いつの時代も若者が反応する

東映ピンキー&バイオレンス映画再ブーム! 鈴木則文監督独占インタビュー(前編)

DSTD02989-01.jpg『恐怖女子高校』シリーズの代表作2本。セーラー服に身を包んだ、
強くて可憐でワイルドな非行少女たちの姿は当時の若者のたちの心を大いにくすぐった。
『恐怖女子高校 女暴力教室 』『恐怖女子高校 暴行リンチ教室 』(c)東映

【鈴木則文 映画論】

 決してメインにはならないB級作品でありながら、池玲子&杉本美樹という2大スターを擁し、威勢のいい脱ぎっぷりと破天荒すぎるストーリーで、たちまち世の男たちの股間を鷲づかんだ、1970年代の東映が誇る”ピンキー&バイオレンス”(PV)な映画たち。

 今回ご登場いただく鈴木則文監督は、そんな2本立てのプログラムピクチャーが主流の当時にあって、数多の傑作を量産。その高い娯楽性と過激なエロ描写で一時代を築いた、まさにブームの立役者だ! あの『緋牡丹博徒』や『トラック野郎』といった誰もが知ってる名作シリーズをも手がけた巨匠が語る、PV映画の魅力にいまこそ刮目せよ!

 

──快作『恐怖女子高校』(東映)シリーズのDVDがついに発売され、それにあわせた、ラピュタ阿佐ヶ谷でのリバイバル上映も大好評。さらに9月には幻の名作『温泉スッポン芸者』(東映)もリリースと、VHSにさえなっていなかった監督の作品群が、このところ続々ソフト化されていますよね?

鈴木 うれしいような、さみしいような、なんだか複雑な気持ちだよ。若い世代に支持されるってのは、そりゃうれしいことなんだけど、俺の考えかたとして、「映画は時代の徒花だ」ってのがあるからね。夏の夜空を一瞬だけ染めて消える花火のように、消えゆく運命にあるからこそ美しい。そう思って撮ってきたものが、どうしてだか残っちゃってるってのは、ある意味ではさみしいよ。

suzukinorifumi.jpgポルノ、スケバン、ヤクザものなど幅広く手掛けた鈴木則文監督

──ご自身が再評価されることは望んでないと?

鈴木 されなくていいよ、恥ずかしいし(笑)。俺はやっぱり職人だからさ。それもチャンバラ映画ばかりで芸術の「ゲ」の字もなかった東映京都撮影所育ちのね。大昔の『万葉集』なんかには「詠み人知らず」っていう和歌がいくつもあるだろ? そういう「詠み人知らず」な監督で終わりたい。それが俺の美意識なんだ。そもそも俺の撮った映画は娯楽ではあっても、松竹の小津(安二郎)さんや、東宝の黒澤(明)さんの映画のような永遠に残る名作じゃないしな。

──でも、価値があるからこそDVDにもなるわけで。

鈴木 東映もいよいよ出すもんがなくなってきたんだろう(笑)。社会も人生も描いてない自分の映画と、何十年後かによもや再び会うなんて、俺自身、考えてもみなかったからね。

──とはいえ、当時のメインであるヤクザ映画に対して「負けてたまるか!」という気概は当然あったわけですよね?

鈴木 あったよ、そりゃ。まぁでも、まったく違う独特の世界観だったし、予算は安くても、お偉方からあんまりとやかく言われないっていうよさもあったからね。とにかく豪勢で、エッチなシーンがあればいいっていうさ。

──規制はなかったんですか?

鈴木 いや、あったような気はするけど、ほとんど無視してたから(笑)。なにか言われても、「誰も注目してないから大丈夫ですよ」って。まぁ、会社の恥だとは思われてたかもしれないけど、だいたい当時の制作部長だった岡田茂さん(現・名誉会長)からして「映画は不良性感度がなきゃダメだ!」なんて言ってる人だったからね。

──同時上映の作品はあらかじめ決まってるものですか?

鈴木 決まってる。だから、メインが鶴田浩二の博打モノなら、それが目当てのファンにも好かれるように、事前に向こうのシナリオを読んだりして、ある程度は考えてたよ。どんなに偉そうなこと言ったって、映画監督は観客が映画館に来てナンボの職業だからな。

──では、監督ご自身が、映画を撮るときに大切にされてることは? 

鈴木 それは、なにを置いても俳優だよ。俺の映画ではたいてい、主役にいちばん大事なことを言わせてるし、俳優の魅力を引きたたせるってことは、映画のテーマを立てるってことでもあるからね。一に俳優、二に脚本だな。その次が監督。まぁ、それが難しいところではあるんだけど、「まずは監督だ! 作家だ!」なんてこと俺は言わないから。


IMG_3952B.jpgゆっくりタバコをくゆらせる様が絵になる監督

 

──以前、どこかで「わざとバカに見せるために、照明はまんべんなく当てて、影はつくらない」とおっしゃってるのを読んだことがあるんですが……。

鈴木 そのまま書くと語弊があるけど、それは大事な俳優の顔をぜんぶ見せろって意味でさ。あんまり気取って影をつけるなってだけで、バカにしてるわけじゃない。バカっていう言葉のなかにも俺の深い愛情があるんだよ。利口より、バカのほうが生き方として好きだってのもあるしね。森の石松みたいにさ。

──その一方で、当時全盛だった左翼的な描写も随所にありますよね?

鈴木 それは、「芸術、芸能は反抗、レジスタンスである」っていう想いがあったから。社会主義がいいとか悪いとかじゃなくてね。そういう反逆精神はいまでも持ってるし、絶対の権威に対しては、異議申立てじゃないけど、つねにノーと言えるチカラがないとさ。

──日の丸を燃やしたりして、関係各所から怒られたりしませんでしたか?

鈴木 なにしろ俺の映画は検閲が緩かったからね(笑)。でも、あとで注意されたりはしたよ。軍歌が流れてるなかでオナニーするなんてシーンも堂々と撮ってたから。

──「反逆」という意味では、昨今の日本映画は大作志向が強いうえに、公開から半年も経たずにDVDになるケースがほとんどです。

鈴木 あれは情けないと思うね。とくに最近はテレビ局と組んでるってことが多いから、テレビでもやたらと宣伝するしね。まぁ、古いかもしれないけど、なんで映画が素晴らしいかって言うと、やっぱり暗闇で観るからなんだよ。世のなかの鬱屈やうらみつらみを一瞬でも忘れさせてくれてさ。しょせん、映画は「嘘」だけども、そこにはときにキラッと光る「誠」もあるっていう。俺が撮った一連のポルノにしても、そういった真実を託してるところはあるからね。

──となれば、たとえテレビ局から大作を撮ってくれと頼まれても……。

鈴木 そりゃ、喜んで撮るだろ(笑)

──えーっ!! 反逆はどこに!?

鈴木 つまりは、自分のペースにどうやって入れるかであって、なんでも怖がってちゃダメだってこと。俺はポルノを撮ってた当時からテレビを「電気紙芝居」、映画を「本編」なんて呼ぶ差別意識は嫌いだったからね。

──長いものにも、ときに巻かれて利用しろと?

鈴木 そうそう。ある程度の妥協はしても、そこは反逆精神で、ダマシきってみせるから(笑)
後編へつづく/取材・文=鈴木長月)

 

鈴木則文(すずき・のりぶみ)
1933年生まれ。静岡県出身。東映を代表する映画監督、脚本家。菅原文太主演『トラック野郎』シリーズ、藤純子主演『緋牡丹博徒』シリーズの生みの親。『名奉行 遠山の金さん』『暴れん坊将軍』など、多くのテレビ時代劇の脚本も手がける。

「THE 恐怖女子高校」
ラピュタ阿佐ヶ谷にて絶賛公開中(~9月11日まで)

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