「都青少年健全育成条例改正案」議論再熱

東京都の過剰な表現弾圧! エロ漫画規制条例の行く末

 11月22日、東京都は過激な性的表現を含む漫画などについて、18歳未満への販売を規制する「都青少年健全育成条例改正案」を再提出した。この条例は今年3月にも提出されたが、多くの有識者や著名な漫画家からの反発もあり、都議会6月定例会において「表現の自由を侵すおそれがある」と否決された。東京都はその原案を修正し、12月定例会に再提案するわけだが、今回は6月に反対した都議会最大派の民主が賛成に回る見通しで、可決の公算が大きいという。

 3月に否決された条文と、今回11月に提出された条文ではどこが違うのだろうか。前回特に問題となった箇所が、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為」を規制するという部分だ。すべての2次元創作物の登場人物に現実の刑罰法規を適用し、反するものは規制するという「非実在青少年」という概念は、当然ながら文化人や漫画愛好家を始めとする多くの人々の間で波紋を呼んだ。客観的な要素ではなく見た目や声などの雰囲気で18歳未満かどうかを判断するという部分にも激しい疑問が寄せられた。それを判断するのは専門家でも何でもない、東京都である。拡大解釈が横行し、自由な表現が侵害されるのではないかという懸念も杞憂とは言えない。

 こうした規制範囲が明確でない、といった指摘を受け、東京都が「条文をより明確化した」というのが以下の部分である。

「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現すること」(自主規制要件)
「強姦等の著しく社会規範に反する性交または性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現すること」(不健全指定要件)

 一体どこが明確になったというのか、疑問点はまだ山積みだ。

・ここでいう刑罰法規とは国の法律か、県の条例か
・過去や未来の時代が舞台の場合、刑罰法規は現代に合わせるべきなのか
・将来、現実世界での刑罰法規が変わった場合は原稿を書き直さないと再発行できないのか

 もしもこの条例が通った場合、漫画界には甚大な影響が出そうだ。「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」は3日、都庁内で記者会見を行ない、条例改定案への反対を表明している。

「今回の案は前回案より規制対象が広がっている。時代物やSFにも現代の刑罰を適用するのか。『違法行為の賛美・誇張』を規制する発想に従えば、海賊を賛美する『ONE PIECE』や泥棒を賛美する『ルパン三世』も規制対象になる」(藤本由香里氏)

 現在、ほとんどの大手出版社が「都青少年健全育成条例改正案」反対を表明し、漫画家・ちばてつやさんらは、前回の条例案に引き続き今回も「表現の自由を侵害する」として、いち早く記者会見を開いた。しかし、それに対する石原都知事の反応は非常に攻撃的だった。

「区分陳列で制限することがなんで表現の自由の侵害になるのか分からない。子どもの目に触れさせたくないということで描きたければ描けばいい。自主規制が徹底していないからこうなる。氾濫に近い状況だから制限せざるをえないんだ。みんな我欲で反発しているが、おれは都民、国民のためだ。出版の利益を考えているだろうが、偏見でしかない。世間では通用しない」

 さらに石原氏は3日、条例の成立を求めた都内のPTA団体に対し、差別ともとれる発言としている。

「子どもだけじゃなくて、テレビなんかにも同性愛者が平気で出るでしょ。日本は野放図になり過ぎている」

 そして7日、その真意を確認した記者に対し、さらにエスカレートした発言が飛び出した。

「サンフランシスコでゲイのパレードを見ましたけど、見てて本当に気の毒だと思った。どこかやっぱり足りない感じがするね。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ。同性愛者であることをことさら売り物にし、ショーアップしてテレビのどうのこうのっていうのも外国じゃ例がないね」

 条例賛成側からはこうした思慮を欠いた発言が後を断たない。東京都副知事である猪瀬直樹氏はこの条例を「言論表現の自由とは別モノ」として推進しているが、今月7日のツイートはインターネットを騒がせた。

「マンガの関係が好きな人のなかには人生が行き止まりと感じている人が多いという印象を受けます。生きている女を口説きなさい。瞬間、瞬間、言うことが予想外に変わるから、そのほうがおもしろくて未知で愛おしいよ」(猪瀬直樹)

 漫画を愛好している人への偏見、あるいは漫画を描いている人、漫画の可能性を信じている人への冒涜ともとれる発言である。「漫画は文化」であると考え、今回の規制に反対している有識者との認識の差はあまりに大きいのではないだろうか。

 それとは対照的に、毒舌家・有吉弘行のツイートには「やるじゃん」「さすが」「正論」などネット上で多くの賞賛の声があがっている。

「オジサンはコンビニでエロ漫画を買いたいので、若者の皆様、猟奇的な事件を起こすのは、もう控えてください。で、石原さんはチンコが起たなくなった腹いせに漫画を悪者にするの止めてください。。。」

 彼が毒舌家としての本分を全うしようとしているように、漫画家も、出版社も各々の仕事をしている。「青少年の健全な育成」という旗印を掲げてそういった分野に踏み込んでいくだけの、「悪影響」の根拠が東京都にはあるのだろうか。

 13日の総務委員会採決を経て15日には本会議にて採決される同案。高まる反対の声に、都は最後まで耳を傾ける気はないのか。
(文=ヨーコ)

『マンガ論争2.5』 著:永山薫、昼間たかし

 
今回の改正騒動も含め問題点を洗い出すために

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