42年の歴史に幕『水戸黄門』の終焉と時代劇の今後

 11月11日、TBSで長年放送されてきた『水戸黄門』の最終回がクランクアップ、1969年から続いた長寿番組が、一応の終わりを迎える。東野英治郎に始まり、西村晃、佐野浅夫、石坂浩二、里見浩太朗と5人の俳優が水戸光圀を演じ、足掛け42年で43部の作品になった。12月19日に放送される最終回スペシャルでは、前作からシリーズを離れていた由美かおるがゲストに登場、懐かしい賑わいを見せるようだ。

 1960~80年代には、時代劇が毎日のように放送されていた。大川橋蔵の『銭形平次』(フジテレビ系)、松平健の『暴れん坊将軍』(テレビ朝日系)、加藤剛の『大岡越前』(TBS系)のように1人の名優が演じ続けた作品もあれば、『水戸黄門』同様に、中村梅之助、杉良太郎、高橋英樹らの名優が次々に演じた『遠山の金さん』(テレビ朝日系)のような作品もある。これらの勧善懲悪ものとは一線を画す、金で殺しを請け負う仕事人が登場する『必殺シリーズ』(TBS・テレビ朝日系)や、当時アイドルであった郷ひろみが、表の顔は女形の花村夢之丞、裏の顔は悪を倒すヒーローとなり、毎回多彩な技で悪を退治する『流れ星左吉』(フジテレビ系)といったオリジナリティの高い作品も数多く作られている。

 また時代劇といえば忘れてはいけないのが、お色気シーン。『水戸黄門』における由美かおるの入浴シーンはシリーズの定番とされ、彼女がレギュラーから離れる際には落胆する声も多かった。逆に『必殺シリーズ』では、何かと色気の多い場面が展開されたため、視聴者からの苦情も多かったと言う。もっとも苦情の数だけ見られていた人気作品との証拠でもあり、時代風刺も取り入れていた『必殺シリーズ』は、ますますその牙を鋭くしていった。

 そうしたオリジナリティ溢れる展開と、時代劇ならではのお色気を兼ね備えた番組に『逃亡者 おりん』がある。テレビ東京系列で2006年に第1シリーズ、2008年にスペシャル番組が放送され、2012年1月からスペシャル番組の『逃亡者おりん 最終章』と新シリーズの『逃亡者 おりん2』が放送される。こちらの見所はなんと言っても主演の青山倫子だ。前作やスペシャル番組では、思い切りの良いアクションシーンと共に、「なんで肩まで出すんだ?」という衣装も、お色気満点で好事家の話題となった。『水戸黄門』が終了した後で唯一の時代劇になってしまうだけに、時代劇ファンの期待も高いはずだ。

 1990年代に入り、櫛の歯が欠けるように隆盛を誇った時代劇は終了していったが、大きな原因と考えられるものに、制作予算の削減、視聴率の低下がある。バブル時代には湯水のごとく注ぎ込まれた制作費も、その後の不景気が長引くにつれて削減されていく。一律に比較するのは難しいが、時代劇は最低でも現代ドラマの倍の制作費がかかるとされ、撮影場所が限られる(主な撮影場所がある京都へ移動する)ことも加えれば、出演者の負担も大きく、合わせて3倍以上とも言われた。

 視聴率の低下は若年層に受けにくいことが原因だ。80年代に始まったトレンディドラマに食われた格好にもなっているが、トレンディドラマのブームが去った後も、時代劇へと振り子が戻ることはなかった。もちろんテレビ全体の視聴率も落ちている。単発のスポーツ中継で高視聴率を稼ぐことはあっても、押しなべて数字は低いが、時代劇の凋落は大きかった。定型の良さとされた勧善懲悪のストーリーが、若い世代には単なるマンネリとしか見られず、先に挙げた『水戸黄門』も、全盛期には20%~30%が当たり前だった数字が、最近のシリーズでは10%を下回ることもあった。

 ただし時代劇の需要が皆無と言う訳ではない。映画では『火天の城』『必死剣 鳥刺し』『十三人の刺客』『武士の家計簿』『さや侍』など、時代ものの作品が毎年のように公開されている。ドラマチックなストーリー展開や魅力的なキャラクターが登場すれば、時代劇ならではの魅力と相まって集客につながっている。これはニーズにあった作品を視聴者に届ければ、時代劇はまだまだ魅力的なソフトであることを示している。

 さらに、CSの時代劇専門チャンネルは多くの視聴者を集めているのに加え、日中における時代劇の再放送は安定した視聴率を稼ぎ出しているのを見れば、勧善懲悪ものの時代劇にもまだまだ根強い人気は残っているのが分かる。

 2012年にはNHK大河ドラマで『平清盛』が始まる。時代は少々さかのぼるものの、平家と源氏の争いを描いた作品は時代劇の範疇に入るだろう。

 映画にドラマにと活躍する、人気と実力を兼ね備えた松山ケンイチが平清盛を演じ、深田恭子、武井咲、成海璃子、和久井映見、田中麗奈らの華やかな女優陣が彩を添え、1年間じっくり腰を据えて楽しむことができる。

 平清盛と言えば、かつては悪役としての面が色濃く描かれることが多かった。「歴史は勝者が書く」と言われるように、勝ち残った鎌倉政権が是として歴史観ができたことが大きい。しかし研究が進むにつれてそれは変わってきた。長く続いた平安時代に行き詰まりを見せた貴族政治の改革者として、まれに見る有能な人間であったことが広く知れ渡ってきた。松山ケンイチが演じる平清盛も、源平争乱の中で懐の深い人物として描かれるようだ。

 42年に渡り日本のテレビ時代劇を支え続けた『水戸黄門』の終焉と、邦画での時代劇ブーム、そして『逃亡者 おりん』のような現代風のアレンジを加えた作品の台頭。これからは、魅力的なキャラクターとストーリーを兼ね備えた、適度に現代風にアレンジされた新たなテレビ時代劇と、映画などでの勧善懲悪ものを主眼とした正統派時代劇と二極化する方向へ向かっていくのではないだろうか。
(文=県田勢)

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