【女と男の隔たり】挿入手前までの関係:前編

「あのさ、真央」


 僕は真央の目を見た。真央の目は相変わらず細いが、いま僕を見つめているその目は微笑みに溢れていた。やっぱり優しい子なんだな。その優しさに、期待を、希望を、抱きたくなってしまう。


「あのさ、手…」


 僕が「手」と発したと同時に、真央が「手?」と自分の手のひらを見つめた。まだ言葉を言い切ってないのに、自分の手を見つめる純粋さがなんだか愛おしくて、緊張していた言葉がすんなりと口から出た。


「真央、手、繋ごう」


 僕はそう言って自分の手を差し出す。真央は「えっ」と戸惑いながらも、緊張した面持ちで僕の手に触れた。


「暗いから、迷子にならないように手を繋がなきゃね」


 添えられた真央の手の指の間に、僕は自分の指を順々に絡めていく。


「迷子って、私たちふたりきりじゃん」


 迷子という言葉を使ったのを不思議に思ったのか、真央が笑う。僕と真央の手はもうすでに、恋人のように繋がれていた。


「これで迷子にならないね。さあ戻ろうか」


 逃さないように、真央の手をぎゅっと強く握る。同じように、真央もぎゅっと握り返してくれた。

 真央の手の平から伝わる体温が暖かい。その暖かさが僕の体の中に侵入していき、体が熱くなっていく。女性と手を繋ぐことは、自分を受け入れてもらえたような気がして嬉しい。真央は僕のことを少なからず好意的に思っているはずだと、信じることができる。

 手をしっかりと繋ぎながら、来た道を戻って行く。夜の風が吹き、木々が揺れる。ぶつかり合った葉と葉がカシャカシャと音を奏でる。夜中に奏でられたその音は不気味だが、真央と手を繋いでいるから怖くない。

 ふたりきりの、ふたりだけの、不思議な空間。


「あ、こんなところにベンチがある」


 道を半分戻ったところで、不意に真央がそう口にした。

 真央が見ている方に目線をやると、そこにはベンチがあった。そのベンチは3段ほどの小さな階段を登ったところにあり、草で隠れていたので、意識して横を見ないと気づかない。


「座る?」


 公園に行こうと自ら言い出したが、そこに行って何をするかということは考えていなかった。恋愛映画のようにできればキスがしたいな、という淡い期待はあったが、そこに持っていくまでのプランは全く思いついていなかった。

 そして正直なところ、キスよりも真央とまだサヨウナラをしたくないという気持ちが強かった。


「うん、座ろうか」


 僕と真央は小さな階段を登り、ベンチに座った。道の方から見たら、下半身は植木で隠れている。その隠れているという状況に、僕の股間はどうしようもなくうずき始める。


「なんか不思議な空間だね」

「そうだね」


 僕らはそう言葉を交わしたきり、そのあと何も言葉を発しなかった。木々が揺れ、車の走る音が聞こえる。ときおり、目の前の道を人が通ったが、こちらを見ることはなかった。

 横の真央も僕と同じように正面を眺めている。足をブラブラと揺らしたり、スカートの裾を直したりはするが、言葉を発さない。

 その何気無い仕草を見ていると、真央と目があった。僕はなんだか恥ずかしくなって、視線を下へとそらす。真央の唇は月明かりに照らされ、美しく光っていた。

 キスをしたい。その衝動が、僕の身体中を駆け巡る。


「真央」

「ん?」


 真央が首をかしげる。細い目が印象的な真央は、お世辞にも可愛いとは言えない。しかし、穏やかな雰囲気や優しい声が僕の心を引きつける。

 そして、今は夜中だ。

 セックスをするときに部屋の照明を暗くすることがある。それは女の人が体を見られるのが恥ずかしいというのもあるだろうが、男側からしたら、可愛いとは言えない女の子の顔を見ないためとも言えることができる。顔を見てしまうと、萎えてしまう恐れがあるからだ。

 真っ赤なロングワンピースや、少し濃い色をした赤色の唇が暗闇の中に浮かび上がっている。そのせいか、暗闇という状態の後押しによる真央の表情は美しかった。長い黒髪が、艶のある雰囲気をより醸し出している。僕はこの真央を抱きたい、と無性に思った。


「そう言えばさ」


 僕は意を決して口を開いた。いま、真央とキスがしたいから。


「今日見た映画にさ、公園でのキスシーンがあったよね」


 真央の目をじっと見つめる。今度は恥ずかしさで目を逸らさないように、ケモノ感が出ないように、優しい眼差しを向ける。

 「うん」と真央は軽く頷く。「あったね」と呟いた真央の声は優しく、そして何かの意味を含んでいるようにも聞こえた。

 同じことを考えていて欲しい、と心から願う。


「だから、俺らもしようか」


 真央の背中に腕を回し、僕はゆっくりと顔を近づける。真央は動かない。そのまま、僕と真央の唇は優しく重なった。真央の唇は柔らかくて、大人の口紅の味がした。

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