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受験生にもおすすめ!? 性欲増進剤「トツカピン」広告の仰天内容

 昭和初期に話題になったアダルト系アイテムのひとつに、錠剤タイプの精力剤「トツカピン」がある。ちなみに、現在も「トッカピン」という商品名のドリンク剤が販売されているが、成分も製造元もまったく異なる別物である。

 さて、昭和初期に販売が始まった「トツカピン」だが、主成分はブロムカンフル系と呼ばれるもので、おもに催眠鎮静剤や抗不安剤として用いられる。これを錠剤にしたものを、丁字堂という避妊具などを販売していた会社の菅波亀吉という人物が精力剤として売り出そうとしたことがきっかけだった。

 この菅波氏、新製品を売り出すにあたって、何をセールスポイントにするかを考えた。そして思いついたのが、専門家による権威付けである。菅波は東京・早稲田で開業医をしていた戸塚隆三郎氏を訪れると、「新薬の推薦をお願いしたい」と申し出た。

 実は戸塚氏は、医学博士で元陸軍一等軍医正という地位にあった。製品の「箔付け」にはうってつけの人物だった。その戸塚博士、菅波氏が売り出そうとしている製品がブロムカンフル製剤と聞いて、「たいした効果も期待できないだろうが、深刻な副作用もないだろう」と、気軽に推薦を引き受けた。

 すると菅波氏は、何と本人の承諾も得ないまま、製品に戸塚博士の名前をとって「トツカピン」とネーミングした。そして、新聞に大きく広告を掲載し、大々的に宣伝を始めたのである。

 その広告が、何ともものすごい。まず、性欲や精力が人間にとっていかに重要であるかを強調。「性欲減退は老衰の原因」であるとし、生活や事業を全うするためには性欲増進、精力強化が不可欠と力説する。そのスタイルは、説明文で語りかけるものや、箇条書きで簡潔に訴えるものなど、実にさまざまである。また、1月には新春らしくカルタを思わせるデザインとフレーズを考案、「わが袖に/いつもひそみしトツカピン/人こそ知らぬ/服まぬ(のまぬ)日もなく」といったコピーを連日載せたりもした。

 さらに標語形式も好んで用いた。こちらも手がこんでいて「性欲精力の冬枯にトツカピンの肥料」といった季節ものをはじめ、「山なら富士 強精剤ならトツカピン」「機械に油 生殖器にトツカピン」といったもののほか、「不況難関突破せよ トツカピンの精力で」などという、こじつけのようなものも多かった。

【トツカピンの広告のいろいろ。『朝日新聞』昭和5年】

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 そして、どういうわけかトツカピンの効能として、精力減退やED、早漏ともに、不眠症や健忘症、記憶力減退やヒステリーなどにも効くと宣伝する有様だった。つまり、たいした効能も期待できないものは、逆に言えば「何にでも効く」ということなのだろう。ともかく、何を持ってトツカピンが記憶力減退などに効くのか、その根拠が待ったくわからない。

 だが、この「記憶力減退防止」「頭脳明晰」という効能で、トツカピンは受験シーズンには受験生向けの広告を展開していた。おそらく、精力剤を受験生に勧める広告は、後にも先にもトツカピンだけではなかったのではなかろうか。何とも無節操な販売攻勢をかけていたものである。

20120921toFL.jpg精力剤を「受験にも効く」と宣伝するトツカピンの広告。
『朝日新聞』昭和4年2月8日
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 それにしても、ろくに効きもしないクスリのネーミングに使われてしまった戸塚博士も、さぞ後悔したのではなかろうか。トツカピンの広告には、「戸塚医学博士推奨」というコピーともに、ヒゲを蓄えた老紳士の横顔が描かれていることが多いが、実はこの絵、戸塚博士とはまったく似ていない、単なるイメージイラストであるともいわれている。つくづく、規制のゆるい時代の、やりたい放題の広告であることを思い知らされる。
(文=橋本玉泉)

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