ロシアで相次ぐ食人事件 人肉をむさぼる者たち

2010051811A.jpg*イメージ画像:『パリ人肉事件―無法松の一政』著:佐川 一政、根本 敬/河出書房新社

 「カニバリズム」という言葉をご存知だろうか。人間が人間の肉を食べる行動、「人肉食」のことを指してそういう。

 タンパク質の供給源が不足していた地域などに人肉食の風習が見られたり、特定の社会では、死者への愛着から魂を受け継ぐという儀式的意味合いで自分の仲間を食べたり、復讐など憎悪の感情から自分たちの敵を食べるような風習があったと記録されている。

 人肉食の習慣のない地域においても、やむを得ない理由から、人肉を食べることはある。1972年に、民間人の乗客を乗せたウルグアイ空軍機571便が墜落。アンデス山脈中に遭難した乗客らが、救助されるまでの72日間、死亡した乗客の人肉を食べて、命をつないだ。そうした風俗的な、あるいは緊急避難的な人肉食とはべつに、純粋な人肉嗜好もある。特殊な心理状態での殺人にみられる人肉捕食である。ここ数年、ロシアでは、若者たちによる「食肉のための殺人」が相次いだ。

 08年には、悪魔崇拝を標榜する少年少女8名が同年代の4名を惨殺してその肉を食した。09年には、19歳と21歳の男が16歳の少女を殺害して、その肉を食べた。この2人にはすでに有罪判決が下され、19歳の男は懲役18年を言い渡されている。もう一人の21歳の男は、事件当時ゴスロックミュージシャンとして知られていた。2人は酒に酔っており、知り合いの16歳の少女をアパートの浴槽で殺害し、その後オーブンに彼女の体の一部を入れて食べたという。

 サンクトペテルブルクの法廷で男2人は

「空腹だったから殺した」

 と無罪を主張していたが、有罪判決が下された。もちろん、緊急避難として人肉を食す必要のあったウルグアイ空軍機のケースとは異なり、「空腹だったから殺した」との主張は滑稽な詭弁に過ぎない。

 昨年の11月にも、ロシアで路上生活者3人が25歳の男性を殺害し、遺体を切り刻んで一部を食べ、残りをケバブ屋台やパイを提供する屋台に売ったとして逮捕されている。売られた人肉が客に出されたかは明らかになっていない。逮捕された3人の男には犯罪歴があり、ナイフとハンマーで被害者を襲ったあと遺体をバラバラにしたという。

 こうした人肉捕食をフェティシズムとして持ち、実行に至った例も多数報告されている。連続殺人者のアルバート・フィッシュ、エド・ゲイン、ジェフリー・ダーマー、フリッツ・ハールマン、アンドレイ・チカチーロなどだ。彼らの殺人、そして人肉捕食の動機には性的幻想が大きく関わっているとされる。日本でよく知られる「パリ人肉事件」を起こした佐川一政も、事件のとき自分の精神状態は性的幻想のなかにあった、と自著のなかで記述している。

 しかし、ロシアの若者の食人行為への述懐からは、性的な幻想はうかがえない。あるのは「悪魔から逃げたかった」という不可解な理由や、「腹が減ったから」などの極めて短絡的な理由のみだ。

「ロシア経済が最も低迷したのは90年代ですが、プーチン政権による資源開発を基板にした経済的躍進のあとも、貧困層は依然として、ソビエト時代よりも貧しい生活を強いられています。また、ネオナチや悪魔崇拝など、カルトな文化が広く若者に浸透しているのもロシアの問題です」(在モスクワ日本人K氏)

 思い返せば、オウム真理教の海外拠点があり、多くの妄信的な信者を擁した国もロシアであった。在ロ歴の長い上記のK氏によれば、共産党政権が長年にわたり宗教を否定してきたひずみが、ネオナチや悪魔崇拝、あるいはオウムのようなカルト的思想に対する抵抗のない若者を生んでいるのだという。

 ところで、これまでに紹介した、ロシアをはじめとする各国で起こった食人事件の中には、「痴情のもつれ」のような、愛憎関係に由来するものはひとつもない。

「食人行為は、愛する人の遺体を損壊するということですから、特にキリスト教の文化圏では起こり得ないのではないでしょうか。性的倒錯や宗教的行事による食人はあり得たとしても、恋人同士で抱く感情の延長線上にはあり得ないのでは」(心理学研究者)

 「食べちゃいたいほど愛しい」とはありふれた修辞だが、実際の食人に愛はないようである。

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