アマゾンは同人文化を変えるか

 ネット通販のアマゾン・ドット・コムによる電子書籍の日本市場への参入が進んでいる。年内には、自社の電子書籍専用端末”キンドル”の販売と合わせて、専用サイトも開設する予定とのこと。そこで以前から問題になっているのが日本の出版社との契約状況だ。一部の出版社と契約合意に向けて進行中と伝えられているが、大手出版社とは合意どころか話し合いすら困難な状況にあるらしい。

 大きな問題点は2つ。1つは著作権の包括的な管理。これは契約した出版社の著書に関して、アマゾンが一方的に電子書籍化できる権利を所有することになる。日本では著作権は著者のものであることがほとんどだが、欧米では出版社やマネージメント会社が所有・管理していることが多い。この違いが露骨に現れた格好だ。

 2つ目はアマゾンのマージンが55%を占める点。現在、書店のマージンは25%前後、これに取り次ぎの分を加えても30%前後となる。電子書籍は紙の本と比較してコストが削減できるとされているが、それでも削減できた部分のほとんどをアマゾンが持っていくことになる。つまりどちらも日本のこれまでの商習慣とは大きくかけ離れている。

 これでは契約合意に至らないのも無理はないと思われる。しかし長年の出版不況が続く中で、規模に関わらずどの出版社も生き残りに苦慮している。そこで数少ない手段として電子書籍へ期待をかける向きもある。いずれ何らかのすり合わせが行われる可能性がありそうだ。

 これと同時に注目されているのが同人分野だ。既に同人誌の通販サイトやダウンロードサイトは、ネット上にいくつも作られている。そして同人誌の販売で、生活費などを稼ぎ出す”プロ同人”と呼ばれる作者や団体も存在する。これが横滑りで電子書籍に移行するのは、複雑に権利の絡んだ出版社よりもたやすいことだろう。ただし障害もある。管理するのがアマゾンであれば、過激な性描写や暴力表現には、ストップがかけられるに違いない。これはアップルストアにおいて、商業誌のコミックスでも問題になった。「○○の1巻3巻は発売可能、しかし間の2が発売できない」と、ある意味で滑稽な状況が発生した。

 しかし、そうした障害を飛び越えることができるレベルの高い同人誌であれば、むしろ電子書籍となって大きく広く流通できるだろう。その時点で新たに問題が起きるとすれば、二次創作物に対して現在は”黙認”している出版社や著者の対応だ。

 ただしこれもレベルの高い二次創作物が流通するのであれば、”黙認”状態が続くか、せいぜい売り上げのいくらかを”上納”することで収まるのではないだろうか。

 かつて同人誌はコミックマーケットなどの即売会で購入するものだった。それが今では「アニメイト」「とらのあな」のような専門店から、最近では大手チェーンの文教堂がアニメ・マンガの専門店「アニメガ」をオープンし同人誌の取り扱いを開始した。もちろん著作権問題はクリアになっていないままである。出版社や著者が、同人誌の過激な性描写や暴力表現を苦々しく思っていても、規制するには手間暇がかかり、ともすれば「余計なことをする」と槍玉に上げられることもある。その判別をアマゾンがやってくれるのであれば、バンバンザイとまでは行かないものの温かく見守るぐらいになるのではないだろうか。

 また有名な漫画家が同人活動を行っている場合も少なくない。それどころか商業誌で堂々と同人活動を公表している場合すらあるくらいだ。そうした漫画家に、直接電子書籍の話を持ちかければ、すんなり話がまとまる方向に向かうかもしれない。著者への印税が10%の現況、仮にアマゾンが55%を持っていったとしても、残りの45%が入るのであれば、著者にとって悪い話ではないだろう。近いうちに「あっ!」と驚くような漫画家の、アマゾンへの参加が発表されるかもしれない。
(文=県田勢)

『アマゾンの秘密──世界最大のネット書店はいかに日本で成功したか』

 
確かに便利、確かにお世話になってる

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