲のイメージ通りに学校を舞台にした作品なのだが、その中で剛力彩芽はまるでR&B系シンガーのように踊りまくる。5歳からダンスをやっていて、以前からCMの中でもキレキレの踊りを披露していた彼女。この曲も同じシリーズのCMソングとしてオンエアされているので、そこの整合感だけはあるのかもしれないが、歌詞、サウンド、リズム、ダンスの振り付け、それぞれのバランスがメチャクチャ。さらに言うなら、CDジャケットのアートワークの写真や色彩や文字のフォントもすべてがチグハグ。とにかくいろんな人の意見をすり合わせていくうちに、よくわからない場所へ不時着してしまったという印象なのだ。

 念のため言っておくと、自分は最近ネットを中心に巻き起こっている剛力彩芽バッシングに与する者ではない。そもそも芸能事務所はタレントを売り込む(ゴリ押す)のが仕事だし、そこにビジネスとしてのメリットがあるからテレビ局だって広告代理店だって仕事を発注する(ゴリ押される)のだ。それだけの魅力が彼女には確かにあると自分は思う。

 しかし、CDや配信の売り上げ、そして将来的にはライブの動員など、数字がダイレクトに出る音楽ビジネスの相手は、テレビ局でも広告代理店でもなくエンドユーザーだ。異性にアピールするのか、同性にアピールするのか、オシャレなイメージで売り出すのか、親しみやすいイメージで売り出すのか。今回の『友達より大事な人』の「元気なクラスメイト」というぼんやりとしたコンセプトからは、肝心なリスナー像が見えてこない。まさに「誰得」な楽曲に仕上がってしまっているのだ。

 今回のデビューにあたって、彼女は「まだ自分が頑張らないといけない。だから(目標とするアーティストは)いません」という発言をしているが、本人に目指しているアーティストがいないなら、関係各所の意見をすり合わせてアーティストとしての虚像を作り上げるのではなく、ちゃんと顔が見えて音楽的なイニシアティブもとれるプロデューサーを立てて、彼女には完全な素材に徹してもらう方が良かったのではないか。素材としては間違いなく特別なものを持っているのだから。今からでも遅くない。アーティストとして迷走する前に、ファンとしては早めの路線変更を期待したい。
(文=宇野維正)

■宇野維正(ウノ・コレマサ)
音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。

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