出版社がやらないならファンがやる! エロ劇画の巨匠・三条友美の未収録作品集が出版されるまで

※画像:『アリスの家』「おおかみ書房.com」より

 先月末、エロ劇画界の巨匠・三条友美の単行本未収録ホラー作品集の第二弾『アリスの家』が発売された。三条友美といえば、80年代から本格的な活動を開始したベテランながら、驚異的な画力と徹底したSM描写、破天荒なストーリー展開で熱狂的に支持されたカルト作家の一人。多くのエロ劇画家が筆を折る中、現在も第一線で活躍しているという意味でも特別な存在だ。90年代には少女ホラーに進出し、数多くの恐ろし過ぎる傑作を描いた。熟女系エロ劇画誌「完熟ものがたり」(茜新社)で現在連載中の『人妻人形・アイⅡ』も、近未来SFとエロ劇画を融合させた凄まじい作風が一部で好評を得ている。

 そんな彼のホラー作品の中には、過激すぎる残酷描写などが原因で出版社が単行本化を見送った作品が多く存在する。本来ならそのまま埋もれてしまったはずの傑作たちを再び世に送り出したのは、出版社ではなく一個人のファンだった。エロ劇画をユニークな視点でレビューしている人気ブログ「なめくじ長屋奇考録」の運営者・劇画狼さんがインディーズ出版レーベル「おおかみ書房」を立ち上げ、大ファンである三条作品を自費出版したのである。

 自費出版といっても、装丁の美麗さや原稿の再現度においては商業出版に勝るとも劣らないデキ。今年3月に発売した第一弾の「寄生少女」は早々に完売し、年内のうちに第二弾の出版にこぎつけた。出版不況や表現規制などネガティブな話題が多いマンガ業界において、インディーズ出版という新たな地平は作家にとってもファンにとっても大きな可能性を秘めている。

 そんな新たな世界を開拓した劇画狼さんを直撃し、三条作品の魅力やインディーズ出版の展望などについて話を聞いた。

 
■収録作はホラーに偽装されたエロ劇画!?

──劇画狼さんにとって三条先生のホラー作品の最大の魅力は何でしょう。

劇画狼「少女ホラー誌掲載作品に限っていえば、まず皆さんが感じる通り『エロ劇画家としてブレる事なく、少女向けのエロ劇画を描いている』ということ。しかも、それを読者の少女達に『エロだとギリギリ気付かせない』という巧妙さで。大人になってから読み返すと、露骨すぎるほどエロ/SM漫画なんですが、それを連載当時の読者少女たちは『怪しげな魅力』程度にしか感じずに読み、しかし深層心理にきっちりトラウマを植え付けられているわけです」

──掲載誌のホラー漫画誌は10代少女の読者が多かったはずですからね。エロ劇画家がそんな彼女たちを騙してトラウマを植え付ける…悪夢のようですね。

劇画狼「三条先生も三条先生で『どうやって自分の描きたいエロをホラーに偽装するか』しか考えていない。とんでもない悪人ですよ(笑)」

──今回の「アリスの家」の収録作はどのようなテーマで選んだのでしょうか。

劇画狼「前作『寄生少女』では、三条先生の単行本未収録作品の中から、少女と蟲が登場するものを中心に収録作を決めたんですが、今回の『アリスの家』は、ただ純粋な『少女への暴力』です。お化けとか心霊現象とか、そういった『漫画として安心できる理由付け』が一切ないまま、ただ少女がひどい目にあっている。ひどい目にあったまま、納得できないまま、ただ話が終わる。この不安定な読後感をぜひ味わって欲しいです」

──何だか分からないものというのが一番恐ろしいですからね

 

1206sanjo_02.jpg※画像:「交霊ごっこ」(『アリスの家』収録)より

劇画狼「あと、これは三条先生のホラー全作品に共通する特徴なんですが『主人公が純愛と自己犠牲の末に取った行動が、考えうる全ての選択肢の中から常に最悪なものを選び出す』というものがあります。今回の『アリスの家』収録作中では、『花音の宝物』なんかにそれが顕著ですね」

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