日本のブラック企業なんかメじゃない! 中国Foxconnによって奪われたもの

*イメージ画像:『就職先はブラック企業 20人のサラリーマン残酷物語
著:恵比須半蔵/彩図社

 小池徹平主演映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』が昨年公開されるなど、日本では近年「ブラック企業」の存在が問題視されている。しかし、世界にはまだまだ我々の想像を超える「ブラック企業」が実在していた。

 iPod、iPhone、iPadなどの一連のアップル製品の製造などを請け負っている、深セン(つちへんに川)に本部のある中国名「富士康」という台湾企業(台湾では「鴻海集団」、英語名「Foxconn」)において、従業員の自殺が相次いでいることをご存知だろうか。

 Foxconnでは今年に入ってから13件もの飛び降り自殺が起き、死者9人、重傷者2人が出ている。こと5月は6日、11日、14日、21日、25日、26日、27日と異常なハイペースで事件が起きている。当然メディアもこの異常事態を受け、中国のNHK的メディアCCTVが特集を組んで紹介したり、Appleを始めHPやDELLも同社深セン工場の調査を開始した。深セン市政府は26日、政府当局が行った調査結果を発表した。

「工業化、都市化、近代化が急速に進むなかで発生した特殊な問題。その原因は深く、状況は極めて複雑だ。自殺者は80年代、90年代生まればかりで、甘やかされて育ったため、様々な圧力で潰れてしまった。社会レベルからみれば、社会サービスや思いやり、援助が足りなかったのが原因だ」

 また、9人目の自殺者が出た翌日にはFoxconnの親会社、台湾のHon Hai Precision Industriesの会長であるTerry Gou氏も記者会見をした。

「これ以上自殺者などを出さないため、できることはなんでもする」

 具体的な対策として、飛び降り自殺を防ぐネットの建物への設置、100人のカウンセラーの配置、社員を約50人のグループに分けてのコミュニケーションの促進、賃金引き上げ、などを実施しはじめたという。しかし、本当にFoxconnの体制に、これ以上改善すべき点はないとは到底言えないだろう。

 というのも、その翌日に10人目の自殺者が出たのだから。そればかりでなく、今回とうとうFoxconnの製造ラインで働く新米工員のみならず、エリートエンジニアまでも不可解な死を遂げたことが明らかになった。このことから、中国メディアが報じないFoxconnの殺人的な勤務体制が暴かれたのである。

 利さんはFoxconnの製品開発部門のエンジニアとして手腕を振るい、28歳の中堅社員として工場内のポジションも固め、出身故郷の恋人とも今春に結婚式をあげたばかり。広東省深センの勤務先近くに小さな部屋を借りて、新婚生活をスタートさせた利さんは、幸せいっぱいのはずだった。しかし、5月27日、彼は自宅で就寝中に帰らぬ人となった。

 妻の証言によると、

「故郷を離れて深センの新居に引っ越したときは、これからどんな楽しい新婚生活が待ってるんだろうって、ハッピーな気持ちでいっぱいでした。豪華なものはなかったけど、彼と二人っきりの生活をスタートさせたことで、私は幸せでした。でも、彼はいつも朝早く出かけては日付が変わる夜中まで家に帰ってこないんです。日曜も休日出勤、いつも私は新しい部屋でひとりぼっちでした」

 奥さんが寂しい思いをするなか、利さんは家族の為に懸命に働いていたのだ。

「もっと私と一緒に時間を過ごして、と泣きついた私に彼はこう言ったんです。『ごめんよ、本当はこんなはずじゃなかったんだ。去年は仕事も自分のペースで進められて、やりがいもあった。だから君と結婚してここに呼び寄せられた。でも、今年に入ってから何かがおかしい。工場のシフトやノルマがきつくなって、もう狂ったように働かされているんだ。だけど、こんなことがいつまでも続くわけないさ。そしたら必ず君との時間もたくさんとれるようになる。ごめんね、あと少しだけ待ってくれないかな』って。その約束を信じて、毎日毎日ひたすら疲れきって仕事に行く彼を励ましていたんです。でも、もう二度とその日はやってこないんです」

 彼は懸命に働いていた。

 利さんは24日の午前7時に出勤してからそのまま24日の夜は帰らず、深夜残業~徹夜勤務~早朝シフトと、丸一日を工場内で過ごした。つまり、25日午後5時までの34時間の連続勤務をこなした。翌26日は午前7時からの通常勤務体制、そしていつものように残業で午後9時まで14時間の働きづめで、消耗しきって帰宅した利さんはそのままバタンとベットに倒れ込むように眠り、深夜に突然、呼吸困難に陥りそのまま心臓が停止してしまった。

 一連の飛び降り自殺が報じられているなか、この事実は中国メディアではまったく報道されていない。世界中から非難の声が寄せられているFoxconnはかえって従業員への締め付けを強化し、中国当局までもが報道規制を敷き始めたらしいのだ。

 夫の過労死をこのまま闇に葬らせはしまい、と立ち上がった利さんの奥さんが、検閲のかかっていない香港のメディアに事件の真相を語ったことから、ようやくこの悲惨な過労死の実態が明るみに出た。孤立無援の奥さんは、「決して泣き寝入りはしない」との固い決意で夫を殺したFoxconnを徹底提訴していく方針を明らかにしている。

 今ではFoxconnは、「死んでも絶対に会社にだけは迷惑をかけません」という念書まで署名提出を義務づけているという。

 新しい電子製品が世の中に出回る陰で、人間が消費されている。

 我々もその構造の一部である。

『ブラック会社限界対策委員会』著:ヨシタケ シンスケ

 
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