アイドル対AV監督『劇場版 BiSキャノンボール2014』はいかにして生み出されたのか! カンパニー松尾監督インタビュー!!

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――それにしてもインパクトの強い素人女性が集まりましたよね。

「通常の撮影ならスルーすることもあるんでしょうけど、今回はレースで早い者勝ちなので、僕がテレクラだったり、梁井が出会い系だったりですごいのを引き当てて、とにかく引っかけた魚は全て食べなきゃいけない(笑)。ただツールがテレクラだったり出会い系だったりすると、普通に街を歩いている女性をナンパするのとは違いますよね。僕は食べ物にしても、表通りにデカい看板を出しているお店や、高価なお店が本当に美味しいとは思っていないんです。人間として味わいというか、深みがある女性はテレクラや出会い系にいたりするんですよ。90年代はテレクラとキャバクラの隆盛期でしたけど、キャバクラは見た目重視で、テレクラは中味重視というか、テレクラには本当の触れ合いがありました。AVとは言いつつ、ただセックスをするという風俗的なノリではなく、どういう女性なのかも知りたい。そういう意味でテレクラや出会い系は、見かけだけではない味わいを撮れると思うんですよ」

――『2013』の番外編である『裏テレクラキャノンボール2013 女達のキャノンボール それぞれの朝』では、様々な事情でハマジムの社員2名が会社を卒業するという経緯も描かれます。

「『2013』の編集期間ですが、最初は2カ月ぐらいで終えるはずが、4カ月もかかっちゃったんですよ。テレキャノ用の資金はあったんですけど、かなりの予算を使ってしまったこと。編集に二か月遅れたために入金も二カ月送れて先の目途が立たなくなってしまったこと。それによってハマジムのラインナップが崩れたこと。さらにテレキャノに関係なくAV業界全体の流れもあって売り上げが下がってきたこと。これらが一気に押し寄せて、二人には卒業して貰ったんです」

――どうして編集が長引いてしまったんですか。

「僕は決して編集が遅いほうではないんですけど、計算違いがあったというか。『2009』は参加メンバーが5人で編集にかかったのは一カ月半だったので、プラス一人で6人だから2カ月ぐらいかなと。ところがプラス1ではなく×2乗みたいになっちゃったんですよ。しかもボールガールが二人いて、さらに×2乗となって、人間関係が複雑になってしまったんです。1~5位までと、1位~6位まででは、単純に数が増えるだけではなくて入り組んじゃうんですよ。そういうこともありつつ、とにかく素材が面白いんですよ。皆、女の子が次々と捕まっちゃうので情報量も多い。本当は2013年12月に発売するつもりが、どんどんずれ込んでいって2014年2月になった。僕も不器用な人間なので、その間は他に会社の仕事も出来ないんですよ。4カ月間、家で寝たのは2回、あとは会社の編集室に籠って寝泊まりしていたのが自慢なんですけど(笑)。寝る間も惜しんで編集に入り込んでいました」

――頭がおかしくなりそうですね(笑)。

「自分では平常通りだったと思うんですけど、周りはおかしかったと言ってましたね(笑)」

――劇場版のお話はいつぐらいに立ち上がったんですか。

「オーディトリウム渋谷の担当者が『2009』を気に入ってくれていて、まだ準備段階で『2013』の話をした時に、劇場版もお願いしますって言われていたんです。でもドキュメンタリーだから撮ってみないと分からないからと答えは保留にしていたんです。それで撮り終わって、確実に前作よりも面白くなったと確信したので電話をして『面白いです』と。『ただ問題がありまして、AVでは何の問題もないですけど、劇場でかけるには大丈夫かなってシーンもありますけど……』って訊いたら、『面白ければいいですよ!』と」

――劇場版の編集はどれぐらいかかったんですか。

「DVDの10時間バージョンを作って反省点は見えていたので、1週間ぐらいで編集しました。10時間は長すぎるし、思ったような編集が出来なかったので不本意な部分もあるんです。もっと話を詰めて8時間ぐらいにしたほうが面白かったのかなとも思うんですけど、どうしても切れなかったんですよ。劇場版は2時間しかないし、10時間バージョンのリベンジもあって、思い切ってタイトな編集を心掛けました」

――尺以外でAVと劇場版を意識的に変えた部分はありますか。

「素人女性の深い人生と、男たちの戦いを見せたいのであって、エロとグロを見せたい訳じゃない。その部分を劇場版は強調して編集しました。素人女性との出会い、恐怖とスリル、その後の人生模様、みたいな」

――オーディトリウム渋谷に話を貰う前から、松尾さんの中で劇場版を作りたいみたいな願望はなかったんですか。

「全くなかったですね。声がかかっていなければ10時間版のAVを出して終わり。カルトAVとして、AVファンの皆さんに観て頂いて終わりでしたよ。逆に言えばチャンスを頂けましたよね。最初は劇場版も1週間限定公開だったし、AVファンや僕の一握りのファンが毎回20人ぐらいシラーっと観て、たまにクスッと笑って、それで終わりかと思っていました。それでも初日と二日目はそこそこ埋まって、週末だったから平日になったら集客も落ちるだろうなと考えていたら、逆に三日目から満員でした」

――それはTwitterや口コミの影響ですか。

「まあTwitterが大きかったでしょうね。あとトークゲストが大根仁君や松江哲明君など豪華だったのもあったでしょうね。僕から皆さんにオファーしたんですけど、その時点で劇場版は完成していない訳ですよ。事前に完成版を見せていなかったにもかかわらずトークゲストに出て頂いたんです。僕からそういうお願いをするのは珍しいことなんですけど、電話口の切羽詰まった雰囲気が協力して頂いた皆さんに伝わったのかなと(笑)」

――それから徐々に火が付いて、全国にも拡がっていきましたが、その他に驚いた反応ってありましたか。

「エロメン(イケメンAV男優)みたいな扱いで『梁井さんステキ~!』とか、上映終了後に山ちゃんと記念写真を撮ったりとか、そうやって女性ファンがつくのは意外でしたね。逆に女性蔑視や女性軽視の声が上がるのではと危惧していましたからね」

――多少はTwitterなどでそういう反応もありましたよね。

「嫌悪感を抱く人も一定の数はいると覚悟していました。むしろ賛否両論の“賛”は予想していなくて、どうせ叩かれるんだろうなって思っていたぐらいで。90年代ってそういうところがあって、今よりAV業界の規模は大きかったけど、性の商品化は是か非かみたいな議論もあって。特にV&Rプランニングは山ちゃんの作品を筆頭に、そういう圧力もありましたからね。それが今回、ネットで一部に“否”があったとはいえ、それよりも圧倒的に“賛”が多くて驚きました」

――リピーターの数も話題になりましたよね。

「たぶん一回見てもルールを理解できない部分があると思うんですよ。あと友達を誘ってもう一回観るとか。中には100回以上観たって人もいて、絶対に僕よりも詳しいですよ(笑)。いまだに自分でも、ここまで当たっている理由が分からないんですけどね」

――『ロッキー・ホラー・ショー』みたいに劇場にいる皆で楽しむような雰囲気も話題になりました。

「そう言ってくださる方もいらっしゃいますね。2011年の東日本大震災以降、悲しみに包まれて自粛もあったし、わりかしエンターテイメントが沈下したじゃないですか。それ以降のエンターテイメントも大人しくなったし。その反動と言うか、揺り返しと言うか。アイドルを例に出すのも何ですけど、子供中心のAKB48に対して、大人の壇蜜が出て来たような反動って絶対にあるじゃないですか。映画もタイアップがどうのこうので誰も望んでいないようなツマらないものを観せられて、そういう映画で劇場は埋め尽くされている。シネコンも動員数によって上映期間が短くなるなどシステム化する一方の映画界にあって、『劇場版 テレクラキャノンボール2013』は全くの自主ですからね。しかも映画館に縛られず、ロフトや学園祭など変な場所でもやっていたりする。そういうことも含めて面白いものを欲していた時に、たまたま出てきちゃったというか、ずっぽりハマったというかね」

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