街にポン引きが大勢いた頃

 筆者が吉原によく出入りしていた頃、ポン引きに捕まってしまった男性たちを何度も見かけた。ある時、吉原の中にある喫茶店の奥で休んでいたところ、3人の若い男性の一団が初老の男に連れられて入ってきた。そして、初老の男は男性たちに「ここで待っていて」と言って出て行った。

 初老の男は、明らかにポン引きだった。筆者は、「ポン引きだからすぐに逃げたほうがいい」と告げようと、席を立って男性たちに近づこうとした。だが、ポン引きがすぐに戻ってきて、3人をさっさと連れて行ってしまった。

 3人が酷い目にあったことは確実である。おそらく、ポン引きを死ぬほど憎んだか、吉原そのものが大嫌いになったか、そのどちらかだと思われる。

 そんな風なので、ポン引きは街のイメージダウンにもなる。なので、男性客ばかりか風俗店や町の関係者たちからも、ポン引きはたいへんに嫌われていた。

 ポン引きが出没するのは、風俗街だけではなかった。ホテル街にもうろつき、怪しげなセールストークを展開していた。

 その言い草というのが、結構面白かったりする。人気のあるAV嬢の名を挙げて、「特別に彼女と遊べる」などと言うのだ。ほかにも、グラビアアイドルなどの名前が出ることもある。「今日だけ特別に外に出てきているんだ。俺なら紹介できる」などと得意げに言う。

 当然、まったくのデタラメなのだが、こういうとんでもない大嘘に騙される男性もいるのだろうか。似たような話を何度もポン引きから聞いたことがある。

 もちろん、筆者はただのひやかしで話を聞くだけで、実際にポン引きに現金を渡したことは一度もない。だが、ポン引きの被害者に聞いたところによると、ポン引きに何万円かを払わされ、ホテルの一室で待っていると、やってきたのは当然だが、AV嬢やアイドルとは似ても似つかない女性。そして、女性は真似事だけのマッサージをした程度で、「これ以上は追加料金」などと、さらに現金を要求するという、お決まりのパターンである。

 このように、ポン引きというのは百害あって一利なしの存在なのだが、歓楽街やホテル街に数多くうろついていたというのは、それなりの「売り上げ」があったからということだろう。

 現在、ポン引きの姿もすっかり減ったようだ。風俗で遊べるほどの余裕のある男性が激減したこともあろう。かりに男性を引っ掛けても、現金がないのでは話にならない。

 最近では、東京都心、吉原や池袋、渋谷や歌舞伎町といった各スポットを眺めても、かつてのような賑わい、活気は見られないように感じる。ポン引きが少なくなったのはよいことではあるが、それだけ不景気ということにほかならない。

(文=橋本玉泉)

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