「毎日死にたいと思っていた」田中れいなが孤独を乗り越え、モーニング娘。を卒業

※イメージ画像:『タナカめせん』
著:田中れいな/エンターブレイン

 5月21日、夏を思わせる蒸し暑い夕刻。九段下駅から武道館へと続く緩やかな坂には、たこ焼きやドリンクを売る屋台に混じりペンライトを扱う香具師の姿があった。

「今日は水色だろ、さあ買った買った」

 水色は、この日10年在籍したモーニング娘。を卒業する田中れいなのメンバーカラーである。

 その抜群の歌唱力でグループの根幹を支え続けた彼女の卒業を祝うライブには、多くのファンが集まった。ファンクラブに入会していても席が取れない人がいたほどチケットはプレミア化し、立ち見席まで用意されるほどの盛況ぶり。客席には、同じハロープロジェクトの℃-uteやBerryz工房メンバーだけでなく、他事務所に所属するHKT48メンバーの指原莉乃の姿もあったという。

 田中れいなは、2003年に道重さゆみ等と共に、モーニング娘。に加入。茶髪に派手な顔立ちのルックス、さらに歯に衣着せぬ物言いの荒っぽい福岡訛りの喋り方も加わったヤンキーキャラ。それでいて高音の伸びやかな美声の持ち主とあって、プロデューサーつんく♂のお気に入りメンバーであった。

 デビュー後の第一弾シングル「シャボン玉」でいきなりメインパートを歌う華々しいデビューを飾り、同年末には初の平成生まれ歌手として紅白歌合戦にも出場した。

 とは言え、その後の10年の芸能生活は決して平たんな道のりではなかった。そもそもが彼女がデビューしたのは、後藤真希の卒業をはじめとする大幅なメンバーチェンジや路線変更が重なったことがきっかけで、国民的だったモーニング娘。の人気が一気に冷え込んだ時期だった。田中の加入後も、安倍なつみ、辻希美・加護亜依といった知名度の高いメンバーが脱退するたびに、売り上げは低下。さらに安倍の盗作騒動、3代目リーダー矢口真里の恋愛報道、加護の喫煙騒ぎとスキャンダルが続発し、ハロプロ人気全体が一気に冷え込んでいった。

 田中自身も我の強い一本気な性格が仇となり、デビューシングルこそフィーチャーされたものの、その後しばらくは目立たぬ後列に下げられ、所謂干された状態が続いた。

 これは後日、田中がラジオで「(事務所のエライ人間に)前髪上げろと言われたんでメチャ嫌だったんで、嫌ですと言ったら人生終わりにさしかかった」と暴露している。また従順さを嫌い、納得がいかなければ歳の離れた先輩にも歯向かう勝ち気さが、他のメンバーの反発を呼び、メンバー内で孤立。今でこそ強い絆で結ばれている同期の道重とも、当時は殆どコミュニケーションはなく、親しく会話するようになったのはここ1、2年のことであると両者が打ち明けているほどだ。

 さらに芸能界だけでなく、プライベートでも周囲と軋轢があったようで、当時通っていた中学校は不登校に近い状態だったとも伝えられる。

 「デビューして4、5年は毎日死にたいと思っていた」と後日テレビ番組で打ち明けるほどの強烈な孤独感に打ち克ち、彼女が再び息吹を取り戻したのは、6代目リーダー高橋愛と共に歌唱やダンスを牽引し、ツートップを飾るようになってからだった。この時期売り上げこそ往時には遠く及ばなかったものの、クオリティの高い楽曲と、一体感のあるダンスパフォーマンスは女性や海外ファンの支持を集めるようになっていった。

 2年前の若手メンバーの大量加入で、再びモーニング娘。は、大きな変化を遂げる。K-POPやEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)にインスパイアされた激しいビートに合わせ、メンバーがマスゲームにも似たパフォーマンスを披露する楽曲群は、新規のファンを呼び起こし、昨年10年ぶりにシングル初週売り上げが10万枚突破。今年に入ってからは10年以上ぶりに2曲連続のオリコンウィークリー1位獲得という栄誉をもたらし、田中は有終の美を飾ることとなった。

 広大な武道館は数千本もの水色のペンライトに彩られ、彼女の旅立ちを祝った。卒業メンバーは抑えきれず泣きだしてしまうことが定番なのだが、この日の田中は終始笑顔。ダブルアンコールでデビュー曲「シャボン玉」を披露し終えても、一切涙を見せることなく舞台を後にする颯爽とした別れは、彼女らしいものだった。

 ただし今後田中の拠点となるバンドLoVendoЯの活動には、不安も多い。初のライブツアーは、泉谷しげるや吉田拓郎、RCサクセションといった70年代フォークをルーツとする楽曲のカバー中心。メタリックなツインギターを加えただけの、目新しい部分の無いアレンジは、原曲を知るフォークやロックマニア、これまでの田中を支持してきたアイドルファン双方から評判は今一つ。また早くも他の3人のメンバーと、田中の不協和音もささやかれている。

 さらに高橋脱退後のモーニング娘。のV字回復も、これを機に終息してしまうのでは? という声も、寄せられている。田中が重責を担っていた歌唱面の大幅な戦力ダウンは避けられない。また若いメンバーばかりになることも、大きな不安要素である。20代のメンバーは23歳の現リーダー道重のみ。これまでの例に倣えば、その道重の卒業も遠いことではない。事務所も道重や田中並みの知名度を持つメンバーを作ろうと、バラエティ番組などに後輩をプッシュしているものの、まだ一般に知られる強烈な個性を放つメンバーはいない。またジャンルに縛られない豊かな楽曲が売りだったにも関わらず、1年以上EDM路線が続いており、そろそろ新たな展開を期待しているファンも多い。

 田中のバンド、また田中という強烈な個性を失ったモーニング娘。共に、今後いかなる飛躍を見せるのか、注目だ。
(文=ピーピング・トムソーヤ)

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