【在宅アニメ品質管理者 定期作業報告 3】

2009は百合アニメ豊作年? 『ささめきこと』の、百合とゲイの微妙な関係

『ささめきこと 第6巻』メディアファクトリー(2010年6月25日発売予定)

 2009年秋クールの最終回はアバンギャルドなものが多く、特に「なんか世界がコピーされちゃったり異次元に主人公が飛んだので問題なかったです」エンドの充実振りには目を見張るものがあった。『Darker Than Black2~流星の双子』の、コピーした地球を作ってヒロインやメインキャラ丸ごと島流しエンド。『11eyes』の最終話直前、ラスボスを倒すために力を高めなければとセックスしたと思ったらヤンデレヒロインに刺されて死亡……という展開はなかったことにして、世界を救うために主人公が自殺を謀ったらなんだかんだでそれもなかったことに、最終的にみんながパラレルな次元で幸せに暮らしました(でも、なんだか不吉です)エンド。さらに、『アスラクライン2』の、ブラックホールを電力に利用しようとしたら、異次元の穴が開いて何巡も世界が生まれたりしたけど私は元気ですエンドなど、どう受け止めていいのか分かりかねる最終回がてんこ盛り。「なるほど……」と意味が分からないまま呟くしかなかった。

 さて今回は、09年放映アニメのなかから筆者が特に印象に残った女性同士の恋愛をウリの一つにした作品、通称「百合アニメ」について語ってみよう。09年に発表されたアニメでも、すぐに思いつく作品だけで『青い花』、『咲-Saki-』、『かなめも』、『Candy☆Boy』、『けんぷファー』、『とある科学の超電磁砲』、『キディ・ガーランド』、『化物語』と枚挙にいとまがない状態だ。もう、女性が多数出るアニメには彩りとして百合要素でも散りばめておくのが基本なのか……といった趣になっている。

 これらの「百合」もの作品群には、大きく二つの潮流がある。ひとつは、もともと男が主人公だったアニメの主役が女性に置き換わったもの。登場人物の大半を女性キャラクターが占める男性向けアニメは、『プロジェクトA子』や『トップをねらえ!』などのパロディ的感性が生んだ作品以降、毎年コンスタントに発表され、「ムサい男より、美少女の方が見ていて楽しいじゃない!」という本音に支えられて、現在まで受け継がれた。最近の話題作でいうと『ストライクウィッチーズ』などが挙げられる。

 もう一つは、『青い花』に代表される少女漫画の系譜で描かれた同性愛のモチーフという文脈だ。この系譜での同性への恋愛感情は、多くが青春の1ページとしての一過性の性愛として描かれるが、自分が同性愛者であることへの不安や、自分の持つ女性性についての悩みなどが近代的な個人の葛藤としてシリアスに描かれる。そのため、リアルな作劇が要求される傾向がある。なので、実際に女性が見ても「オタク気持ちわるい」と毛嫌いすることも少ない、いわゆる文学的な作品になりやすい。

 そこで取り上げたいのは、二つの文脈が悪魔合体したアニメ『ささめきこと』だ。この作品は、共学の高校を舞台に、主人公の村雨純夏(むらさめ・すみか)が、中学からの親友で「かわいい子が好き」とレズビアンを自認する風間汐(かざま・うしお)に惹かれているもののそれをうまく伝えられず……という内容。映画の劇伴なども手がける蓮實重臣が、音楽を担当。また、共学を舞台にして、女性同士の性愛シーンになると男子生徒がその場を離れていくというシーンまで丁寧に描かれており、一見すると少女漫画の系譜に属するシリアスな同性愛モチーフの作品形式を採っている。だが、リアルな登場人物の内面的葛藤を掘り下げていくための舞台設計がある中で、起こる出来事は萌えアニメのような絵空事がほとんど。

 象徴的なのは、女装してファッションモデルとして雑誌に載る男子という、きわめてファンタジー度の高いキャラクターがいることだろう。しかも意味なくコーヒークリープを自分で顔面にぶちまけ、顔射後のようなシーンを見せて恍惚としたりする。ほかにも、主人公・村雨が同性愛について悩んだのは最初の数話のみで、女子だけで集まって楽しむための「女子部」ができてからは、作品中で女子の同姓愛を自明なものとして扱い始める。

 主人公の村雨自体、身長が高く特技は空手のぶっきらぼうと、どう見てもキャラクター配置として男性の役割を負っているところからもうかがえるのだが、この作品はどちらかというと萌えアニメの文脈で作られていると考えたほうが分かりやすい。毎回のように挿入されるサービスカットもそのひとつで、「視聴者はこういうのが好きなんだろう」という配慮なのだろうか、本格的な作劇の中で妙に居心地悪くキャッキャしている女子高生たちの戯れを眺めることになる。結果、登場人物が同性愛や自身の女性性をどう受けとめるかというフェミニズムの問題を、男性視聴者に向けたお色気シーンで塗りつぶすという不思議にいびつな事態になっている。

 特に、第7話で主人公が女装男子とデートする話などは、主人公が3人のオタクに絡まれたときに、女装男子が助けに入り「実は男でしたー」と、オタクをがっかりさせて撃退しようとするのだが「こんなかわいい子が女の子のはずないじゃないかー」とやぶ蛇になる展開は、下手に悩んだり、情緒的な演出で本格的に盛り上げた分だけそのエグさが強調され、筆者は視聴しながら悶絶!

 それに比べて、同じく秋クールに放送された『けんぷファー』は、適当に主人公「なつる」が女性になったり男性になったりしながら、ヒロインたちとキャッキャウフフのあげく、異次元へ。ストーリーはさっぱり意味が分からなかったが、「女の子しか見たくないし、エロシーンもみたい! だったらレズでイイじゃない!」という欲求丸出しのまま突っ走った。リアルな女性の葛藤にストーリーを寄せようという意志などさっぱり感じられず(OPテーマから「あんりあるパラダイス」だもの!)、徹頭徹尾オタクというかオッサンの欲望オンリー。フェミニズムの観点からは指弾されてしかるべき内容ではあったが、立派なオッサンである筆者はさっぱりと観賞し終えることができた。

 結果、大半の男性視聴者の都合に寄り添って作られる「百合」アニメの設定がことごとく絵空事度が高いのは、それなりの理由があったんだなあと納得すると共に、『ささめきこと』視聴時の苦しい記憶をなんとか有意義なものにするため、「『ささめきこと』は、男性の都合にまみれた百合アニメの欺瞞を暴くために作られた思想的挑戦だったんだよ!」という説を投げやりに採用して本稿の締めくくりとしておきたい。

(文=久保内信行)

『ささめきこと 第1巻』

 
女子部の存在がそもそもファンタジーな気ガス


『青い花 第4巻』

 
これを観て「鎌倉」という土地への憧れが膨らんだ


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