フーゾク最大の敵「デフレ」「本番」「感染症」:ニッポンの風俗史#18

JKお散歩という人身売買

 2014年、アメリカ国務省がまとめた世界各国の人身売買の実態の年次報告書において、日本の「JKお散歩」が性目的の人身売買の例として取り上げられたのだ。未成年に対する売春問題は、日本が国連の常任理事国入りできない理由のひとつとも言われ、日本人が感じるより外国の方が敏感に受け取めているのだった。

 だがこの頃、幸いにしてデフレ経済は徐々に勢いが衰えて来ていた。12年に第二次安倍内閣が発足すると次々に経済対策を講じ、その結果が現れて来たといえる。

 デフレに陰りが現れると、風俗の混乱にも収まる気配が見えて来た。その引き金になったのが、激安ソープランドの摘発と激安デリヘルオーナーの逮捕だった。

 激安デリヘルの件は、巷の噂では女の子の写真と本人が違いすぎて利用客がブチ切れ、警察にタレ込んだとか、本番できるという暗黙の了解があったにもかかわらずできなかった…と言われているが、真相はどうやら後者だったようだ。

 セックスさせてくれないとキレる買春オヤジのタレコミで動く警察ってどうなの? これは想像だが、同店には他の容疑がかかっていて、これをチャンスにと動いたのだろう。

 しかしこの事件と噂のおかげで、激安デリヘル=本当にブスばかりだったという噂が広まり、利用客は激減し激安デリヘルも店舗数を削減。このあたりからデフレ風俗の風向きが変わってきた。

 震災後から続いていたデリヘルの出店数の上昇は、2014年には一段落。それは、景気が上向いたせいではなく、30分3900円という料金は、経済同様に底をついていたからだ。激安デリヘルグループの躍進は、何よりも風俗デフレの象徴だったのだ。

 

本番行為の蔓延

 風俗不況が続いた理由のもうひとつは、とりもなおさず「本番」の蔓延だろう。戦後のニッポン風俗は、「挿入させずに発射させる」技術が真骨頂。ゆえに、ファッションヘルスやイメクラなどのニュー風俗が誕生し、素股やフェラチオなどの技術が磨かれてきた。

 それが風営法改正で密室プレイのデリヘルが推し進められたため、「ゴム着ければイイヨ」が急増したのだ。結果、老いも若きも美人もブスも、指名を取る手段として本番を常態化させ、本来の道筋から離れた短絡的な快感と金儲けを誘発したのだった。

 するとどうなるのか? 客は、本番ありならできるだけかわいいコを求めるようになる。実際、ホンのひと握りにすぎないカワイイ女のコたちは、デリヘルでもソープでもちょんの間でも、ひっきりなしに客が着き、予約困難な状況が続いていた。

 デフレだろうと円高だろうと関係ない、「風俗は不況に強い」といういにしえの定説が継続している状況なのだ。問題は圧倒的多数を占める、超美人でない普通の女のコたちだった。

 デリヘルは、店が増えた分単価が落ち、競争も高まっている。ナイショで本番しても、客はリピートなんかしない。次のカワイイ子を見つけては本番しにいくのだ。

 ソープは格安店にはそこそこ客が戻りつつあるが、単価に対する女の子の仕事量は少なくなく、敬遠する女の子が増えている。格安ソープよりはちょんの間の方が楽という女の子もいた。

 ライト風俗のおっぱいパブやオナクラ、手コキ店などは、デリヘルより安値安定だが、カワイイ女の子は指名客も多くデリヘル並みに稼げるが、それ以外の女の子は…。これこそ、アベノミクスで生まれた格差といえなくもない。

 2015年頃には、すでに裏風俗は全国的に摘発が終了していて、「大きな新ネタ」はほぼ現れてはいない。筆者たち風俗ライターにとっては取材先が減って寂しさしか残らない風俗街になっていたのだ。

 しかし、わずかながらあるとすれば、都内南部の某駅近くにあるマンションに複数の一発屋が入っていたり、川崎・南町の熟女ちょんの間街に若妻や人妻系の日本人が現れたり、店舗型エステで本番できるところがあるとか、元赤線地帯にあるスナックがちょんの間になっているという小ネタ程度。

 裏風俗の役割をデリヘルが代行しているとも言え、今まで熟女しかいなかったちょんの間がなくなった代わりに、若いデリ嬢と本番できるなら後者を選ぶ男性は少なくないだろう。

 そしてそこに強要や金銭のやり取りがなければ、店も当局も見て見ぬふりという状況は今後も続くに違いない。

 

オリンピック年の風俗

 2020年、東京オリンピック開催の年でもあり、風俗店は摘発に対してピリピリ…しているはずだったが、そんな状況ではなくなっていた。

 中国から広まった新型ウィルスのおかげで、日本どころか世界中の経済がかつてないピンチに陥った。感染症のためキャバクラや風俗店はヤリ玉にあげられ、ついに緊急事態宣言が発令される事態にまで発展した。

 風俗店は貧困者のセーフティーネットになっていただけに、店がなくなれば再び貧困に陥る女性も現れる。が、驚いたのは、政府は風俗店側には持続化給付金を出さないと明言したことだ。

 そんな事情故、緊急事態宣言の最中にも自粛することなく営業を続けるデリヘルもあった。

 緊急事態宣言が明けたあと、数軒の店舗型風俗店に行ってみたが、検温にアルコール消毒、待合室のパーテーションなど、拡散対策を講じている店はソープランドだけだった。

 横浜の店舗型イメクラでも、都内のホテヘルの受付でも対策しているところは少なく、残念だがこれがコロナ禍における風俗大国・ニッポンの現実なのだ。

 そんな中、ひとつだけだがコロナが生んだ風俗を見つけることができた。かつて三行広告欄を賑わわせた「大人のパーティー」が都内に復活していたのだ。

 Twitterで見つけたそのパーティーは、温泉コンパニオンの置屋が営業していて、コロナで客が激減したコンパニオンのために急遽造られたパーティーだった。

 そして2021年を迎え、原稿を書いている今まさに二度目の緊急事態宣言に突入しようとしている。日々の感染者数は昨年とは桁違いに増えている。

 本コーナーはこれにて一旦終了となるが、果たして、緊急事態宣言が明けた時、何割の風俗店が残っているのか、女の子たちは元気で働いているのか、正直、期待より不安が勝っている。感染は自分一人の問題ではなくなり、自己責任で済まなくなる。ご自愛めされよ。

(文=松本雷太)

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