メンズサイゾー事件簿

「童貞なので結婚が恐い」結婚式場から逃亡したセックス未経験の花婿

※イメージ画像 photo by ppro from flickr

 昭和8年1月17日、東京のある老舗の商店で番頭を勤めている28歳になる男性が結婚式を挙げる予定となっていた。男性は12歳の頃からその商店で働く謹厳実直な青年で、つい最近、のれん分けして新たに店を任されることとなったのだが、同店の主人が「店を持つのだからおかみさんも世話してあげよう」と、得意先のお嬢さん(22)を引き合わせたところ、話は順調に進んでめでたく婚礼ということになった。

 そして挙式当日の夜、式場にはまず角隠しに白無垢の花嫁が仲人に手を引かれてやって来た。ところが、次に登場するはずの花婿が、いつまで経っても現れない。確認してみると、まだ式場にも到着していない。支店に電話してみると、「旦那様はかなり前に出かけました」とのこと。「タクシーが事故にでもあったのか」「電車の脱線かもしれない」などと心配して警察に問い合わせてみても、そういうことはまったく起きていない。

douteikekon0104_01.jpg『東京朝日新聞』昭和8年1月19日

 結局、花嫁さんは実家へと逆戻り。紋付で正装した参列者たちは、ただ唖然とするばかりだった。はたして、花婿はどこに行ってしまったのか。

 しかし、翌日の18日の朝になって、店の主人のもとに男性から「横浜にいます」と電報が届いた。すぐさま主人と、それに花嫁の兄の2人が横浜に急行。宿屋に泊まっていた男性を発見し、事情を聞いた。すると、男性は式をすっぽかした理由を話した。

「童貞なので、結婚するのが恐かったんです」

 仕事一筋だった男性は、これまで女性と付き合う機会もなく、気がつけば28歳で童貞のままだった。そして挙式当日の夕方、仕事を終えた男性は支店を出て式場に向かったが、童貞で結婚することへの不安と恐怖で身も心も震えがとまらない。そこで、日頃から信仰している寺院にお伺いを立てようと、新橋から東海道線で山梨へと向かった。しかし、途中で花嫁と店の主人のことが気になったため、横浜で降りて宿を取り、落ち着いたところで主人に連絡したというわけであった。

douteikekon0104_02.jpg『東京朝日新聞』昭和8年1月20日

 店の主人と花嫁の兄によって連れ戻された男性は、18日の夜、1日遅れで結婚式を行った。その後、晴れて夫婦となった2人は、翌日から仲良く連れ立って親せきへのあいさつ回りをしたという。その際、男性は「おかみさんは怖くはないもんです」と笑いながら話したというから、とりあえず一件落着というところか。

 それにしても、今回の事件について新聞に報道され、しかも男性は実名と顔写真入りで「童貞の恐怖」などというタイトルまで付けられてしまったというのは、今日から見れば「そこまでするか」という感想ではある。

 男性の感情として、童貞であることを恥ずかしく感じ、あるいは女性またはセックスに対して不安と恐怖を感じる傾向というものは、現在もこの当時と変わらぬものではなかろうか。現代日本においても、結婚式当日の失踪とまではいかなくとも、似たようなことがどこかで起きているような気がしてならない。
(文=橋本玉泉)

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