人気アニメ『まどか☆マギカ』から見える萌えアニメ巨乳不要論

 巨乳。グラビアやAVなど現実世界であれば文句なしのエースなのだが、何故か萌え系アニメでは不遇のポジションが定位置となっている。

 かの有名な『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川書店)シリーズを例にすると分かりやすいだろう。原作のライトノベルは累計650万部以上を売り上げた大ヒット作。同作にはメインキャラ3人の一角に、推定G~Hカップの巨乳美少女キャラ、朝比奈みくるが登場する。いわゆるロリ顔に巨乳のグラビアやAVならば「鉄板」と評されるタイプ。個人的には小柄で巨乳、恥ずかしがり屋で優しい性格の彼女が大好きなのだが、悲しいかな巨乳であるがゆえに便利な道具とされてしまっている。

 もちろん、ストーリー上の重要な役割もあるが、基本的にはお色気要員かつ、いじられキャラ。特にハルヒの策略で男子生徒に胸を触られるなど、はっきり言ってイジメレベルの不遇な扱いを受ける。ほかのキャラのバストと人気に関して言えば、ロリ貧乳の長門有希がメインキャラ3人の中で一番人気で、同作のヒロインである推定D~Eカップのモデル系のハルヒが続き、みくるは最下位だ。

 そう考えると、最近の萌え系アニメでは、主役”級”ではなく、純粋な主役の巨乳キャラというのも萌えブーム以前と比較して少なくなっている。先の長門を代表例としてファンが多いのも貧乳ロリ系に偏りがちで、社会現象とまで言われるほどの人気を誇った『けいおん!』(芳文社)でも、最後にメインキャラに仲間入りした典型的なロリ貧乳の中野梓が一番人気となっている。極論ではあるが、巨乳サブキャラが一番輝くのは、エロ同人誌というのが現状である。

 そんな状況で今年前半のアニメ業界最大の話題作『魔法少女まどか☆マギカ』(TBS系)を見た時、今回の萌え系アニメ巨乳不要論を思い付いた。

 なんと、同作メインキャラ中で唯一の巨乳だった巴マミが、敵に首を食いちぎられて惨死するのだ。

 そう、便利な道具ではあっても必須だと思われていた巨乳キャラが第3話という序盤で死んだのである。

 ちなみに、この『魔法少女まどか☆マギカ』という作品は、タイトルにある魔法少女とかわいらしいキャラクターのイメージから、『魔法使いサリー』(テレビ朝日系)などのほのぼの作品と思われるかもしれないが、むしろ真逆。オカルト要素は満載だし、トラウマを呼び起こしそうなサイケデリック調作画の場面も多い。また、魔法少女となったら悲劇的な最期しかない設定の、俗に言う鬱アニメ。ダークファンタジーとも評される作品だけに、ある程度は予想されていたが、メインキャラの死は衝撃的だった。

 また、その人気はすさまじく、大手通販サイト・アマゾンのDVDランキングでは、発売前だというのに予約のみで上位6位を独占。続く作品は、かの映画版『ハリー・ポッター』(ワーナー・ブラザース)なのだから、その勢いはお分かりいただけるだろう。

 そして『魔法少女まどか☆マギカ』全12話を見終わって気がついたのだが、巨乳キャラである巴マミはお色気要員ですらないまま物語は成立したのだ。

 思い起こしてみると、ほかの作品でも巨乳キャラはお色気要員としては必須であったが、物語を成立させる上で巨乳であることは必須ではなかった。基本的に便利な道具であり、記号として巨乳であっただけなのだ。何より、純粋な主役には巨乳が皆無に等しいのも、制作側も受け取る側も巨乳キャラを便利な道具扱いしているからだと考えられる。

 それは、もともと定義があいまいな言葉であるが、純粋な気持ちでかわいらしいキャラクターをめでるはずの「萌え」と、巨乳が象徴する単純な「肉欲」が相反するからではないだろうか。

 自分自身にそういった部分があるので理解できるのだが、多くの熱心なファンはキャラクターに人格を認め、処女性を重んじている。ここにロリコンというキーワードが入ってくると、分かりやすくなるだろう。大人の女性とまともに対峙できず、都合良く自分を無条件に認めてくれる”はず”の純粋な少女に気持ちが傾くのだ。

 それに対して巨乳は肉欲の象徴だから、便利な性欲解消の道具と考えてしまいがち。結果、普通にスタイルが良いヒロインや、ロリ系貧乳キャラと比較したとき、巨乳キャラには最も重んじている純潔さを感じなくなってしまうのだ。それは一般的な感覚で言えばグラドルに対して「どうせ裏じゃヤリまくってるんだろう」と勘繰る劣等感に近い。

 つまり、本当に「萌え」を追求するならば、巨乳キャラによるお色気はそもそも不要だったのだ。巨乳がいることによって生じる、不遇な三番手に対してのわずかな憐憫の情や劣等感も感じさせる必要がない。今までのように便利な道具として扱い続けるとすれば、萌え系アニメに巨乳キャラは不要なのである。
(文=篠原克己)

『魔法少女まどか☆マギカ』

 
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