もしも風俗店で知り合いに会ってしまったら…


 彼女は、当時筆者が住んでいたマンションの同じフロアの4つ隣に住んでいた人妻だった。

 近所付き合いとまではいかないが、ゴミ置き場で顔を合わせれば挨拶もするし、マンションの付近を住民で掃除をする『クリーンデー』の際も同じフロアなので班分けが一緒だったり、利用するバス停も同じで顔を合わす。つまり、面識はバリバリにある。もちろん、彼女が風俗店に勤務しているなんて露ほども考えていなかった。年齢は、確か30代後半くらいだろうか。

 さて、このようなケースで、「あ…」の後に出てくる言葉は何かというと、いつもと同じ「こんにちは」だった。ついつい無意識に出てしまったようだ。

 しかし、その後、筆者は部屋にあった椅子に、彼女はベッドの片隅に座り、不自然な距離のまま沈黙が続いた。

 それはまさに言葉が見つからないという表現がピッタリで、部屋に漂う空気の重さは書き表せないほどだった。彼女の顔はすっかり青ざめて、放心状態のようにも見えた。

 「取材、やめましょうか?」と筆者が切り出したのは、沈黙からどれほど経ったころだったろうか。店に電話して事情を話した上で取材を中止にするか、ほかの女のコで代行することが賢明に思えた。

 というのも、実は運悪く(?)、この時の取材内容がハメ撮り形式の体験取材だったのだ。日常生活を送っている部屋の4つ隣の人妻とカラダを重ねるなんて…。これからのことを考えると、筆者の提案は間違っていないと思った。

 それでも数分間、彼女は黙ったまま答えない。それは仕方のないことだろう。だから、独断で店に電話をしようとした時のこと、意を決した彼女がこう言った。

「やりましょう、お仕事! お互いプロとして」

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