【女と男の隔たり】感情の読めない無表情な女

「え、どういうことですか」

「そのまんまだよ」

「私の家?」

「うん。ゆうかさんの家に行ってみたかったんですよ」


 もう嫌われてもいいや、という気持ちだった。言わなければゆうかの家に行ける可能性は生まれない。もし断られたとしても冗談だと言ってしまえばいい、そう考えていた。


「そうなんですね」


 しかし、こういった男の軽ノリを女性は重く受け止めてしまうのかもしれない。この人は何を思ってるのだろうとか、私のことが好きなのだろうかとか、初めて会う人を家にあげるのってどうなのだろうかとか、断ったら何を言われるのだろうとか。男の軽々しい冗談は、そういったたくさんの悩みを女性に与えてしまうのかもしれない。


「ゆうかさんの家に行きたいなあ」


 今となればそんなことを考えることができる。でも当時は、女性とセックスしたいという気持ちでいっぱいだった。


「いいですよ」


 ゆうかからのたったの5文字の返信。この文面からは何に悩んだのかは伝わらない。はたまた悩んでいたというのは僕の妄想で、ゆうかは何も悩んでいないのかもしれない。

 けれども、もしゆうかが人からの誘いを断れないタイプだとしたら。相手の誘いを断ってしまうのは申し訳ないという罪悪感で「いいですよ」と言ってくれたことになる。

 僕はその罪悪感を利用しているということだ。断れない方に問題があるという言われ方をされてしまうこともあるが、断れないだろうと分かっていて頼む方も悪いのではないかと思う。

 しかし、そんな相手に対する気遣いや思いやりなんて、関係性の薄い人間の前では生まれない。僕とゆうかはネットでメッセージをやりとりしている”だけ”の関係だ。


「ありがとう。じゃあ、ゆうかさんちに行くね」


 電車に乗って1時間ほど、ゆうかの家の最寄駅に着いた。外に出ると雨が降っていた。

 傘をさしてゆうかを待つ。すると、黒い傘をさした茶色のニットワンピースを着ている女性が、ゆったりとした足取りでこちらに近づいてきた。


「ゆうかさん?」

「はい」

「隔たりです」

「どうも」


 眠そうな目に血色の悪い唇。ゆうかは幸の薄い顔をしていた。

 唯一の長所と言えるのか、茶色の長い髪は湿気の多い雨の日なのに美しく整っていた。きれいだ。いわゆる「後ろ姿美人」にカテゴリーされるタイプかもしれない。


「そしたら、行きますか」

「はい」


 直接会っても、ゆうかの返事はメッセージでやり取りしたような淡々とした感じだった。しかし今は顔が見えるので、幸の薄い顔のせいか、より元気がないように聞こえる。緊張してるのだろうか。


「緊張してますか?」

「…いえ」


 会話が弾まない。このままゆうかの家に行っても、楽しい出来事が起こるのだろうか。


「そしたら、家はどこにありますか?」

「あっちです」


 あっちと言うも、ゆうかはどこも指差したりしない。


「そしたらついて行くので、先歩いてもらっていいですか?」

「はい」


 ゆうかはノロノロと歩きはじめる。僕はゆうかの横に並ぶ。

 しかし、ゆうかの歩くスピードが遅い。横を歩いていると、すぐにゆうかの前に出てしまう。


「道がわからないので、ゆうかさんの後ろを歩きますね。ついていきます」

「はい」


 ゆうかの後ろに回る。ゆうかの後ろ姿を眺めながら、ノロノロと歩くゆうかについていった。

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