鮫島事件、食人伝説……釣師と無数の書き込みが生み出す驚異の物語

2chcurse0701.jpg※画像:映画「2ちゃんねるの呪い」公式サイトより

 8月6日に公開を控える『2ちゃんねるの呪い 劇場版』(ジョリー・ロジャー社)は、長年、巨大匿名掲示板2ちゃんねるでタブーとして語り継がれてきた「鮫島事件」をテーマにしている。これに対して当の2ちゃんねらーは、「映画化なんてしたら消されるぞ」「公開はやめたほうがいい」と口にする。彼らがそこまで言う鮫島事件とはいったいなんなのだろうか。

【鮫島事件 その1】
 鹿児島県沖に浮かぶ鮫島。5人の2ちゃんねらーがそこにやって来たのは、世紀末の1999年ころと言われている。彼らはそこで行方不明となり、半年の後、白骨死体となって発見された。ただ1人を除いて……。

 身内に公安関係者がいると思しきその生き残りは、4人の遺骨が遺族に届けられた翌日、こう書き込みを残した。「鮫島にいる」と。以来、彼の書き込みは途絶えたままである。事件の真相は、途切れ途切れに散らばった彼の書き込みにあるらしい。

【鮫島事件 その2】
 まだインターネットが現代のように普及していないころ、「鮫島」というコテハン(固定のハンドルネーム)を使う男が、ネット仲間にオフ会と称されて千葉県柏駅に呼び出された。日ごろネット掲示板などで傍若無人な態度をとる鮫島に制裁を加えるためだった。いや、制裁という言葉は生易しい。20人が鮫島を取り囲み殴り殺した。虐殺だった。そしてその模様は、インターネットで実況された。世に言う「鮫島スレ」である。そのときアップされたのが、「血の16画像」という虐殺シーンを写した画像。あまりにもむごたらしい画像はすぐに削除されたというが、今も世界のどこかに保存されているという。

 およそ10年ほど前に匿名掲示板2ちゃんねるに突如立てられた『伝説の「鮫島スレ」について語ろう』というスレッド。その冒頭は次のように記されていた。

「ここはラウンジでは半ば伝説となった「鮫島スレ」について語るスレッドです。
知らない方も多いと思いますが、
2ちゃんねる歴が長い方は覚えてる人も多いと思います。
かくいう俺も「鮫島スレ」を見てから
2ちゃんねるにはまったひとりでして、
あれを見たときのショックは今でも覚えています。
誰かあのスレ保存してる人いますか?」(原文ママ)

 これを読んだ人はどう思うだろうか。「鮫島スレ」なるものに興味を持つのではないか。少なくとも、そういうものが存在するんだろう、とは思うだろう。だがそもそも「鮫島スレ」なるものは存在しない。まして「鮫島事件」というのも、この後生まれた架空の事件に過ぎない。冒頭に記した2つの鮫島事件は、繰り返された書き込みの中でいつしか生まれた物語だ。このほかにも数え切れないほどの「鮫島事件の真相」は存在する。

 鮫島事件に触れた人々は、やがてその実体のネタ性に気づき、自らもそのネタを供給する側になる。そして初めて訪れた人々をあおるようにして楽しむ。こう説明すると単に除け者をバカにする意地悪のようだが、鮫島事件の特殊な点は、ネタを供給する側になりながらも、あえて知らぬ振りをして、その場を盛り上げようとする輩が多いところと言える。

 01年ころから2ちゃんねるで話題となった鮫島事件。その後、幾度となく「真相究明のスレッド」が立てられてはうやむやになり、また新たな鮫島事件が生まれては消えていった。自作自演が積み重なった壮大なジョークと言える鮫島事件。2ちゃんねる的にいえばネタということなのだろうが、いわばこれはゲームのようなものだとも言える。

 そしてそんな見事なゲームを生み出す人々を、2ちゃんねるの住人は釣師と呼ぶ。釣りとは自分の立てた掲示板に人間を集めること。より大勢の人間を集めることを目的とするのが釣師だ。エロティックな文言や成り済ましなどで人を集める釣師もいれば、中にはとんでもない大仕掛けな釣師も存在する。

 たとえば、伝説の釣師として今でも語られる釣神様のスレッドは、「俺の先祖は恐ろしい人物かも知れない……」という冒頭から始まり、村の食人伝説へと展開する。そしてアップされた画像には200年前の古紙に記された先祖の名前と、人を食べていたという記録。もちろんこれらは釣師の偽造したものだが、紙は本当に200年前のもので、古い字体の文字もすべて完璧。疑う余地のない素材を提供されたユーザーたちは、古文書の解読で異様な盛り上がりを見せる。釣師は絶妙なタイミングで新情報を小出しにし、最後に「釣りでした」という文字の書かれた古文書を提示した。この結末に、集まったユーザーたちは、「クオリティー高すぎ!」「歴史に残る壮大な釣りだ」と拍手喝采。欺かれたとはいえ、見事な釣りスレに参加できたことは何にも変えがたい喜びとなったようだ。

 確かに、ここまでの完成度を誇る”釣りスレ”は珍しい。ほとんどの釣りは他愛もなく下世話なものが多いのが現実だ。しかし、つい唸ってしまうような見事なスレッドは存在する。まさにエンターテイナーのように人々を楽しませることを目的とする釣師とユーザーたちの織り成す掲示板は、誰も予想できない物語を作り出す。興味のある方は1度検索してみると面白いかもしれない。異様な盛り上りを見せる掲示板には、不思議な情熱が宿っていることが分かるだろう。
 
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
著書『松本人志は夏目漱石である!』(宝島社新書)

『2ちゃんねるの呪い VOL.4』

 
夜中に見ると背筋がゾクゾク。

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