【女と男の隔たり】感情の読めない無表情な女

 黒い傘に茶色のニットワンピースを着たゆうか。むっちりとしたボディラインが服に浮き出ている。お尻が大きい。お世辞にも痩せてるとは言えないが、むっちりとした男受けするようなボディだ。

 黒の傘が動くと、時折ゆうかの後頭部が現れる。ロングヘアーはさらりとしており、後ろ姿はとてもきれいだ。ゆうかをバックで攻めてみたい、という欲求が湧き上がってくる。

 雨の中。初めて出会った男女が横並びではなく前後になって歩いている。会話はいっさいない。歩くスピードも遅い。とても不思議な時間を体験している気分になった。


「ここです」


 駅を出てから約20分くらい経った頃、5階建ての横長の大きなアパートの前でゆうかは足を止め、こちらを振り返ってそう言った。その顔を見て、やはりゆうかは後ろ姿美人であるなと思った。

 ゆうかの後をついていき、部屋に入る。洋室と和室が1室ずつあり、一人暮らしにしては割と大きめな部屋だった。


「部屋広いですね」

「でも駅からは遠いです」

「確かに。でも広い部屋は羨ましい」

「でも1人なんで、別に」

「別に?」

「広くてもそんなに、というか」

「うん」

「寂しいだけです」


 寂しいから僕を家に入れたんですか、という言葉を飲み込む。ゆうかが本当に寂しそうな顔をしていたら抱きしめようと思っていたが、彼女の表情は変わらないままで、何を考えているかそこからは読み取れなかった。


「そこのソファに座っていいかな?」


 ゆうかが何も言わず突っ立ていたので、僕はそう尋ねた。ゆうかがコクリとうなずいたので、僕はソファに座る。


「ゆうかさんも隣座りますか?」

「…」

「立ってるの辛くないですか?」

「…」


 呼び掛けてもゆうかは無言のままだった。そして無言のまま、その場に座った。


「あ、ごめん。ソファ座る? 俺、どくよ」


 ゆうかは何も言わず首を振る。


「でもなんか申し訳ないからさ」


 そう問いかけても、ゆうかは何も答えない。ただ何も言わずこちらを見ているだけだった。


「なんか申し訳ないから…俺も床に座るね」


 女性が床に座り、自分1人だけがソファに座っているという状況に耐えられなくなった。女性を見下しているように思えてしまうからだ。

 僕は床に座り、ゆうかと同じ目線になった。こちらの方が対等という感じがして心地良い。

 その後、床に座って色々と話しかけてみたけれど、ゆうかはほとんど無言だった。会話が苦手なのかなと思ったけれど、それにしてもほどがある。

 そんなゆうかはどんな仕事をしているのだろう。


「お仕事って、なにしてるんだっけ」

「…保育園で、給食作っています」


 確かにそれなら、あまり会話をする必要がなさそうだ。

 その後も色々と話しかけてみたが、全く会話が弾まなかった。メッセージの時と同じだ。だんだん面倒臭くなってくる。

 ゆうかと「会話」をしている感覚が全くなかった。全くないから、結局ゆうかのことがわからない。何を考えているか、なぜ僕を家にあげたのか。何を考えているか分からない人が目の前にいるのはものすごく緊張する。僕がいまから始めようとしている行為に、どんなリアクションをするか想像ができないからだ。

 僕はゆうかとの会話を諦め、体をズラして近づいた。ゆうかは動かないままだ。

 さらにもう少し近づいていく。今度は手が触れてしまいそうなほどの距離だ。しかしゆうかは何も言わず、微動だにしない。

 体を支えるために床に置かれたゆうかの手に、僕の手を重ねる。ゆうかはそれを拒まなかった。

 手を離して、ゆうかの背中に周り、後ろから抱きしめる。ダメとも、何してるのとも、ゆうかは言わなかった。普段ならこれを肯定と捉え、安心できるのだが、ゆうかは別だ。何を考えているか分からないから、抱きしめることを受け入れてくれたとしても安心はできない。

 勇気を振り絞って、少し強く抱きしめる。ゆうかは拒むことも受け入れる仕草も見せることなく、ただその場に座っているだけだった。まるで銅像だ。

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