共感型の笑いに進化したハマカーンの『THE MANZAI』優勝は必然?

hamakan1217.jpg※イメージ画像:『ハマカーン in エンタの味方!
爆笑ネタBEST10』
TCエンタテインメント

 今年最も面白い漫才師を決める大会『THE MANZAI 2012 年間最強漫才師決定トーナメント!~栄光の決勝大会』(フジテレビ系)が16日行われ、ハマカーンが優勝した。総合司会を務めたナインティナインいわく、総選挙と日程が重なったため延期や中止が取り沙汰されたという同大会。しかし蓋を開けてみれば、昨年よりも平均視聴率を伸ばし(2011年=15.6%、2012年=17.3%/ビデオリサーチ調べ、関東地区)、選挙特番直前のスキマを見事に埋めた格好になった。投票率の低迷が叫ばれるとはいえ注目の総選挙当日、多くの人が自宅で過ごしていたのだろう。選挙の影に隠れて、話題性は決して高かったとはいえない今回の大会も、結果的により多くの人々に視聴されたことになり、優勝したハマカーンの今後が期待される。

 お笑いフリークの間では、神田うのの実弟として知られる神田伸一郎と、「ゲスの極み!」という豪快なフレーズで知られる浜谷健司というコンビのハマカーン。昨年大会でも決勝に残った2人だったが、同じ事務所でもあるHi-Hiのブレイクに隠れて、印象としては浜谷の怒号だけが先行し、コンビとして世間に認知されることはなかった。しかし、今年の『THE MANZAI』では、浜谷の怒号に加えて、それをサラリとかわす神田のひょうひょうとしたフェミニンなキャラクターが確立され、多くの視聴者に強い印象を残したことだろう。

 神田うのの実弟という事実が、お肌を気にする乙女や他人のアイスを欲しがる女の子という漫才中の神田のキャラにどこまで影響を及ぼしているのかはわからないが、そのキャラは、浜谷の声を荒げる男臭いキャラと見事に対象化されて笑いを生むことに成功した。特に、暴走する浜谷が、フェミニンな神田に肩透かしを食らったときにはひときわ大きな笑いが生まれた。ハマカーンのこういったキャラ設定は昨年と同じスタイルではあるが、「ゲスの極み!」に代表されるような浜谷の暴走が控えめになり、逆に神田のキャラが台頭したことによって、押し付けるような笑いから共感の笑いへと進化したことが優勝に大きな要因といえるだろう。

 決勝トーナメントを勝ち抜き、ファイナルラウンドに残った3組(ハマカーン、千鳥、アルコ&ピース)は、それぞれ昨年も決勝トーナメントに進んでいる実力派。しかし、その中で見事に進化したと思われるのは優勝したハマカーンだけだった。もちろん、千鳥の漫才も十分に面白いものだが、もはやスタイルは確立されており、大悟のキャラと突飛なストーリー展開という点は昨年ともまったく同じ。決勝トーナメントとファイナルでは、確かにより大悟のキャラは斬新になり、ストーリーも大きく飛躍したが、やはり既視感は否めないものだった。

 また、決勝トーナメントの1回戦では、審査員のテリー伊藤が「禁じ手。絶対に面白い」と称し、ラサール石井が「たくさんのネタを作ってきたが、気づかなかった」と無条件降伏、ビートたけしに「ネタ勝ち」とまで言わせたアルコ&ピースも、ファイナルでは、まったく同じスタイルのネタを披露。しかも、誰もが唸った「漫才を止めて“忍者になって巻物をとりたい”と相方が本気で思っていると勘違いする」という設定から“パイロットになりたい”と設定事態が矮小化してしまった。やはり1回戦で上がったハードルは高すぎたのかもしれない。

 たけしが言うように、「順位をつけるのが可哀想」なくらい決勝に進出した各コンビの漫才はどれもレベルが高く、またスタイルの違うものだった。そんな中、ハマカーンは、昨年からの進化も見せ、決勝当日の2本のネタもファイナルでより面白いものを持ってくることに成功した。優勝を勝ち取ったハマカーンには、これからも進化し続けてほしい。
(文=峯尾/http://mineoneo.exblog.jp/
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