「俺も大学生の時に●屋でバイトしてたんだ」
「え? 私も●屋です」
「凄い偶然だね。俺がバイトしてたのはもう20年も前だけどね」
本当は30数年前のことだが、素早く計算して年齢のつじつまが合うようにして伝える。
「本当に凄い偶然ですね」
「うん。俺は夜10時から朝8時までの夜番のシフトだったんだ」
「えぇっ。凄いですね」
「だいたい週に5回くらい働いてたから、学校になかなか行けなかったよ」
「え?」
「朝8時に終わって家に帰るでしょ。そしたら、1限目に出る気力なんて残ってなかったんだ」
「その時間帯だったらそうかもしれませんね」
「セイコちゃんは大丈夫? あまり無理したら身体を壊しちゃうよ」
「へ、平気です。そこまでぎっしりシフト入れてないですから」
「それなら良かった。あぁ、でも懐かしいなぁ。よくオリジナルの賄いを作って食べてたよ」
「どういうのですか?」
「今は分からないけど昔はチキン定食ってのがあってね。それだけタレが違ったんだ。そのタレで牛焼肉定食の肉を焼くのが好きだったんだ」
「へぇ、そうなんですか」
「セイコちゃんはそういうことしないの?」
「たまに賄いを食べますけど、社員さんがいるのでそういうのはできないですね」
「それもそうか。俺の場合深夜だったから、社員なんていなかったしね」
思いのほかバイトの話が弾んでしまった。最初は緊張していた様子のセイコちゃんだったが、この共通点のおかげで打ち解けてくれたようだった。
「今日も●屋でのバイトだったの?」
「いいえ。今日はテレアポのほうでした」
「テレアポのほうは肉体よりも精神的に疲れそうだね」
「はい。まだあまり慣れてないので…」
「そのテレアポのバイト先が池袋だったの?」
「はい。そうです」
本当は彼女がどこの●屋で働いているのか聞きたかった。
池袋駅西口の目の前にある●屋には、30数年前にヘルプという形で筆者も何回か働いたことがある。テレアポのバイト先が池袋なら、セイコちゃんもその西口店の可能性が高い。
しかし、ぐっと我慢。初対面であまり立ち入ったことを聞くのはマナー違反だ。それに、彼女からしてみたらバイト先の場所を聞こうとする筆者に恐怖感を覚えるかもしれないからだ。
こうして楽しく会話しながらラブホテルに到着した。