ゾンビ、ミイラ、即身仏、キョンシーetc

「死人が年金を受け取る方法」を日本年金機構に聞いてみた

 先月29日に発覚した、世にも奇怪な一件の事件。夏の風物詩である怪談や、「本当にあった奇妙な話」以上の薄気味悪さに、背筋に寒気の走る思いをした方もいるかもしれない。生存していれば111歳で、都内最高齢となるはずだった、足立区在住の加藤宗現さん。彼と見られる、ミイラ化した遺体が、同居していた家族の住居から発見された。

 およそ30年前に死亡したと見られているが、正確な死亡日時は不明となっているこの男性。なんと、ミイラとなった後も、今年に至るまで、国民年金や、足立区の支給する「高齢者事業金」を受給し続けていたのだ。

 加藤宗現さんの家族は「三十数年前に閉じこもり、即身成仏したらしい」と、警察の取調べに対して話しているという。苦しまぎれの言い訳に登場した「即身成仏」。生きたまま悟りを開く「即身成仏」と、修行の一環に肉体の死を含む「即身仏」とを取り違えていた可能性はあるが、要はこの家族、「同居はしているものの、生きているか死んでいるは分からない」という、都合のいい理屈でいたことに違いはない。

 そういえば、死者が動き出すという伝承や信仰は世界各地にある。もし仮に、現実に「生ける屍」のような事態が起きたとしたら、年金の支給はストップされるのだろうか。また、仏サンでも、家族が「生きている」といえば、生きていることになるのだろうか。今年1月に、かの悪名高い「社会保険庁」から年金業務を移管された新機関、「日本年金機構」に聞いてみた。

記者 年金は何歳までもらえるんでしょうか?

日本年金機構 支給開始年齢である65歳から、生涯にわたって受給することができます。

記者 年金は死んだらもらえないですよね

日本年金機構  死亡の時点をもって、支給をストップすることとしています。

記者 どの時点で死亡認定するんでしょうか?

日本年金機構  死亡届が提出された時点で、死亡とみなしています。

記者 死亡届が出されなかった場合は?

日本年金機構 その場合には、支給が続くことになります。

記者 その場合には、200歳でも300歳でも、年金の受給は可能なんですか?

日本年金機構 原則的には、そういうことになっています。

記者 足立区で、約30年にわたり、ミイラ化した「即身仏」に対して年金を支給していたことが議論の対象になっていますが。

日本年金機構 当該の件は不当受給ということで、返還を求めていくことになりました。ただし、法律にしたがい、直近の5年間分のみ返還を求め、残りは時効となります。

記者 となると、25年間は「ミイラが年金を受給していた」という既製事実ができることになりますが。

日本年金機構 残念ながらその通りです。個人的にも、今回の事件にはショックを受けています。

記者 キョンシーやゾンビなど、実在の老人よりいきいきと動き回っている死体がいたとしても、年金は支給されない?

日本年金機構 あくまでも死亡届をもって、判断の基準としています。死亡届には医者からの死亡診断書が必要なので、死亡かどうかは医者が医学的に判断することになっています。

記者 即身仏として入仏する、といったような場合には、歴史的にも、死亡診断書を作成しないのが一般的ですが。

日本年金機構 その点についてはコメントできません。ただし、今回のような不正受給を食い止めるために、今後は住基ネットなどを通じた、「存在確認」を行っていく予定です。

記者 これまでも、民生委員など、地域の高齢者の現状を把握できる制度があったはずですが。

日本年金機構 制度が不十分で、今回のような不正受給事件につながってしまったことを反省し、さらに監視を強化していきます。

 結局のところ、不正受給として直近5年分の年金の返還を求めるほかはお咎めナシということらしい。これは、今年7月に、三重県で死んだ父親の恩給を不正受給し続けた男に、1,300万円の損害賠償と、懲役2年4カ月の実刑の判決が下されたこと比べてみても、対照的である(恩給と年金は、同じ社会保障でありながら別建てで運営されているので、このような違いが生じうる)。

 ただし日本年金機構も、これまでの「死亡と申告しなければ生存」という、性善説に立った年金行政からの脱皮は計画しているようであった。ゆくゆくは「ゾンビ探し」が、年金行政のうちの重要な業務のひとつになっていくに違いない。

 ちなみに、昨年のことになるが、読売テレビの番組『たかじんのそこまで言って委員会』の中で、読売テレビ報道局解説委員長の辛坊治郎が、「予言」という形で、このような事態を言い当てている。同番組中では、「住民基本台帳上の100歳以上の人口は4万339人だが、そのうち自治体が存在を確認できたのは2万1603人」という、驚くべき統計も紹介された。

 今回明るみになった足立区の事件は、氷山の一角に過ぎないという可能性が高い。

 ところで、テレビゲーム「バイオハザード」のように、「生ける屍」であるゾンビが襲いかかってくるような状況はとても恐ろしいが、あくまでも現時点ではフィクションのものである。しかし、我々の懐をおびやかす「年金ゾンビ」は、確かに存在しているのだ。ただでさえ現役世代には超高額な保険料負担が強いられている上に、死者を「即身仏」に仕立て上げ、食い物にする遺族まで存在するというオカシな現実。これこそ、「年金バイオハザード」と呼ぶにふさわしい、危機的状況なのではないだろうか。

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