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出版界にもビーフ文化? 『大人の科学マガジン』Vol.25 大人気の皮肉

otonanokagaku25.jpg『大人の科学マガジン Vol.25』学習研究社

 趣味人のストライクゾーンを巧みにつく付録で人気の『大人の科学マガジン(以下、「大人の科学」)』(学習研究社)。入手困難で難民が続出し、後に「Premium」と銘打たれた製品版までリリースされたVol.17(付録はテルミンmini)などは、ネット上でも随分話題になった。最新号であるVol.25も、10月末に発売するや即増刷が決まる大人気ぶりで、11月17日現在、Amazon.co.jpでも在庫切れとなっている。

 さて、大好評の『大人の科学』Vol.25の付録は35mm二眼レフカメラであったのだが、この付録チョイスに、発売前に大きな疑問をぶつけたインターネット記事があった。

 問題の記事は、「ASCII.jp」にて10月1日に公開された、その名もズバリ「今どき銀塩!大人の科学「二眼レフ」は誰が買う?」というもので、著者は吉田重戦車氏。その内容はといえば、「現像するまで、何が写っているかわからないカメラなんて、機能だけ考えれば使いにくいだけである」「撮影の煩雑さや、費用の点で普段使いのカメラとしては全くオススメできない。そもそも現像してくれる写真屋を街で見かけなくなっている。あくまで趣味として、楽しむためのモノだろう」

 舌鋒は鋭いものの、当該記事は「じゃあHOLGAやLOMOなどのトイカメラブームは何なんだ」「”あくまで”も何も、『大人の科学』の付録は、正に趣味として楽しむためのモノでしかなく、実用性を求めることがそもそも間違っている」といった批判を浴びていた。だが実は、この「ASCII.jp」の記事は、ビーフなのではないだろうか?

 「ビーフ」とは、広義では不平不満や中傷といった意味合いを持つが、狭義では、特にヒップホップにおいて歌詞で特定の相手をdis(攻撃)し、その相手がアンサーソングを制作するなどして論争に発展することを差す。日本のヒップホップ界でも、DEV LARGE がネット上に『ULTIMATE LOVE SONG』という楽曲をアップして、K DUB SHINEをdisり、ビーフに発展した事件がかつてあった。この事件は、火種拡大のきっかけが2ちゃんねるだったこともあり、記憶にある方も多いのではないだろうか。

 ヒップホップの本場アメリカでは、抗争が激化するあまりに、2PacとThe Notorious B.I.G.という偉大な才能が銃撃事件で命を落とすといった悲劇も起こってしまっているものの、ビーフはヒップホップを語る上で欠かせない、文化の1つであると形容して差支えない。少なくとも、その功罪をどう判断するかは別にして、ロックやジャズの歴史において様々な名盤・名演を生み出した、ドラッグのような位置づけには置かれて然るべきだろう。

 話を日本に戻そう。「ASCII.jp」の批判記事は、結果的に『大人の科学』にプラスの効果しかもたらさない。むしろ、この記事のおかげで『大人の科学』の付録として35mm二眼レフカメラが入手できることを知り、購入を決意した人がいるかもしれない。批判しているつもりが、宣伝効果を生んでいる。特に当該記事中の、「銀塩フィルム派の弁は、思想や哲学の領域に入り込んでいて、近寄りがたい。Amazonのユーザーレビューでどんな熱い想いが語られるか、今から楽しみだ」というくだりにいたっては、熱湯風呂に臨むダチョウ倶楽部の「押すなよ!」と完全に同義だ(!!)。『大人の科学』Vol.25のAmazon.co.jpのカスタマーレビューの、11月17日現在で83人中82人が参考になったと投票されている、「最も参考になったレビュー」の最後には、「ちなみに、先日、某アス○ー.jpと言うサイトの記事でに、この雑誌のことが載っていました。内容は『今どき銀塩!誰が買うの』とか『そもそも現像してくれる写真屋を街で見かけない』といったネガティブなもの。的外れだと思います。」と記されている。ここまでくると見事であると言わざるを得ない。たった1人の参考にならなかったと投票された方が、ASCII.jpの関係者であったなら完璧なのだが――。

 休刊・廃刊ラッシュで明るい話題が聞こえてこない昨今の出版業界において、意図的に燃料を投下するためにビーフを仕掛ける人が、今後増えてもおかしくはない。
(文=B.I.Sachiko)

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