官能劇画界の巨匠・三条友美のホラー作品『寄生少女』! ファンが自費出版するに至った経緯


──おおかみ書房の構想を伝えた時に、三条先生はどんな反応を示されたんですか。

「知識も経験もない状態でご挨拶に伺ったので、とにかくやらせてほしいと暑苦しく頼んだだけだったんですが、最初から丁寧に接してくださって。出版素人の僕を信頼してくださって原稿を預けて貰えました。しかも預かった原稿の中から、どれを選んで、どの順番に並べて、どういう単行本タイトルを付けるかまで、僕に任せてくれたんです」

──全く三条先生から注文はなかったんですか。

「唯一、三条先生からの要望は、表紙を描き下ろしで描いて頂いたので、それを印刷でキレイに出してくれと。もちろん、あれだけクオリティの高い絵を描いて貰ったので、何とかこっちも期待に応えようと努力しました。成功したかどうかは、単行本を見てもらえれば分かって貰えると思います。フフフ」

──三条先生は謎のベールに包まれている方ですよね。

「あんまり表に出ない方なので作品以外のことを話すのは控えたいんですが、昔から進化していないエロ劇画の中で、常に新しいことや面白いこと、今まで誰もやっていなかったことを考えている。それを会う度に仰っているし、実際に作品からも、それが伝わるので素晴らしいなと思いますね」

kiseishojo0424_03.jpg※画像:「アリスの家」
(『三条友美ホラー短編集第2弾(仮題)』収録予定)より

──三条先生は官能劇画家では珍しく、作画にパソコンも積極的に取り入れていますが、公式サイトやブログもないし、Twitterを始めたのも最近ですよね。

「たまたま始める機会がなかっただけみたいですね。それまでネット上では三条先生と全く連絡の取りようがなかったので、それこそ『人妻人形・アイ』の連載再開に関しても、編集者なり出版社なりに対して何か一つ窓口があった方がいいんじゃないですかという提案をした上で、『寄生少女』発売のタイミングでTwitterを始めて貰ったんです」

──『なめくじ長屋奇考録』の愛読者としては、劇画狼さんの記事によって『人妻人形・アイ』の魅力が多くの人に伝わった部分もあると思うんですが。

「僕は好き放題、勝手に感想を書いただけで、それのおかげで広まったというのは本当に内輪だけの話。『人妻人形・アイ』は読んで貰うだけでスゴさが分かるので、あくまで作品の力です。ただエロ劇画誌に掲載された作品とは思えないほど、いろんな方が紹介してくださって、ネットで話題にならないジャンルの漫画を最低限の話題にできたキッカケになったのかなとは思います」

──『寄生少女』の収録作品はどのように決めたんですか。

「三条先生との打ち合わせの中で『寄生虫を使ったエロネタはエロ雑誌に掲載NGを食らってしまったので、ホラー漫画に”偽装”させて描き直した』という話が出て。それが面白かったので、じゃあ全部『ホラーに見えるけど実はエロ本に載せるはずだった漫画』で一冊作ろうかと(笑)。ほとんど収録作はリアルタイムで読んでいたんですけど、改めて読んだら、これ本当に小学生も読んでたのかよってくらいエログロで。そして、発行人が言うのも何ですけど理解不能な話ばかり(笑)。もう、とにかくスピード感を付けて、勢いを止めないように最後まで一気に読んで欲しいなと。そして読んだ後には必ず三条作品独特の可愛さのとりこになるような作品選びと順番を意識したつもりです」

──ホラー以外の漫画を収録しようとは思わなかったんですか。

「今回は“未収録ホラー”にこだわりました。少し話は逸れますが、おおかみ書房が昔のエロ劇画や絶版になった単行本を復刻するんじゃないかと思われている方が多いんですよ。それは本来、出版社がやるべきことなので、自分の一番のモチベーションはそこになくて。やりたいのは、あくまで『商業誌に掲載されながら、単行本化に至らなかったもの』をまとめること。大手が単行本にするには採算が合わないけど、僕個人でやるのであればギリギリ何とかなるかも知れない作品を、埋もれる前にファンの本棚に届けることなんですよね。そういう意味で『ホラーM』休刊から3年経ち、三条先生のホラー短編を出すことに意味を持たせられるのは今がギリギリでした」

──販路はどうしようと思ったんですか。

「最初はネットで全部売ってやろうと考えていました。ただ、おおかみ書房を立ち上げると周りに伝えた時に、タコシェさんやまんだらけの方が協力したい、お店にも置かせてくれると言ってくれたので、それは是非お願いしたいと。スゴく良い表紙なので書店で実際に手にしてジャケ買いをして欲しいし、自分も一読者だったらジャケ買いするだろうなと。それでタコシェさんとまんだらけさんには委託販売をお願いしました」

──売れ行きはどうですか。

「当初は3~4ヶ月で1000部売り切ればいいかなと思っていたところが、ありがたいことに発売一ヶ月で完売間近です。そうなると早く売れて欲しいと言うよりは、三条先生の新刊が出たことを知らない人にも手に取って欲しいんですよね。そういう人に届く前に売り切れてしまうのも悪いなと思うんですけど、そこは難しいですよね」

──増刷は考えていないんですか。

「限定版と謳っていないので考えていないこともないんですけどね。ただ、やはり同じ資金があるなら、次の作品を出したいという気持ちが強いですね。実際、預かった原稿24本中、寄生少女に収録しなかった残りの12本を三条友美ホラー短編集第2弾として今年の10~11月頃発売に向けて動き始めています」

──それ以降も、おおかみ書房から出版予定はあるんですか。

「本職の合間にやっていることなので、あんまり先の話もできないんですが、現状では年間2冊がギリギリかなと。ただ、すでに公の場では言ってるんですが、三条先生の第2弾が出た後は、掟ポルシェさんの単行本未収録コラム集を出そうかなと思っています。実は第4弾も、皆さんをビックリさせるような作家さんの、あの作品を水面下で進めているんですけど、発表はもう少々お待ちください」

──今は『なめくじ長屋奇考録』が頻繁に取り上げるエロ劇画誌や実話系漫画誌だけではなく、一般漫画誌も次々と休刊になっています。そんな中で、おおかみ書房の試みは、ささやかながらも出版界に一石を投じたように思います。

「決して自分のやっていることは出版社に対して喧嘩を売っている訳ではありません。赤字覚悟ではなく、キッチリと利益を出せるように自分で一冊やった結果、出せない本は出せないなというのも分かりました。大手にできないことは僕にもできないし、赤字覚悟で発行して本当に赤字だったり、赤字を恐れてコストダウンした安っぽい本を作ってしまったら、恥をかくのは僕ではなく作家さんになってしまう。自分の儲けがどうとかいう話ではなく、やる以上は商業誌に負けない高品質なものを、小規模でもきっちり利益を出して『この人の漫画は売れる!』という実績を作家さんと一緒に作り、どんどん正規のルートで単行本が出版されるように大手を振り向かせるのが僕なりの応援方法ということです。昔から言っているんですけど『単行本を出たら買います』というのも応援の一つですが、その単行本を出すために、どうやって、その作家さん自身や連載を応援していくか、そこは常に考えていきたいですね。かつて僕は『別冊漫画ゴラク』(日本文芸社)で連載していた『任侠沈没』(山口正人)を連載再開させるため、独自に署名活動をしたことがあります。結局、希望は叶わなかったんですが、やるだけやって難しいなら自分が動くと。それが今回の『寄生少女』出版であり、こうやって三条先生の作品が絶えず単行本化され続けているということが、『人妻人形・アイ』続編連載に繋がっていって欲しいんですよね」
(取材・文=猪口貴裕)

『なめくじ長屋奇考録』
『おおかみ書房.com』
劇画狼公式Twitter
三条友美公式Twitter
参考記事『白取特急検車場【闘病バージョン】』

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