「夜這い」研究の第一人者・赤松啓介 民衆の性を観察し続けた戦闘的フィールドワーカー


 明治維新以後、当局は性について野蛮で下品なものと決めつけ、庶民が性を楽しむことに何度も攻撃を加え続けてきた。その一方で、戦争などで国民の人員が必要となると、「生めよ増やせよ」などと妊娠を奨励するようになる。まるで庶民を家畜か何かのように扱ってきたのである。

 これに対して、庶民は夜這いなどのシステムを整え、決められたルールの中で性を楽しみ、そして地域の規律を整備することに努力を続けてきた。赤松はこうした庶民の知恵を、『村落共同体と性的規範』『夜這いの民俗学』『夜這いの性愛論』などの著作によって精力的に紹介した。

 現代に生まれた世代ですら、「最近は初体験の低年齢化が進んでいる」とか「昔の日本では処女や童貞のままで結婚するのが当たり前だった」などと信じている向きが少なくない。だが、赤松の著作を読めば、それが体制側によって捏造されたデタラメであることが瞬時に理解できる。

 ちなみに、赤松を共産主義的な観点から庶民文化をとらえた左翼活動家のようにみる人がいる。だが、その一方で、赤松の関心はあくまで庶民文化であり、共産党に入党して活動したのはあくまで「そのほうが調査がやりやすい」という理由だったに過ぎないと考える人も少なくない。

 2000年3月に逝去。享年91歳。
(文=橋本玉泉)

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