「3000回セックスする」という条件で結婚したものの1年で挫折


 仕事が行き詰まりカネに困るようになった坂本は、こともあろうに保険金詐欺を順子に持ちかけた。保険外交員をしている順子に書類を作らせ、自分の親せきの家に放火して保険金をだまし取ろうとしたのである。驚いた順子が断ると、「僕のためなら命も投げ出すと言っただろう」などとおどす有様だった。田中は、こういう事態を予想していたのかもしれない。

 すると坂本は、何と恩人である田中からカネを盗めと指図した。これも順子は拒否したが、放火よりはマシだと結局は承諾してしまう。そして、田中の家から現金9万円を盗み出すと、そのまま全額を坂本に手渡した。昭和25年頃の9万円といえば、現在の価値になおせば200万円以上にはなるだろう。

 順子はてっきり、カネの問題が解消すれば元のように生活できると思っていた。ところが、現金を手にした坂本は、順子を残してそのまま失踪してしまったのである。

 だまされたと気づいた順子は、怒りと悔しさから田中のもとを訪れた。そして一部始終を打ち明けると、「ムシのいい話ですが、坂本を捕まえる手助けをしてください」と訴えた。

 その話を聞いた田中は、順子をつれて警視庁荒川署に出向いた。そして、「この女が私から9万円を盗んだ」と訴えた。

 田中は、怒りでそんなことをしたわけではなかった。すべては、順子を裏切った坂本を捕まえるためだった。実際、順子は取り調べで共犯が坂本であることを話し、それを受けた警察が坂本について調べ上げた。そして、長野県の実家に隠れていた坂本を逮捕したのである。

 この坂本の逮捕によって、事実上、「3000回のセックス満了による離婚」の契約は破たんしたのである。そして、かの「ノート」は所在不明となり、3000回の契約のうち、どれほど達成できたかどうかは最後まで不明だったという。

 ちなみに、3000回のセックスを消化するとしたらどの程度の時間がかかるか。毎日1回セックスしたとして、生理時には4日は控えるとして、月に25日、年間概算で100回だから、最低でも10年という計算になる。

 ただし、「セックス1回」とは何をもって基準とすべきだろうか。射精を1回と考えることが多いかもしれないが、女性のオルガニズムを1回とする考え方も可能だ。そうなれば、射精の回数とは関係なくなる。また、生理的な活動以外にも、「最初の動作から最後まで」のトータルを1回のセックスと考えることもでき得るだろう。セックスと同様に、セックスについて考え始めると、すぐに夜が明けてしまいそうである。
(文=橋本玉泉)

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