「メイド・キャバ嬢のボディーガード」という奇妙な仕事に就く男

maidgard0710fla.jpg※イメージ画像 photo by Jill Margerison from flickr

 秋葉原で起きた凄惨な通り魔事件はまだまだ記憶に新しい。かつては、アジアNo.1の電気街、近年では、あの「AKB」を世に送り出した「オタクの聖地」として栄えてきた秋葉原だが、ここへきて、急激に危険な街に変貌しつつある。そんな街で、「メイド・キャバ嬢のボディーガード」という奇妙な仕事に就く男、浜石氏(32歳:仮名)の話を紹介しよう。

 取材現場に現れた浜石氏は、水商売の男と言うより、格闘家といった方がよほど合う、体格のいい男だった。ただ、身に付けているブランド物や、高級そうなスーツ、茶髪にピアスという出で立ちが、いかにも水商売という印象はある。

「俺が現在の勤務先『メイド・キャバR』に入ったのは、去年暮れのこと。派遣社員の待遇の悪さにホトホト嫌気が差していた頃、求人誌でこんな広告を見つけたんだ。【秋葉原:メイド・キャバ~男子ホールスタッフ急募~月給27万円から】。実は俺、若い頃に歌舞伎町のキャバでボーイの経験があるから、アキバのキャバなら、経験者だったらすぐ昇格・昇給狙えるだろ! ってわけで面接にいったんだよ」

 しかし、ココで店長から妙な提案を受けたと語る。

「君、体格いいねぇ! ホール係より、ガードやんない? 初任給30万にUPするから」

 ガードって何よ? 浜石氏は、全く意味が理解できなかったという。

「いやぁ、最近のオタクは怖くてね。女の子たちに何するか分からんから、ボディー・ガードが欲しかったのよ。君ならピッタリだわ」

 確かに浜石氏は、身長190センチ、110キロ、学生時代は柔道部だった。ボーイのつもりがガード役というのも変な展開だが、「まっ、給料もいいし、やってみっか?」そんな軽い気持ちで、店長の申し出を受けたという。

「まず命じられたのは、開店前、駅で待つ女の子たちをお迎えにあがるというもの。“どんなVIP待遇だよ?”と首を傾げながら駅に着くと、すでに十数人の子が束になって待っているんだ」

 皆、一様に周囲をキョロキョロして落ち着かない様子。見ると、周囲には彼女らを見つめ、写真を撮ったり、手を振ったりするオタク風な連中の姿がある。

「ども! 今日からガード役になった浜石っす!」

 浜石氏が自己紹介すると、女の子たちは安心した様子で集団で歩き始めた。すると、一人のオタクが目当ての子に猛突進。

「メロンちゃん(仮名)! 店外デートはいつOK? 約束したじゃ~ん~~~!!」

 一瞬鳥肌が立った浜石氏だったが、妙に腹が立つ上、店長からは「危険なオタクは力で排除せよ」と命じられている。

「おう、お前! うちの子に何か用かよ!!」

 浜石氏が一喝すると、ブツブツ言いながら引き下がるオタク。聞けば「毎日店に来て、店外デートを強要するマニア」らしい。アキバのメイド・キャバはトンでもないことになってるようだ。

 店が始まると、今度は外に立つ。といっても、呼び込みはメイド姿の女の子たちの役目。「お帰りなさいませ~、ご主人さま~!」と萌え声でビラを配る子達を「守る」のが浜石氏の任務だ。

 と、急に車が止まったかと思いきや、オタク3人が一斉に飛び降り、ビラ配りをしていたイチゴちゃん(仮名)の腕を掴み、強引に車に乗せようとするではないか。なんと大それたことを! 浜石氏はキレた。

「なんじゃ、お前ら!」力ずくで連中を殴り倒し、女の子たちを店に避難させた。再び外に出た時、連中の姿はもうなかったというが、浜石氏がいなかったらどうなっていたんだろうか?

 女の子の話では、店内での「メイド&ご主人様」の関係が、店外でも通用すると錯覚するオタクが後を絶たず、中には、本当に拉致されてレイプされた事件もあるという。「無力・キモイ・モテナイ・弱い」といったオタクの概念は様変わりしたらしい。ビラ配りを再開しても、道路に寝て、下からメイドのパンティを撮ろうとするカメラ小僧や、握手を求めてきて永遠に手を離さないやつ、逆にジーッと一人のメイドを、舐める様に見続けるやつなど、周囲はおかしなヤツだらけだ。

 店内でも浜石氏はボーイではなく、ガード役。「行き過ぎた妄想から、エロ・プレイに走ろうとする輩が続出なんだ。女に免疫がない分、こうした場所では見境がなくなるところが恐怖! 連中は、本当に怖いよ」と汗を拭りつつ語った。

「最重要なのは、閉店後の送り。当初は駅まで送っていたものの、酒の入ったオタクの妄想は留まるところを知らなくて、いきなり抱きつくは、タクシーに乗せようとするわで危険極まりなく、俺一人の手に負えない」

 実際、閉店後の店近辺には「出待ち」(仕事を終えた子が出てくるのを待つ)のオタク連中でむせかえるような熱気だ。聞いた話では、家まで執拗に付きまとわれ、自宅を突き止められた挙句、毎日のように出勤を待ち伏せされたり、プレゼントをドアノブに掛けられたり、部屋の前で寝袋で寝られたりと、一般ストーカーを遥かに凌ぐ“ストーカーぶり”だという。

 ということで、普通のキャバクラと同様に、送りの車を用意。一人ずつ、自宅まで届けることと相成ったが、怖いのはココから。「ナンとしてもメイド嬢の自宅を知りたいオタク連中、送りの車が発進するや、車で追いかけてくるんだ。何度巻こうとしても無理。連中の執念、しつこさ、思い込みの激しさは半端じゃない」

 こうした現象は、酒の入るキャバのみならず、メイド喫茶でも起きているという。喫茶にボディーガードとは、世の常識を超えている。大人しかったはずのオタクが、ココまで凶暴になっている。今後の秋葉原は歌舞伎町以上に怖い街になるかも知れない。

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