実は歓迎されていなかった? AKB48の復興訪問ライブ

※画像:2012年AKB48 リクエストアワーより(C)AKS

 さる3月11日、AKB48グループは「誰かのためにプロジェクト」の一環として、東北の被災地10カ所と、さらに各劇場で東日本大震災復興支援特別公演を行った。2011年の震災以降、AKBによる震災の復興ライブは、月に一度定期的に行われ、被災地の子どもたちを中心に喜ばれてきた。その模様は、音楽番組『MUSIC JAPAN』(NHK)でもたびたび伝えられており、被災地の人々から好意的に受け止められ、心温まる交流をしていることがうかがえた。

 しかし、この日の宮城県女川町のライブには、「亡くなった被災者の命日でもあり、追悼を静かに行いたい」とする市民や支援団体の一部からのクレームがあったようだ。女川でAKBが行ったミニコンサートの模様を放送した女川さいがいエフエムは、一部で「ラジオ局が主催して大切な日にAKBなんかを呼んでライブをやっている」と誤解した声があったため、Twitterで『言っときますが、うちも反対しましたからね。街がゲストとしてお迎えする判断をしたので、それに合わせてご協力するだけですから…、あと実際に来る娘さんたちはいろんな思惑はわかってないでしょうから、あまり責めるのもどうかと… 』と事情を説明していた。

 女川さいがいエフエムとしては、この3月11日は平日で小中学校が休校になっているわけでもなく、仮設住宅に住み近隣の学校に通っている子どもたちが公演を見に行けない可能性があることや、命日を静かに送りたいとする被災者の声があることを伝え、可能であれば、別の日に来てほしかったという意図であったことを説明しているのだが、言葉の揚げ足だけを取りたがる一部の悪意ある人々にとって、前記の発言は格好の火種となり、秋元康氏に対して「被災地商法だ」「売名だ」「被災地も迷惑しているんだ」という暴言がネット上で飛び交う事態になった。

 実際にAKBの復興訪問ライブはどのように受け止められているのか、筆者が被災地の知人に聞いたところ、多くの人が歓迎、もしくは有難いと思っているという。この日も、彼女たちのライブを訪れることができた子どもたちの表情は笑顔があふれ、握手のときには「ありがとう」といって、うれし泣きする女の子の姿もあった。

 だが一部には、この支援ライブに必ずついてくるテレビカメラの存在に不快感をもっていたり、さらに熱狂的なファンが被災地のライブ会場に現れて大声を出したり踊ったりして地元の人たちに恐怖心を与えたりということもあるようだ。特に今回は、秋元康氏が女川町の商店街のプロデュースを引き受けたというニュースが同日に伝えられたこともあり、善意の裏を深読みするものもいるという。

 3月11日に被災地に行くことに関しては、メンバーの間にも不安があったようで、総監督の高橋みなみも「このタイミングに被災地に来るのは申し訳ない気がした」とのことだったが、秋元氏に「偽善者と思われても、何もやらないよりはいい」と言われて、気持ちが楽になったそうである。良くも悪くも人気のあるグループで、何をやっても賛否両論あるだろうが、少なくともメンバーたちの善意…被災地を元気づけたいという意識は本物である。

 HKT48のメンバーである渕上舞は、Google+で、あの日に思いを馳せコメントを書いている。2年前のこの日、彼女の通う地元・福岡の中学校では卒業式が催され、彼女は在校生として中庭で先輩を見送っていた。見上げた青い空に真っ白な飛行機雲が浮かび、「綺麗だね」と友人と話していたという。

『同じ空の下で、まさかあの震災が起きているとは思ってもなかった』

 テレビで災害を知り、思わず目を背けたくなるような自然の脅威に震えながらも、「ここで目をそらしちゃいけない」とメディアを通して被災地の姿を見聞きし、たとえ小さなことでもアクションを起こしていきたいと学校の募金活動に参加したという彼女。そして今、HKT48の一員となり、『誰かのためにプロジェクト』にも参加、この日、特別公演を行うこととなった。渕上は次のように決意を語る。

『私たちの声が被災地へ届くように。
みんなで心を一つに、歌に想いをのせてパフォーマンスします。

これからも何事にも感謝の気持ちを持って、
なにが出来るのかを、考え、実行していきたいです。
そして、誰かに笑顔を届けよう。
笑顔の和を広げていこう。
この大空の下で』

 48グループに入ることで、自分に出来ることがある喜びを感じている子もいる。ただの偽善と斬り捨てたり、秋元康の商業主義を非難する人間がいることは事実だが、個々のメンバーまで十把一絡げに責めていいというものではない。彼女のようなメンバーがいるということは、深く心に刻んでおきたいものだ。
(文=潜水亭沈没)

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