ファンも無関係ではない?

自殺・パンチドランカー・リング死・ギャラ未払い…格闘技残酷物語


 プロレスに目を向けてみると、2009年に試合中の事故で死亡した三沢光晴(享年46)や、05年に脳幹出血で急死した橋本真也(享年40)らスター選手の夭逝が目立っている。特に三沢選手の場合、頭から高角度で落とす危険技が当たり前になり、首へのダメージが蓄積していたことが死亡事故の大きな要因とされている。死亡事故にまで至らずとも、試合中の事故で日常生活にすら支障をきたす深刻な後遺症を負ったレスラーは多い。

 海外レスラーは筋肉増強のためにステロイドを服用している選手が多く、副作用によって心臓疾患や精神障害が起きるケースが多発。ステロイドが原因で突然死したといわれるレスラーは、テリー・ゴディ(享年40)、デイビーボーイ・スミス(享年39)、ゲーリー・オブライト(享年36)、ボビー・ダンカンJr(享年34)、カート・ヘニング(享年44)、ホーク・ウォリアー(享年46)、バイソン・スミス(享年38)など数え切れないほど。

 また、「ワイルドペガサス」の名で日本でも親しまれたクリス・ベノワ(享年40)や、「ザ・グラジエーター」ことマイク・アッサム(享年42)、WWEのスーパースターだったクリス・キャニオン(享年40)らは自殺しているが、ステロイドによる精神不安が遠因といわれる。

 映画『レスラー』(2008年)でも描かれたように、ファンが憧れる筋骨隆々の逞しいプロレスラーを演じるため、彼らはステロイド服用という”悪魔の契約”を結び、命を削ってリングに上がっているのだ。

 これらの問題の共通点として、選手の経済的な不安定さがある。

 ケガをすれば収入が途絶えるファイトマネー形式では十分な貯えができず、団体が傾けばギャラの未払いも起こりうる。実際、K‐1を主催していたFEGは多数の選手への報酬未払いが発覚し、グレイシー狩りで人気を博した桜庭和志(42)は2年以上もファイトマネーをもらっていないといわれ、彼だけで未払い額は数千万円とも。現在、業界のトップであった同社社長の谷川貞治氏(50)が多額の負債を抱えたまま雲隠れ中ということからも、格闘技界のいい加減さは窺い知れる。

 プロレス団体も安定した年俸制を敷いているのは一部のみで、生活のために副業を持っているレスラーが珍しくなくなった。経済的に潤っていなければ、肉体のピークを過ぎてもボロボロになった身体を押してリングに上がらなければならず、余計にダメージが蓄積される。格闘技もプロレスも一時の隆盛の見る影もない斜陽時代になっており、選手がファイトに見合う報酬を得られなくなったのも大きな要因だ。

 それだけでなく、深刻なダメージにつながる激しい打撃の応酬や危険な技をファンが求めているという事実もあり、選手が身体的・精神的に追い込まれていく現実に我々ファンも決して無関係ではない。格闘技ファンは、命を削ってリングに上がる選手たちの一瞬の命の輝きに魅せられているという残酷な事実を忘れてはならないだろう。
(文=佐藤勇馬/Yellow Tear Drops

『K-1 ワールドグランプリ 10年の軌跡(5)』

 
ご冥福をお祈りいたします

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