神保町のアダルト的変遷とその現状

 ところが、昭和54年頃から登場したビニール本は、薄い下着を通し「ヘアも、それ以上も見えている」ということから、「ビニ本」の通称と共に話題となった。

 そのビニ本を主力商品にすえた芳賀書店はメディアでも報じられるなど、一躍注目されるようになる。

 そして同時期に、地下鉄・都営新宿線が開通した。それまでは神保町まではJRの水道橋駅か御茶ノ水駅から歩いていくしかなかったが、同地下鉄の開通で格段にアクセスがよくなった。神保町駅で降りれば古書店街のほぼ中心であり、また九段下駅ならすぐ上が芳賀書店の本店ビルである。

 芳賀書店ではビニ本のほかにも、自販機本や実話誌、官能漫画誌、成人向けコミックス、各種マニア系の専門誌なども扱われ、さらに生写真、バイブやオナニーグッズなども多数販売されていた。

 そして、昭和56年頃から本格的なビニ本ブームが加熱する。毎月のように新作がリリースされ、人気作は数日で売り切れる。芳賀書店にも新作が並んでは、瞬く間に消えていった。

 芳賀書店の特徴は豊富な品揃えだけでなく販売価格の安さにあった。主力のビニ本だけでなく、他の刊行物やグッズなども、都内や近郊のどの店よりも安かった。売れ残ったものはすぐに値引きして売っていたので、人気のアイテムにこだわらなければ、それなりのものがとても安い値段で入手できたのである。

 たとえば、他の書店などで1冊1200円くらいで売られていたものが、芳賀書店では1冊600円程度、半額くらいというケースが珍しくなかった。自販機本などは、6冊セットを800円くらいで買ったこともある。

 ブーム期には、平日でも午前中から男性客で混雑していた。最盛期には、芳賀書店は本店のほか神保町エリアだけでも3店舗を展開していた。

 ビニ本ブームと芳賀書店の成功により、神保町にはほかにもいくつもアダルト専門書店が登場した。やはり主力はビニ本で、他の地区よりも安く販売していた。最盛期には、10店くらいは営業していたのではないかと思う。

 一方、アダルト系刊行物はビニ本だけではない。各種写真集やマイナー系雑誌のバックナンバー、コアなマニア専門資料、官能小説、絵画やイラスト集など、数多くの種類がある。そうしたマニアックなアイテムも、神保町エリアには随所に所蔵されていた。

 前述の通り、神保町の書店群には専門性の高い書店が多い。マンガや雑誌、美術系、映画関係などの専門書店では、そうしたマニア垂涎のアイテムがひっそりと眠っていることが多かった。希少なアダルト写真集が1冊数万円から数十万円というプレミアがつけられて、店頭に並んでいたこともあった。

 熱心なマニアや収集家たちは、そうしたものを求めて、狭いようでなかなか広い神保町を、午前中から暗くなるまで行き来していたものである。

 学生だった筆者もまた、アルバイト代をつかんでは神保町に何度も駆けつけたことか。その光景がつい昨日のように思い出される。

 ほかにも書き出したらきりがないが、とにかく、アダルト系という点においても、神保町は宝庫と呼んでもおかしくないエリアだった。

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