『たびじ 母と子 鏡麗子』鏡麗子

 もしも、父親の再婚相手が人気AV女優だったら? そして、その義母と2人きりで訳あり旅行に出かけることになったら?

 深いテーマ性を持つ、官能ドラマと人気熟女女優のコラボシリーズ『たびじ 母と子』に、遂に鏡麗子さんが登場。このシリーズは毎回、思わずホロリとさせられるが、今回はテーマが重厚で、ホロリどころかド感動。完全復活を遂げた平成の淫乱女王・鏡麗子さんが本当に良い味を出している。

 特に良いのは、表情と会話。人気AV女優が人妻になるとこんな感じなんだろうな、とシミジミさせられる実感のこもった台詞ばかりで、鏡さん自身の言葉なんじゃないかと思ってしまうほど。そして、自身の心情を義理の息子に話しているときの、切なくなるくらいに可愛らしい笑顔。AV女優であったことをあっけらかんと肯定し、後ろめたさなんかない、と言いながらもどこか寂しげで……。

 さて、鏡麗子さんをご存じないという方に解説を。鏡さんは2000年にデビュー。派手なルックスと強烈なまでのエロティックなオーラを持つことから痴女作品で大ブレイクした、元祖・女王様系女優だ。SMの女王様ではなく、いわゆる女王様キャラで、蛇足ではあるが、当時、筆者は彼女のことを『ときメモ(恋愛シミュレーションゲーム)』の登場人物の鏡魅羅の実写版と捉えて萌えていた。

 そのイメージも踏まえつつ、ぜひ、この作品を鑑賞していただきたい。傲慢美女が10年の時を経て、亡くなった夫の連れ子(義理の息子)に向かって、AV女優であった過去を堂々と語っていく。そして、息子が自分を特別な目で見ていることも承知の上で、再婚の話を切り出していく。息子に本音をぶつけていく横顔は、まるで何が何でも女の幸せを掴みたいとあがいている女の顔そのものなのだ。

 そんな健気な麗子さんと、義母の再婚に複雑な想いを抱えている息子との二人旅。ドラマティックでないはずがない。

 AV女優は女の幸せを掴むことはできないのか……。それとも一般女性とは違う特別な愛を得ることができるのか……。そのひとつの答えがこれだ。
(文=文月みほ)
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