【風俗ちょっといい話】敬老の日、おじいちゃんの積み立て


 しかし、二人がいる場所はマットヘルスのプレイルームである。もちろん、年老いたとはいえ男であり、その老人はそこが何をするところなのかも理解していた。だから、ナオさんはあえて聞いたという。「孫に似ている女の子が、こうこうお店で働いているのって、イヤじゃない?」と…。すると、その老人はニッコリ笑ってこう言った。

「私も昔はお世話になったもんさ」

 どうやら風俗に対する理解はあるようだった。結局その日は、老人が望んだこともあり、服も脱がずにお話をしただけでプレイ時間は終了。もしかしたら、年齢的なこともあったのかもしれないが…。そして、帰り際に「これ…」と、孫にそうするようにお小遣いをくれたそうだ。

「店内でお金をもらうことは御法度だと思ったので、すぐに店長に報告したんです。そうしたら、『まぁ仕方ないし、好意だと思って、今回はいただきなよ』と言われて…。ということで、ありがたく、ちょうだいしたの」

 その後、老人は一カ月に一度の割合で来店した。しかし毎回プレイはせずに話をするだけ。それは、まるで孫に会いにくるおじいちゃんのように…。ということで、店内では親しみを込めて老人のことを「おじいちゃん」と呼んでいた。そして、毎回ナオさんに小遣いを置いていくのだった。

 “さすがに毎回は…”と、再び店長に報告したナオさん。すると店長から「だったら、ナオちゃんが“積み立て”すればいいんじゃない?」との提案が。たとえば、そのお金を次回の来店時に延長料金に充てたりしなさいということである。

 月イチでの来店が続くおじいちゃんは、相変わらずプレイなしでお話するだけ。時々一緒に風呂に入ったりもしたそうだが、それだけが裸の付き合いだった。あとは世間話で、その際のお茶やお菓子をナオさんが『積み立て』から用意していたという。

 何を話していたのかといえば、基本的に本当に世間話だったそうだが、時にはナオさんが相談をすることがあった。たとえば、彼女が風俗で働き始めた理由は、自分で飲食店を開きたいという夢があったからだが、それに対して「夢は叶えてしまえば通過点はどうでもいいんだよ。結果を出して幸せになれればいいんだ」と答えたとか。おじいちゃんの会話は、決して風俗を卑下しなかったという。「だから好きだったの」とナオさん。

「それでね、一回、ハンカチをプレゼントしたの、その積み立てから。それは9月の来店で敬老の日が近かったから…」

 もちろん、おじいちゃんがとても喜んだのは言うまでもない。「来年の敬老の日にも…」と思っていたナオさんだったが、初めて出会ってから1年半が過ぎた頃、おじいちゃんはパタリと来なくなった。当然、ナオさんには、どうしたのかを知る術はなかった。

「ずっと、“おじいちゃん”って呼んでいたから、名前も聞いてなかったんだよね~」

 彼女は今でも敬老の日が近付くと、その“おじいちゃん”を思い出すのだろうか…。
(文=子門仁)

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