セックス体験談|別れのピロートーク#3

「え! 許してくれるって言ったじゃん!」

「そうだけど、許さなかったらもう一回してくれるんでしょ?」

「もう一回!?」

「そう、もう一回」

「それはさすがに勘弁してー。顎が疲れるの」

 

 顎が疲れる。それでもモノをしゃぶり、僕をイカせてくれた。顎が疲れてまで、最後までしゃぶり続けてくれたのはなぜだろうか、とふと思う。やはり、ちゃんと遅刻の罪悪感があったからだろうか。

 

「そっか、疲れるよね。ありがとう」

 

 奢ったときにちゃんと梨香が感謝を告げてくれたように、僕も感謝を告げる。

 

「これで遅刻は許してくれる?」

 

 梨香が僕の手をぎゅっと握って言った。「もちろん」と言うと、梨香は気の抜けたような安堵した表情を見せた。

 それから、僕と梨香は歌を歌わずに、色々な話をした。

 僕が学校に行くのがめんどくさいという話をすれば、梨香は仕事が大変という話をした。それぞれの苦悩を打ち明け合うと、距離が縮まったような気がした。キスやフェラをした後にこういう話をするなんて、順序が逆だな、と思う。けれど、性的接触というお互いをさらけ出し合うような行為を見せたからこそ、こういった感情のさらけ出し合いができるのかなとも思う。

 

「だからさ、引越しは楽しみなんだけど、引っ越したらその会社で働き続けなきゃいけないような気がして、モチベーションが上がらないんだよね」

「そっか。引っ越しするって言ってたもんね。もうすぐだっけ」

「そう。あと二週間後かな」

 

 二週間後に梨香は一人暮らしを始める。そして僕と梨香は、キスやフェラをするほどの関係である。

 

「そっか。でも、梨香の家、俺行ってみたいな」

「そう?」

「うん。どんな家に住んでるか見てみたいし」

「そっか。じゃあ、引越しが落ち着いたら来ていいよ」

 

 梨香はあっけらかんとした口調で言った。僕と梨香の手はまだ繋がれている。

 

「マジで!? ありがとう。そしたら、引越しが落ち着いたら教えてね」

 

 うん、と頷く梨香と目があった。吸い込まれるように、僕らは唇を重ねる。

 もし、僕らが恋人だとしたら。この瞬間はとても美しいものなのかもしれない。

 けれども、僕らは恋人ではない。恋人ではないけれど、フェラ抜きが終わった後に手を繋ぎ、自然にキスをした。僕はこれまで四人の女性と付き合ってきたが、そんなことは恋人ともしたことがなかった。僕は恋人以上のことを、恋人じゃない梨香としている。

 当たり前のように舌が絡まり合う。僕の精子を受け止めてくれた舌を、僕は感謝をするように愛撫する。

 ぎゅっと、梨香が手を強く握った。そして「んん」と吐息を漏らす。

 僕と梨香はどういう関係なのだろうか、と思う。でも、この関係を定義した瞬間、僕らの関係が終わってしまいそうな気がして、その思考を打ち払う。

 だから、僕はこの関係が消えないようにと、ぎゅっと梨香の手を握り返した。それはまるで、いつかこの関係が終わってしまうということが前提になっているかのように。

 その日、僕らはまた、たくさんキスをした。

 曲は一曲も歌わなかった。

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