表現の自由か、風評被害か…『美味しんぼ』騒動の根幹にある“フィクションの境界線”


 だが同時に、同作は独自取材などを基に自然食品や本物のグルメなどの知識を盛り込んで人気を博した側面がある。さらに「福島の真実編」は連載開始時に『1年に渡る取材で見た、3・11以後の福島県の記録』とのキャッチコピーがつき、現実と密接にリンクしていることを強くにおわせていた。さらには前述の井戸川氏ら実在の人物も登場したことで、フィクションではなく「現実」と受け止められかねない要素がそろってしまった。ましてや、原作者の雁屋哲氏は「自分が福島を2年かけて取材をして、しっかりとすくい取った真実をありのままに書いた」と主張している。無論、同作及び連載誌は報道機関ではないため、科学的な検証をしなければ何も主張できないというのは暴論といえるが、もし同作にノンフィクションの要素があるなら「個人の主観」でデリケートな問題を描くべきではなく相応の根拠が求められる。約20万部の発行部数を誇る人気マンガ誌で連載となればなおさらだ。

 実際、地元テレビ局の報道によると福島市・飯坂温泉の関係者が「美味しんぼの表現を気にした保護者の反対で、県外の学校の団体客数百人が宿泊をキャンセルした」と証言しており、その影響は少なからず出ている。これは保護者のリテラシー問題もあるが、風評被害の一つと見られても仕方ない部分はあるだろう。

 『美味しんぼ』は原作者の雁屋氏の強烈な個性と迫力ある主張で人気を得た面が大きいが、そのワンマンぶりが暴走し、是非は別にしても「フィクションの境界線から大きくはみ出てしまった」ことが今回の騒動につながったといえそうだ。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops

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