【女と男の隔たり】挿入手前までの関係:後編

 待ち合わせの駅の改札を出ると、駅内の大きな柱にもたれかかっている真央を見つけた。真央は相変わらず目が細くて、遠くから見ると寝ているようにも見える。

 僕はゆっくりと真央のいる方へと歩く。近づいても真央の方は全く気付いたそぶりを見せない。本当に寝ているのかもしれないと思うとおかしくなって、僕は早歩きで近づき真央に声をかけた。


「ごめん、お待たせ」

「あ、隔たり」

「けっこう待った?」

「そんなにだよ」


 真央の返事は何だかそっけなかった。僕が声をかけるまで本当に寝ていたのかもしれない。

 今日の真央は白のワンピースを着ていた。初めて二人でデートしたときの赤のワンピース姿の時と、ガラッと雰囲気が変わっている。とても清楚な雰囲気を醸し出していた。


「とりあえず、この間はごめん」


 僕は1週間前に二日酔いでドタキャンしたことを謝罪する。もちろん理由は言わないけれど。


「ぜんぜん大丈夫だよ」


 そう言う真央の声色は暗かった。怒っているのかもしれない。僕は改めて、何度も謝罪する。


「ぜんぜん大丈夫だって」


 真央は目を細めて笑った。


「じゃあ行こうか」


 歩き出す真央の後ろをついていく。真央が先週ドタキャンした件についてどう思っているかわからないが、この後はセックスをする予定のはずだ。だから少しでもいい雰囲気にしておきたい。僕は前を歩く真央の手を、後ろからさりげなく握った。

 すると、真央は何も言わずに僕の手を受け入れた。真央の手は温かい。手のひらから伝わる体温だけではなく、真央の身体中の体温に触れたいと、股間が少し反応する。


「あのね」


 不意に真央がそう口にした。思わずそちらを振り向くと、真央は下を向いていた。


「今日ホテルに行くんだよね?」


 真央は言葉を地面に落とすように、そう呟く。


「うん。そういうつもりで来たけど」

「行き先…変えていい?」

「え、どこに行くの?」

「それはね」


 真央は下に向けていた目線を上げて、しっかりと正面を見た。僕の方は向かなかった。自分の中で何か覚悟を決めたような表情だ。


「私の家にしたいんだけど、いいかな?」


 え、と思わず声が漏れる。行き先を変えていいと言われ、今日はセックスできないのかと諦めるところだった。むしろ家なら大歓迎だ。真央の家がどんななのか興味があるし、何よりホテル代を払わなくてセックスができる。

 僕は真央の細い目に目線をあわす。真央はこちらを見ないで正面を見たままだったけれど、僕は微笑みながら声を明るくして言った。


「もちろん大丈夫だよ。真央の家に行けるなんて嬉しい」


 その言葉に真央はこくりと頷き、一瞬僕の方をチラリと見たあと、再び目線を前に戻した。僕の方を見ないから少し怒っているのかなと思ったが、もしかしたら恥ずかしいのかもしれない。怒っていたら家に行こうなんて言わないはずだ。そう思うと、なんだか可愛らしいなと思えてきた。

 真央の家は想像以上に狭かった。ベッドが部屋の半分を埋め尽くしている。ベッドのない半分のスペースはテレビと机が占めており、部屋の中を歩く動線が狭かった。そのベッドと机の間にあるわずかな空間に僕は座り、真央はベッドに腰掛けた。


「狭くてごめんね」

「ぜんぜん大丈夫だよ。むしろ家に上がらせてくれてありがとうだよ」

「それなら良かった。ホテルはなんか…」


 真央はそう言って黙った。何か言葉を探しているようだった。


「なんかって?」

「…ううん。なんでもない。ホテルよりも家がいいなと思っただけ」


 真央がなぜホテルから家に変えたのか。二人きりの密室ということは変わらないし、むしろ家の方が場所を知られてしまうというリスクがある。ホテルから家に変えるメリットは、お金がかからないという面しか思いつかない。真央は今、お金に困っているのだろうか。色々と想像したけれど、これといった答えは出なかった。

 とはいえ、いま僕は真央と密室で二人きりだ。真央の理由がどうあれ、セックスするという状況が消えたわけではない。

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