【女と男の隔たり】挿入手前までの関係:前編

「よかったら、これからホテルいかない?」


 すると、真央の手がピタリと止まった。膨らんだ股間の上に手が重ねられたまま、真央はじっとしている。


「真央?」


 顔を覗き込むようにそう問いかけると、真央は股間から手を離した。そしていつものように目を細めながら、


「ホテルは今度会ったときでいいかな?」


 と言い切った。


「今度?」

「うん。今日は、帰ろう」


 そう言い切る真央の声は力強かった。

 今までは柔らかく、僕の言うことだけを聞いていた真央。股間に触れるときと、そしていま、ホテルを断るときだけは彼女自身の意思が強く表れていた。

 本当はこのままホテルに行って泊まりたい。でも、僕には真央のその言葉を覆せるような言い訳なんてなかった。


「そっか。そしたら今日は帰ろうか」


 けれども、ホテルに行くこと自体を断られたわけではない。真央は「今度」と口にした。つまり、次に会うときはセックスできるということだ。

 セックスができる。その確約を得れただけで十分だ。なんなら、セックスをする時よりも、セックスができると確信したときの方が嬉しいから。


「ごめんね。今日は家に帰る」


 真央がそう言ったので、僕はベンチから立ち上がろうとした。

 すると、真央が僕の手を握った。真央は立っていない。


「え?」


 そう声が漏れた瞬間、真央は僕を自らの方へと引いた。その動きに合わせて、僕と真央の唇が再び重なる。

 その勢いのまま、上から被せるように重なった唇の中から舌を出し、真央の口の中へと深く絡ませていく。真央は少し顎を上げ、まるで餌を欲しがる魚のような姿で、僕のキスを受け入れた。

 今日はホテルに行かない。けれども、キスはしたい。真央はキスが好きなのだろうか。

 僕が立ち、真央が座った状態でのキスをしばらく続ける。すると、再び真央は僕の股間を撫で始めた。興奮してしまった僕は手を伸ばし、真央の胸に触る。真央は抵抗せずにそれを受け入れた。

 今日はホテルに行かない。けれども、胸を触るのは大丈夫。

 僕は真央の中の基準がわからなかった。そう思いながら、真央の胸を服の上から揉む。Cカップほどの小さくも大きくもない胸は、僕の手のひらにしっかりと収まった。その手で円で描くように揉むたびに、真央の口から吐息が漏れる。


「あん…はあぁ…」


 帰ろうと言ったのに、キスを求める。吐息を漏らすのに、ホテルには行かない。

 僕は股間を触られ、胸を触り、舌は卑猥に交わっている。けれども、ホテルには行かない。膨れ上がる欲望の落とし所がわからなかった。

 互いを貪るようなキスを続けていると、突然、誰かの話し声が聞こえた。びっくりした僕らは急いで唇を離し、何事もなかったように離れる。どうやら、道の向こうから何人か歩いて来ているようだった。


「そしたら、帰ろうか」

「うん」


 いま思えば、キスをしている間に誰も通らなかったのが奇跡だ。僕は大きくなったモノを、外からわからないようになんとかパンツの中に収め歩き出す。真央も何事もなかったように、赤いロングワンピースをひらつかせる。


「今度って、いつ会えるかな?」

「…わからないから、また連絡するね」


 夜の公園の道を歩いていく。ホテルに行く日を早く決めたかったが、真央は「また連絡するね」と言った。本当にホテルに行けるのだろうか、という不安が襲いかかってくる。そのホテルだけは、なんとしてでも必ず行きたい。


「そしたらさ、手を繋いでいい?」

「うん、いいよ」


 少しでもホテルに行ける可能性を感じていたい。手を繋いでいれば、なんだかホテルへの道へと繋がるような気がした。手の平から伝わる体温は暖かい。早くこの手に直接しごかれたい、と思う。

 公園を抜け、住宅街に出て、駅にたどり着いた。駅に着いても僕らはしっかりと、いや、僕だけはしっかりと真央の手を握っていた。まるで、今日のキスだけで終わらしたくないというふうに。


「そしたら気をつけて帰ってね」


 お互い違う電車に乗って帰るので、改札前でお別れだ。


「うん、今日はありがとう。隔たりも気をつけてね」


 僕らは手を離し、軽く手を振り合う。


「今度ホテ…いや、会えるのめっちゃ楽しみにしてるね」


 「ホテルに行くの楽しみにしてるね」とは言い切れなかった。なぜなら、ホテルと口に出そうとしたとき、真央がふと悲しげな表情をしていたからだ。


「うん。私も会えるの楽しみにしてる」


 そう言葉を交わして、僕らはそれぞれの帰路に着いた。

men's Pick Up

人気コンテンツ関連トピック